【TIFF】白夜行(特別招待作)

原作とドラマと映画と。

(第23回東京国際映画祭・特別招待作品部門)

第23回東京国際映画祭の特別招待作品として、堀北真希&高良健吾主演の「白夜行」が発表された。原作は、ベストセラー作家東野圭吾の同名小説。2006年には綾瀬はるか&山田孝之でTVドラマが放映されたことでも知られている。ここでは、原作小説と2つの映像作品(ドラマ・映画)を比較しながら、「白夜行」の魅力に迫ってみたい。

≪以下、物語の核心に触れていますのでご注意ください。≫

ある殺人事件の被害者の息子・亮司と、加害者の娘・雪穂の周辺で起こる事件を通して、人間の罪と罰、そして業を描いた「白夜行」。

原作は、文庫本にして実に850ページの大長編ミステリで、1973年の殺人事件時に11歳だった亮司と雪穂の足取りを1992年に至るまでのスパンに亘り描いている。この間、彼らの周囲では、強姦や殺人、失踪事件など、さまざまな犯罪や不可解な事件が起こる。そして、それらに亮司と雪穂が関与し、あるいは直接手を下していることが示唆され、その動機と彼らの関係性の謎、そもそもの発端となった殺人事件の真相が明かされていくという展開だ。

何と言っても特徴的なのは、2人が一緒にいるという描写そのものがなく、彼らの心情すら一切語られないことだろう。我々読者は、2人の周囲の人間の目を通して描写されるエピソードをつなぎ合わせて、彼らの感情や行動を推測するしかない。しかし、最初はおぼろげだったイメージが次第に明確になり、彼らのダークな輪郭がはっきりと見えてくる。つまり、最初からわかりやすくキャラ設定がされているのではなく、徐々にわかってくるのだ。この手法はとても面白いものだが、考えてみれば、我々も普段、最初から「この人はこんな人間だ」と分かって接しているわけではない。この小説の中でも、人間の本性はそのような形で明確化していくのだ。

ところが、そういった独特な描き方を取っ払い、亮司と雪穂の関係を逆にクローズアップして見せたのがドラマ「白夜行」だ。ドラマ「世界の中心で、愛をさけぶ」で純愛カップルを演じた山田&綾瀬が、一転、次々と犯罪に手を染めていく役を熱演。特に、「悪女」雪穂と、彼女に翻弄されていく亮司との関係性、衝撃的な描写は、先述したように原作では一切描かれていないもので、非常に大胆なアレンジだ。それは、毎回「盛り上がり」をつくり、次回を期待させなければならない連続ドラマという形式の上でも必要だったのだろう。時代背景も、1991~2006年と現代に近く設定。2人を追う笹垣刑事(武田鉄矢)の執拗さや、かつて亮司の父が経営する質屋の使用人だった松浦(渡部篤郎)の悪人ぶりもレベルアップされている。ドラマでは、亮司と雪穂の葛藤や苛立ち、陥ってしまった闇がより際立ち、彼らの本性を「得体の知れない薄気味悪いもの」ではなく、我々も持ち得る「人間の側面」として見る者に迫る。

そして、今回の映画はどうなのかというと…時代背景は1980年からとやや時代を下げ、エピソードはカットされている部分もあるが、ほぼ原作に忠実な描き方をしている。亮司と雪穂が一つのシーンに映ることはなく、話をすることもない。事件を追う笹垣刑事(船越英一郎)の立ち位置も一貫して彼らの庇護者的な立場を取っている。ドラマのような過激さを期待すると拍子抜けを食らうかもしれないが、原作を知る者からすれば「なるほど」と思えるつくりになっている。また、映画オリジナルの部分で言えば、雪穂が友人の恋人・篠塚を奪って結婚するという展開になっていることも興味深い。原作・ドラマでは結ばれることのない篠塚との関係を成就させることは、顔色一つ変えずに思い通りに事を進めていく雪穂の冷徹さを増幅させる。一方の亮司についても、感情の吐露がない分、無言で次々と罪を重ねていく姿に見る者は凄味を感じるだろう。その点で堀北&高良は、ドラマの綾瀬&山田とは違った意味で難しい役どころをこなしていると言える。長編を2時間半という尺に収めた深川栄洋監督の手腕も評価されるところだ。しかし、最後の謎解きでは笹垣刑事の説明に頼らざるを得ないというのは残念な点である。

なんにせよ、これでさらに「白夜行」ワールドにハマる人間が増加するに違いないだろう。原作、ドラマ、そして映画と、それぞれに制してみてはいかがだろうか。

Text by 外山 香織

【監督】深川栄洋
【原作】東野圭吾「白夜行」
【キャスト】堀北真希/高良健吾/船越英一郎

(C)2011「白夜行」製作委員会

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