【LBFF】テトロ

フランシス・フォード・コッポラ、健在なり!!

※「テトロ 過去を殺した男」のタイトルで、2012年1月7日よりシネマート六本木、1月14日よりシネマート心斎橋で公開決定!

今年のベネチア国際映画祭の金獅子賞(最高賞)の栄誉に浴したソフィア・コッポラ。これまでの彼女には、名匠フランシス・フォード・コッポラの娘、という枕詞がまとわりついていた。だがベネチアの栄冠によって、父と娘の立場は完全に逆転したように思えた。つまりこれからは、フランシス・フォードが「ソフィアのパパ」とか「パパ・コッポラ」などと本格的に(?)呼ばれる立場になるのではないか、ということだ。確かに最近のパパ・コッポラには、これ!と言った代表作がない。『地獄の黙示録』『ゴッドファーザー』3部作などの名作を世に送り出してきた巨匠も、21世紀に入ってからは『コッポラの胡蝶の夢』を監督したきりだ。


だが、今年のラテンビート映画祭で上映された『テトロ』では、パパ・コッポラの健在ぶりを見せつけられた。ブエノスアイレスを舞台に、20歳ほど年の離れた兄テトロ(ヴィンセント・ギャロ)と弟ベニー(オールデン・エーレンライク)の葛藤を描いた物語だ。高名な指揮者(クラウス・マリア・ブランダウアー)を父に持つ兄弟だが、兄はある衝撃的な事件から家を飛び出し、本来の名前を捨て「テトロ」と名乗り、家族の存在を否定。久しぶりにブエノスアイレスを訪ねてきた弟のことを、周囲に「友人」などと紹介し、ベニーは不満を募らせる。

ストーリーのほとんどは、光と影の濃淡がはっきりとしたモノクロの映像で、テトロの不安定な心、ベニーの兄の秘密に迫りたいという焦り、テトロの恋人ミランダ(マリベル・ベルドゥ)のテトロへの細やかな愛を浮き彫りにする。逆に回想シーンがカラーで綴られているのだが、その対比も美しい。実は、カラーのシーンがこの物語の肝となっており、ある巧妙な仕掛けによって、兄弟の過去が明らかにされる構図にも唸らされた。

音楽の使い方にも心をくすぐられる。コッポラは、『地獄の黙示録』ではワーグナーの〈ワルキューレの騎行〉を、『ゴッドファーザー PARTⅢ』のラストではマスカーニ作曲〈カバレリア・ルスティカーナ〉の間奏曲を使用するなど、クラシック音楽の使い方がとても上手い。本作でも、バレエ音楽〈コッペリア〉やブラームスの〈交響曲第1番〉を効果的に使用。特にブラームスは、父親の葬式のシーンで使われ、第1楽章の冒頭の、荘厳だが荒々しく、不安を掻き立てられるような旋律は、ベニーの心に渦巻いた猜疑心や絶望に、非常にマッチしている。

本作は、いわゆる大作ではない。だが、1シーン1シーンを繊細に重ね合わせたような印象で、丁寧につくられている。そしてテトロとベニーの感情のうねりが、ラストに向けて集約されていく様子は見事で、見終わった後に、思わずため息を漏らしたくなるような満足感に包まれた。本作ではコッポラは脚本も担当しているのだから、その才能は少しも衰えていなかったことに嬉しくなった。「パパ・コッポラ」などと揶揄しては失礼だし、もしかしたら、コッポラ自身も、娘にはまだ負けん・・・と対抗心を燃やしているのかもしれない。父と娘で競い合いをしてもらい、より高いレベルの映画が生まれるとしたら、映画ファンにとってこれほど喜ばしいことはないだろう。

Text by:富田優子
オススメ度:★★★★★

原題:TETRO
製作年:2009年
製作国:アメリカ・イタリア・スペイン・アルゼンチン
製作・監督・脚本:フランシス・フォード・コッポラ
出演:ヴィンセント・ギャロ、オールデン・エーレンライク、マリベル・ベルドゥ、クラウス・マリア・ブランダウアー、カルメン・マウラ

公式サイト:第7回ラテンビート映画祭

『テトロ』公式サイト・予告編: http://www.tetro.com/


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