【TIFF】『横道世之介』:舞台挨拶

沖田修一監督と高良健吾ふんわり舞台挨拶「誰にでもある物語」

左から高良健吾、沖田監督

 10月27日夕刻、第25回東京国際映画祭で特別招待作品上映の最後を飾った『横道世之介』。
主人公は、長崎の港町に生まれ、大学進学のために18歳で上京した青年、横道世之介(よこみち・よのすけ)。舞台は1980年代後半、どこかつかみどころのない、大らかで人のいい世之介と、彼をとりまく若者たちの瑞々しい青春群像、そして35歳になった彼らがあらためて振り返るその愛しい日々の記憶を綴る一作である。原作は「パレード」「悪人」など、著作が次々と映画化されている吉田修一の長編小説。『南極料理人』『キツツキと雨』ほかを手掛けてきた監督の沖田修一は、今回も優しさとユーモアをもって、愛すべきキャラクターたちをスクリーンの上に具現化している。

 上映前に行われた舞台挨拶に顔を揃えた沖田監督と、世之介役の高良健吾は、来年2月の公開に先駆けて初めて観客に見てもらえるこの日を「とてもいい日」と表現。その柔らかくフランクな笑顔が、映画祭独特の緊張に包まれた満席の客席の空気感をふんわりと緩めた。

 世之介の役づくりについて高良は「面白いシーンや、いいシーンだなって思うところで、狙ってていやらしく見えたら嫌だなっていうのがすごいあって。世之介が普通に素直に反応しているのが多分いいはずで、そこで自分の欲が出てやっちゃうのがいやだから、狙わないっていうことを意識しました」。年齢からすれば多作といっていい高良がいつもある種の“初々しさ”を失わないのは、この客観性があるからだろう。沖田×高良の共同作業は4作目。「沖田さんと出会ったのが20歳の頃。僕は今でも、現場は辛いものっていう感覚が若干あるんだけど、沖田組って、自分が上手い下手とかじゃなくって、なんか生き生きしてられる場所っていう感じなんです。これからも自分が役者をやってくんだったら、タイミングタイミングでまたずっと沖田さんと一緒にやっていきたいなって思っています」。沖田監督も「僕は普通にお茶を飲んでる高良健吾も知ってるし(笑)、今回も、そういうのが世之介に近いなというのが原作を読んだときからありました。高良くんには(自分の作品に)何度も出てもらってて、いつか主演で、ってずっと思ってた。(今回そうなっても)ぜんぜんお互い肩に力が入らないっていうか、前のままの延長線でやれたから、気持ちよかったです。嬉しかった」。コメントしてはお互い、うんうん、と頷き合う佇まいが、ひとつひとつ築いて来た信頼関係を醸し出す。

『横道世之介』の目玉のひとつは、高良も「吉高(由里子)さんとか池松(壮亮)くんとか、伊藤(歩)さんとか、綾野(剛)くんとか(柄本)佑くんとか。ほかにもたくさんいますけど、すごく贅沢にいろんな人とやれて楽しかった」と語るキャスティング。こと吉高に関しては『蛇とピアス』(蜷川幸雄監督)での濃い共演以来の顔合わせに高良は「あのときはお互い暗かったねって(笑)。今回はいっぱい喋りました。予期せぬことが起こって楽しかった」沖田「いつも小声で“すげーな”っていってた」と、その女優としての“爆発力”に太鼓判を押した。
そして、舞台となった80年代後半。醸し出すディテールはちりばめてあるものの、沖田は「友だち出来たり疎遠になったり、新しく彼女出来たりバイトしたり…それって結構誰にでもあることだなと思ったんで(笑)。1987年だけどなにか…?みたいな感じでやれたらいいな」と考え、感覚を普遍化した。生き生きとしたキャラクターを追い、ASIAN KUNG-FU GENERATIONが手掛けたエンディング「今を生きる」を聴くとき、観客それぞれの胸に駆け巡るものがあるだろう。

 舞台挨拶の最後の写真撮影で、手をひらをこちらに向けてヒラヒラと振るポーズを並んで披露してくれた二人。「本編を見ればその意味がわかる」そうである。もうひとつ。共同脚本を手掛けている前田司郎は、劇団「五反田団」主宰であり、映画『生きてるものはいないのか』でも注目を集めたが、沖田監督とは中学・高校の同級生で、“アカデミー部”の部長と副部長だったという。このあたりの空気感も、本作の目に見えない屋台骨の1本になっているに違いない。

2013年2月23日(土)より、新宿ピカデリー他全国ロードショー!

取材・記事/北青山レオ

profile of Leo Kita-aoyama
ライター・イラストレーター。映画全般、ミュージカルを中心とする舞台作品について「FLIX」(ビジネス社)などへ執筆。音楽ユニット「マリマリズ」としても活動中。
https://twitter.com/leon_bleu

▼作品情報
監督:沖田修一
出演:高良健吾、吉高由里子、池松壮亮
制作:2012/日本/160分
配給:ショウゲート
公式サイト:http://yonosuke-movie.com/
(c)2013『横道世之介』制作委員会

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