ハーフ・デイズ
米国独立記念日の7月4日、ミュージシャンのボビー(ジョゼフ・ゴードン=レヴィット)とダンサーのケイト(リン・コリンズ)の若いカップルは、ニューヨークのブルックリン橋の真ん中に立っていた。人生の一大事に関して結論を出さねばならないふたり。ある行動をコインの表裏で決めようと投げた瞬間、ふたりはマンハッタン側とブルックリン側の、それぞれ反対側の方向へ走り出し、ふたつの一日「イエローバージョン」と「グリーンバージョン」が動き出す。
そのふたつは、対照的な一日だ。「イエロー」では、マンハッタンでひょんなことから、ふたりが謎の犯罪組織に追われるという、サスペンスな展開にドキマキする。他方「グリーン」では、ブルックリンにあるケイトの実家の集まりに参加し、穏やかなひとときを過ごすが、家族の問題に直面する。
この並行するふたつの一日を紡ぐ構成が、とても自然でいびつさがない。まるで、メビウスの輪のように、表側をなぞっているつもりなのに、いつの間にか裏側になっているような感覚で交互に登場する。ちなみに、今、スクリーンに映っているのは、どちらのバージョンか?というのは、分かりやすい。「イエロー」の場合は、ふたりが乗り込むタクシーは黄色で、ふたりが着ている服もイエロー系。「グリーン」のほうも、ケイトの車はグリーンだし、ふたりの服(とボビーの下着)もグリーン系で統一されている。色を頼りにすれば、容易に見分けられるだろう。
ふたつの一日を通じて試されたのは、ふたりの“愛”だ。「イエロー」では、追っ手から逃れるために、ふたりは知恵を絞った。「グリーン」では、ケイトの家族問題とも絡み、自分たちの夢の継続に悩んだ。ふたつの一日ともに、愚痴っぽくなったり、イラッとしたり、些細な気持ちのズレもあった。ボビーもケイトも完全無欠ではなく、ごく平凡な人間。長所もあれば、短所もある。どんなに好きな相手でも、腹立たしく思うことや欠点を感じることは、誰でも経験があるだろう。そんなごく普通の恋人たちの心の動きが、よく表現されている。ここで特筆したいのは、本作には脚本らしい脚本がなく、ジョゼフ・ゴードン=レヴィットやリン・コリンズはじめキャストの即興演技で成り立っているということだ。即興だからこそ、偶然に生じた会話や仕草に、観客が共感したり、ムカッとしたりする度合いが大きいのかもしれない。
そんなふたつの一日のふたりを見ていると、愛はちょっとしたことで壊れることを改めて思う。でもその反面、崩れるのを防ごうとする強さも併せ持っていることも伝わる。それはまるでコインのように表裏一体。「イエロー」のふたりも、「グリーン」のふたりも、人生の一大事に対する結論は、必ずしもすっきりしたものではなく、曖昧だ(原題の“UNCERTAINTY”も不明確とか曖昧という意味がある)。でも、相手に対するあらゆる感情-苛立ちやいとおしさも含めて-が確かなものなら、乱暴な言い方だが、なるようになる。ある意味前向きで、シンプルな答えが浮かび上がり、心地よくラストを迎えられる。
その心地よさを後押しするのは、ラスト、ふたつの一日を混ぜ合わせるかのように、ニューヨーク市街地を周回する空撮だ。市街地を挟むように流れるハドソン川とイースト川の青。そして空の青が、清々しさを増幅させている。
▼作品情報▼
監督・脚本・製作:スコット・マクギー、デヴィッド・シーゲル
出演:ジョゼフ・ゴードン=レヴィット、リン・コリンズ、アサンプタ・セルナ
アメリカ/2009年/約101分/ビスタサイズ/カラー/英語/原題:UNCERTAINTY
配給:アットエンタテインメント
公式サイト:http://www.at-e.co.jp/2012/1-2days
(C) 2009 Uncertain Partners LLC
8/4よりシアターN渋谷、ほかにて公開!
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