【TIFF】NO:ダニエル・マルク・ドレフュスさん記者会見

絶対に今、この物語を伝えなければならないという必然性を感じた

※2014年8月30日(土)よりヒューマントラスト有楽町、テアトル梅田、シネ・リーブル子神戸ほか全国順次ロードショー

(第25回東京国際映画祭コンペティション部門)

『NO』製作のダニエル・マルク・ドレフュスさん。笑顔が特に素敵です。

2012年10月27日(土)、第25回東京国際映画祭(TIFF)コンペティション部門で『NO』が上映され、プロデューサーのダニエル・マルク・ドレフュスさんが記者会見に出席した。大変失礼ながらダニエルさんに対する予備知識がなかったもので、33歳と若く、なおかつ相当なイケメンさんであることに驚いてしまった。

本作は1988年、チリのピノチェト独裁政権の是非を問う国民投票を前に、反ピノチェト派(「NO」陣営)のキャンペーン活動を克明に描いたものだ。当時の「NO」陣営の関係者と接触し、綿密なリサーチをかけ、「当時の精神を完璧に再現することに成功した」とダニエルさんは誇らしげだった。また、人気俳優ガエル・ガルシア・ベルナルが「NO」キャンペーンを推進する広告マンのレネを好演。ダニエルさんはガエルとパブロ・ラライン監督について「(二人とも)新作の撮影のために来日できなくなったことを、とても残念がっていました」。

© FABULA

前評判が高かった本作、上映を楽しみにしていたファンも多かったことだろう。このTIFFでも好評を博したが、ダニエルさん自身は観客から好感を得ることについて、上映前から確信があったのだろうか?
「皆さんに評価してもらえたらいいなあという願望はあるけれど、評価を期待してはいけないと思うのです。というのは、他者に(評価の)期待を求めてしまったら、それはもはや芸術とは呼べないと思っているからです。でも、(チリから見て)日本という地理的にも文化的にも遠い国で、好意的に受け入れてもらえたことに感激しました」と素敵な笑顔で語ってくれた。

軍もメディアも支配下に置いたピノチェトが、15年にも及ぶ恐怖政治を行ったことは周知のとおりだ。反体制派のおびただしい数の人が拷問にかけられたり、処刑されたり、行方不明になった。だが、本作ではピノチェトの圧政について直接的に描かれていない。それについてダニエルさんは「それこそが「NO」キャンペーンの目的」と言う。
「「NO」陣営はキャンペーン当初、犠牲者の数を具体的に示すVTRを用意していましたが、レネはこういう情報は逆に恐怖を強調してしまうと考えて、ボツにしました。「NO」キャンペーンで彼が掲げたかったのは、希望や喜びの追求です。「NO」と意思表示をすることで希望を強調しました。ネガティブなイメージの「NO」を、ポジティブなものとして変化させたのです」。

ダニエルさんは本作のプロジェクトに参加したとき、「とてもタイムリーな作品で、絶対に今、この物語を伝えなければならないという必然性を感じた」という。
「今、世界では貧困、個人の権利や言論の自由の獲得で戦っている人達が大勢います。中東の不安定な政情はその表れです。88年当時でさえ、限られた資源(人、お金、情報手段)で、これだけ大きなムーブメントを起こすことができ、国や人の運命を変えられたんです。そのことをぜひ知ってもらいたかった。今は様々な情報手段(インターネット、ツィッター等)も発達しています。私達はそれらを駆使することができるし、自分達の自由や幸せを獲得するための可能性は、無限に広がったことを伝えたかったのです」と製作の理由を強調。国内が政権派と反政権派に二分されるような状況は、確かに中東、特にシリア問題とも似ている。20年以上前の出来事ながら、現在とも共通する点があることに、本作最大の意義があるのだろう。

この国民投票は歴史の事実なので、結果はすでに分かっている。だが、いつの間にか結末はどうなるのか・・・!と引き込まれてしまった。硬派な題材を社会派エンターテインメントとして描いたことが、その勝因だろう。また、映像の粗さが目立つと感じていたのだが、それは80年代の雰囲気を出すためで、撮影にはアナログの日本製ビンテージカメラが用いられたという点も、つくり手側のこだわりを感じさせ、好感が持てる作品だった。

▼作品情報▼
監督:パブロ・ラライン
製作:ファン・デ・ディオス・ラライン、ダニエル・マルク・ドレフュス
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、アルフレド・カストロ、ルイス・ニェッコ
2012/117分/スペイン語/チリ=アメリカ

▼第25回東京国際映画祭▼
日時:平成24年10月20日(土)~28日(日)
場所:六本木ヒルズ(東京港区)他
公式サイト:http://2012.tiff-jp.net/ja/

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