2025年2月イスラーム映画祭10が開催!
2025年2月20日(木)から渋谷ユーロライブを皮切りに、東京・名古屋・神戸の3都市にて『イスラーム映画祭10』が開催される。2015年12月にスタートし、今回で10回目となる。今戦乱の苦難の最中にあるパレスチナ映画はもちろん、日本ではなかなか観る機会がなく、また政情不安や内戦が続きながらも滅多に報道されることがない、サブサハラアフリカ(サハラ砂漠以南のアフリカ)、サヘル(サハラ砂漠の南縁)地域の最新映画の小特集も組まれている。
イスラーム映画祭では、これまでにも欧州諸国に暮らし移民にルーツを持つムスリムの若者たちに焦点を当てられてきたが、今回は南アジア系移民が多いイギリス映画が取り上げられている。パキスタンルーツのイギリス人俳優にしてラッパーでもあるリズ・アーメッドが自身のアイデンティティを投影して描いた、『モーグル・モーグリ』は日本初公開となる。また、「ボスニア紛争」の終結から30年の節目ということから、紛争中に処刑された夫と息子の遺体を捜すムスリム女性を描いた貴重なボスニア映画『ハリーマの道』も本邦初上映となっている。チュニジア、セネガル、ドイツ、イラン、インド、パキスタンと、日本初公開7作品を含む“国際映画祭”にも負けない多種多様な12作品が上映される。
また今回も上映後、世界各地の“今”を語るに相応しい気鋭の研究者によるトーク・セッションも11回にわたり開催される。映画の理解がぐっと深まり、世界の“今”を知る貴重な機会であり、「終わらない戦争」「終わらない差別」について考えるきっかけとなることだろう。
地域別作品紹介
北アフリカ
スーダン
『さよなら、ジュリア』(2013)【日本初公開】
ムハマンド・コルドファーニー監督
スーダンは、16世紀ころまではキリスト教の勢力が強かったところであり、今でもその信仰が根強く残っている。また、北のアラブ系住民と南の非アラブ系住民が英国からの独立以来続き、それがダルフール地方のジェノサイドを引き起こしたことは、あまりにも有名である。2011年に南スーダンとスーダンに国は別れたが、これはそれ以前の原点に立ち返った物語であり、北部人のムスリム女性と、南部人のキリスト教徒女性が主人公になっている。2023年から始まった内戦は、誰が敵で誰が味方か、あまりにも混とんとし過ぎており、終わりが見えない。それゆえに今こそ原点を見つめ直すことに意義があるのではないだろうか。
チュニジア
『チュニスの切り裂き男(シャッラート)』(2014)【日本語字幕付初公開】
カウサル・ビン・ハニーヤ監督
1987年ベン・アリ大統領の就任以来、圧政が続いていたチュニジア。これは2011年のアラブの春からまだ間もない頃に作られた作品。革命前の2003年に起きた切り裂き男の事件の真相を求め、映画製作が行われる過程で見えてくる女性の生きづらさが、“疑似”ドキュメンタリーの手法を混ぜながら描かれている。監督は『皮膚を売った男』(20年)のカウサル・ビン・ハニーヤ。
『イチジクの樹の下で』(2022)【日本初公開】
エリーゲ・セヒリー監督
チュニジア北西部の果樹園を舞台に、老若男女の農業従事者たちの1日を描いた群像劇。登場人物たちが繰り広げる人間模様から、恋愛、人生、労働、搾取、性差別、世代、信仰を巡る様々な価値観が浮かび上がる。アラブの春で民主化を実現したチュニジアならではの作品。
西アフリカ
セネガル
『母たちの村』(2003)【19年ぶりのリバイバル】
ウスマン・センベーヌ監督
アフリカ映画の父として日本でもよく知られる巨匠ウスマン・センベーヌ監督の遺作。アフリカを中心に世界各地に残る”女子割礼”(女性性器切除)の廃絶を願い立ち上がった母たちと、古い価値観を持つ男たちが衝突する。これは、イスラームの教えとそれ以前からの風習の混在である。後続作品として、世界的トップモデル、ワリス・ディリーの自伝「砂漠の女ディリー」を原作にした『デザート・フラワー』(2009)があるが、こちらの舞台はソマリアだった。第57回カンヌ国際映画祭ある視点部門・グランプリ受賞、2005年全米批評家協会賞・最優秀外国語映画賞受賞。
ブルキナファソ
『怒れるシーラ』(2023)【日本初公開】
アポリーヌ・トラオレ監督
ムスリムが国全体の6割という国において、遊牧民であり、キリスト教徒の女性が主人公になっている。不安定な情勢が続くサヘル地域の実情、その中で生きる最も弱い立場の女性の生きるための闘いと復讐の物語である。
中東
パレスチナ
『ラナー、占領下の花嫁』(2002)【劇場初公開】
ハーニ・アブー=アスアド監督
パレスチナに住む17歳の少女が、父親と一緒にエオジプトに行くか、父親が選んだ男性と結婚しパレスチナに住み続けるか、選択を迫られる。決断の時間は10時間。彼女は恋人を探し、その前に結婚してしまおうとするのだが。監督は『パラダイス・ナウ』『オマール』などの作品で、各国の映画祭で賞を受賞しているハーニ・アブー=アスアド。第2次インティファーダ最中で緊迫する東エルサレムで撮影された作品。
イラン
『ギャベ』(1996)
モフセン・マフマルバフ監督
ギャベは遊牧民カシュガイ族の娘。彼女は1人の青年と恋をしていたのだが、なんだかんだと理由を付けて、父親はそれを許さない。絨毯の意味を持つギャベという名の娘を通じて描かれた寓話的な物語は、鮮やかな絨毯、衣装の色で彩られる。「赤」は愛、「青」は宗教的崇高さ、「黄」は幸福を表している。イランの四季の風景も美しい。現在シアター・イメージ・フォーラムで特集が組まれているモフセン・マフマルバフ監督の映像詩、25年ぶりの上映。
ヨーロッパ
英国
『モーグル・モーグリ』(2020)【日本初公開】
バッサーム・ターリク監督
ニューヨークを拠点とするイギリス系パキスタン人のラッパーが、自身の矛盾と向き合うため、英国の実家に帰郷する。彼はある晩倒れ、免疫不全と診断され入院し父親の助けを受けるのだが、それでも親子の価値観の溝は埋まらず、以前のように口論が始まるのだった。
『カセットテープ・ダイアリーズ』(19)のパキスタンからの移民の父親にいたっては、息子がアメリカの音楽を聴くことにさえ不快感を露わにしていたのだから、この作品のように、ラッパーとしてニューヨークで活躍などというのは、父親にとっては、いっそうとんでもない話なのだろう。ラッパーでもあるリズ・アーメッドが自身のアイデンティティを投影した脚本を自ら書き、主演している。移民一世と二世の価値観の落差の問題は、英国では度々映画化されており、永遠のテーマなのかもしれない。
ドイツ
『シリンの結婚』(1976)【日本初公開】
ヘルマー・サンダース・ブラームス監督
ニュージャーマン・シネマでも知られるヘルマー・サンダース・ブラームス監督作品。無理やり結婚をさせられそうになったシリンは、トルコからドイツに渡る。仕事をしながら、結婚を約束していたマフムートを探すという目的もそこにはあったのだが、失業によって彼女の本当の苦難が始まるのだった。移民が経験する困難、女性の権利と階級の不平等、伝統と現代文化との対立などが描かれ、波紋を呼んだ70年代の問題作。
ボスニア
『ハリーマの道』(2012)【日本初公開】
アルセン・アントン・オストイッチ監督
セルビア人、クロアチア人、ボシュニャク人(ボスニア・ムスリム)の間で戦われ、ボスニア・ヘルツェゴビナだけで、被災者、難民の数が総人口の半数にも達したと言われるボスニア紛争。その戦禍の中で、夫と息子を殺されたムスリム女性が、遺体が息子のものであるかどうかの確認のため、DNAを提供する必要に迫られる。しかし、ハリーマの息子の実の母親は、彼女自身の姪であり、セルビア人のボーイフレンド(キリスト教徒)と不倫関係によってできた子だったのである。ハリーマが疎遠になっていた姪を探すと、彼女は現在、夫と3人の娘と一緒にボスニアのセルビア支配地域に住んでおり、以前の生活とのつながりを持ちたくないと思い、 DNA の提供を拒否するのだった。(ボスニア・ヘルツェコビナは、今でもクロアチア人、ボシュニャク人主体の地域と、セルビア人の支配する地域からなる連合国家である)脚本は、ボスニア西部の村に住むボシュニャク人夫婦の実話に触発され作られたものだという。処刑された養子の実の母親を見つけるのに、実際には12年もかかったという。
南アジア
パキスタン
『神に誓って』(2007)【アンコール上映】
ショエール・マンスール監督
外国に暮らす移民家族の世代間の格差の問題、ムスリム内の女性差別の問題、アメリカにおけるムスリムに対する無知と差別、原理主義者に惹かれる若者と彼らを戦争へと駆り立てるムスリム指導者たち、それと対立するリベラルなムスリム指導者たちの無力など、家庭内の問題から世界規模の問題までムスリム世界で起きているさまざまなことが、2時間48分という時間の中に、ぎゅっと詰め込まれた社会派ドラマ。
インド
『カシミール 冬の裏側』(2022)【日本初公開】
アーミル・バシール監督
カシミールのスリナガルで、ナルギスは家政婦をして生活費を稼いでいる。彼女の夫は、インド国家に対する武装反乱に参加した後、失踪していたのである。ある日、ナルギスの夫が過激派であることが雇用主に知られ、彼女は仕事を解雇される。カシミール地方は、イスラーム教徒とヒンドゥー教徒との間で対立があり、イスラーム教徒による独立分離運動が起こっているところ。それゆえに彼女の夫が過激派ということは、ヒンドゥー教徒の雇い主にとっては、由々しき問題なのである。自分の村に戻るしかなかったナルギスは、夫が戻ってくることを願って、ショールを織るのだったが…
※映画祭の詳細は下記イスラーム映画祭公式サイトをご覧ください。
【開催概要】
【東 京】
会期:2025年2月20日(木)- 24日(月・祝)※5日間
会場:渋谷ユーロライブ(ユーロスペース階下)
( http://www.eurospace.co.jp/ )
【名古屋】
会期:未定
会場:ナゴヤキネマ・ノイ( https://nk-neu.com/ )
【神 戸】
会期:2025年5月3日(土)- 5月9日(金)
会場:神戸・元町映画館( http://www.motoei.com/ )
主催:イスラーム映画祭
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