2017年後半の北欧映画に注目! 映画関係者もハマるその魅力とは?
第2部:トークセッション「世界の中の北欧映画」
映画の配給担当者が、実際に買い付けた北欧映画の魅力、そして戦略の苦悩や葛藤について本音で語ります。まずは、それぞれ買い付けた作品の魅力をアピール!
--『ハートストーン』 はもっとSNSで日本特有のマーケットを狙うべき?!
マジックアワー/有吉さん(以下、マジックアワー): アイスランド映画を3年連続で配給しています。まず『馬々と人間たち』をやって、昨年は『 好きにならずにいられない』を、そして今年はこの『ハートストーン』(公開中)を配給しています。 北欧作品は過去にもベルイマン作品や『フレンチアルプスで起きたこと』をやっています。 意識しているわけではないけど、やはり(北欧作品)を探してるのだと思います。ちなみに今日紹介される6本のなかで4本はマーケットで見ていて、今日配給の方がいないのが残念ですが、『いつも心はジャイアント』は素晴らしい映画なので、ぜひご覧ください。今年のベルリン映画祭で見て、問い合わせたら「もう日本で売れている」と言われて。買うつもりはなかったです。いや、これは素晴らしいけどできないと思いました。だから買われていて逆に嬉しかったです。「観客として見れるんだ」と。今回配給した「ハートストーン」はLGBT系の映画ですが、 日本ではやはり興行的に難しいです。狙った観客層は来てるんですけどね。
アップリンク/浅井さん(以下、アップリンク):『ハートストーン』 は少年が自分の同性愛の気持ちに気づいていく映画だけど、 あまりLGBT売りはしていないですよね? それはLGBTを全面に出すと興行的にマイナスだという判断なんですか?
マジックアワー: 今日も新宿の2丁目で宣伝イベントはやってるので、出していないわけではないんです。実際にLGBT関連の賞もたくさん獲っていますし。
アップリンク:日本では腐女子マーケットがあるから、もう少しSNSとかで腐女子マーケットを狙ったら、結構、分母は広いのではと思うんですが。
マジックアワー:そうですか、それもうちょっと早く言ってくださいよ(笑)
アップリンク:アイスランドのど田舎で、少年が自分のセクシャリティを自覚して、 家族や村から差別されるようになる。その心の辛さの描写に引き込まれる素晴らしい映画だと思いました。応援しています。
--真魚さんもオススメ!『きっと、いい日が待っている』
彩プロ/戸村さん:デンマーク映画で、ラース・フォン・トリアーの製作会社の俊英監督が手がけていて、ドグマ的な作り方になっています。1960年代の後半、養護施設で実際に起こった子供に対する暴力や薬物投与をテーマに した作品です。真魚さんも仰っていましたが、ラース・ミケルセンの怖さは見どころのひとつだと思います。ハードな描写もありますが、主人公の兄弟の命がけの行動に勇気づけられる、とてもいい映画だと思います。*公開中
--世界的に有名な現代アーティストに迫る『オラファー・ エリアソン視覚と知覚』
フィッカ/笠原さん:オラファー・ エリアソンは世界的に有名なアーティストですが、 今年8月4日から横浜で新作が展示されます(ヨコハマトリエンナーレ2017)。クリエイターがどのようにアートを創り上げていくのかという過程 が面白く描かれています。2008年のドキュメンタリー作品ですが、いま観ても色褪せないので、ぜひご覧いただければと思います。*公開中
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--『サーミの血』は昨年の東京国際映画祭でW受賞!
アップリンク: 昨年の東京国際映画祭で主演女優賞と審査委員特別賞のW受賞をした作品です。 主演女優はトナカイの世話があるから映画祭には行けないと言ってたのですが、最終的には他の家族が代わりにみてくれるということで来日が叶いました。配給が決まって話をした時に、主演女優に飼っているトナカイの数を聞いたら、監督に「サーミ人にトナカイの数を聞いてはいけない」と言われました。それは年収や貯金を聞くことと同じことだそうです。監督はサーミの血が入っている人で、これは監督のお婆さんの物語だそうです。サーミというと日本ではアイヌに近いです。映画はスウェーデンとノルウェーの合作で、もともとサーミが住んでいる地域に国境はなく、原野に住んでいます。
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--ノルウェーで大ヒットの国民的映画『 ヒトラーに屈しなかった国王』
アット エンタテインメント/藤島さん:ノルウェーでは凄くヒットしていて、7人に1人は観ている国民的映画です。監督は元々ジャーナリスト出身ということもあり、映像もドキュメンタリータッチで迫力があります。実話ですが、ノルウェーの国王はナチスの侵略が始まったときに降伏を迫られるんです。降伏をすれば一時的に戦火を免れますが、先の未来を見据えて逃げることになり、最後はイギリスから亡命政府を作ってレジスタンスを支援します。国王というものを描いていますが、国民を守り、同時に王族である自分の家族も守っていかなければならないという目線が、日本人にも共感しやすい内容かと思います。
--マジックアワーの有吉さんもオススメ!『いつも心はジャイアント』
ブロードメディア・スタジオ(欠席のため手紙):2016年のトロント映画祭で出会いました。身体に重い障がいを持った青年リカルドの物語です。仲間とともにペタンクでチャンピオンになること、離れて暮らす母親と一緒に暮らすという夢を追いかけながら懸命に生きている。誰もが応援したくなると思います。劇中では障がいによって喋ることができない彼の空想世界が描かれますが、勇気の象徴として自らを巨人化させたジャイアントが登場します。60メートルの巨体でスウェーデンの街中や美しい大自然の中をズシズシと歩き回ります。一方で現実の世界はドキュメンタリータッチで生々しく描かれていますが、これはリカルドの内の世界と外の世界を大きく対比させたという監督の意図によるもので映画全体を通して不思議な魅力とイマジネーションに満ちた作品になっています。
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