【LBFF_2010】『レボリューション』~ヘミニアノ・ピネーダ・モレノさん(プロデューサー)に聞く!~
浮かれるメキシコに問う
「噛めば噛むほど」とは、まさにこのことである。観終わったあとに誰かと語りたくなる。あるいは、ひとりでゆっくり思い返したくなる。人気俳優のガエル・ガルシア・ベルナル、ディエゴ・ルナほか、ロドリゴ・ガルシアら計10名の監督による、メキシコ革命(1910~1917年)100周年記念のオムニバス映画『レボリューション』。“革命”がテーマとはいえ、登場するのは武器を持った兵士ではない。ある式典に参加する楽団員、スーパーの店員、木に吊るされた神父、パーティーに集まった人々―政治であったり、雇用問題であったり、宗教であったり。さまざまな目線から多様な現在の問題を映し出し、かつての革命とリンクさせる。まさに十人十色の色彩のトーンの変化も目に鮮やかで、10通りの映像世界から我々は「メキシコでは、今、何が問題なのか」に思いをめぐらせることができる。
「一体、革命後100年で何が変わったというのか?風刺を効かせた、メキシコ社会に批判的な内容の作品を作りたいと思っていた」と、上映後のQ&Aに立ったプロデューサーのヘミニアノ・ピネーダ・モレノさんは切り出した。記念すべき年を祝い、お祭りムードに湧いているという今年のメキシコ。そこに堂々、問題提起をするこの骨太の作品を製作したカナナ・フィルムを代表して来日したモレノさんに、お話を聞いた。
プロデューサー・インタビュー
さて、質問スタート・・・なんですけれど。あれ、モレノさん、何か撮ってます?こちらにカメラを向けて、なにやらセット。え、動画?何?ま、いいや。今回が初の日本滞在とのこと。舞台挨拶の時に、客席の写真を撮ってツイッターに流しているのを、私、存じております。映画のPRはもちろん、いっぱい記念を持って帰ってください!
気を取り直して。プロデューサーも含め、『レボリューション』に参加した監督は、非常に若い人が多い。若い層が祖国の歴史上の大事に向き合い、見つめ直すという、その社会意識の高さに驚かされるが、その情熱は一体どこから湧いてくるのだろうか。「ただ単純に興味があった」とモレノさんは簡単に口にするが、「とにかく観ていて居心地が悪くなる、批判的な映画を作ると最初から考えていた」という反骨精神は、日本に暮らす同世代の人間には非常に逞しく映る。「メキシコでもようやく“表現の自由”が幅広くみとめられるようになり、こうした社会に批判的な作品も全国公開できるようになった。これは非常に良いことだ思っている」と、メキシコ映画界の変化についても触れたモレノさん。「11月初旬に映画が封切られたあと、革命記念日の20日には主要テレビ局でこの映画が放映される。全メキシコ国民が、『レボリューション』を観る可能性があるんだよ」と教えてくれた。
メキシコ本国で話題になるだろうことはもちろん、ベルリン国際映画祭など海外でも注目を集めている同作。才能ある監督が10人集まってできたわけだが、俳優として国際的に知名度のあるガエル・ガルシア・ベルナルとディエゴ・ルナにどうしても話題が集まってしまうのでは?それについては「彼らは自分たちが設立したカナナを通じて、南米の映画を盛り上げようとしている。そんな2人を通じて、ほかの監督のことも知ってもらえれることが重要だ」との意見を持っているという。その言葉の裏には、メキシコの才能の厚さに対する誇りが滲む。
プロデューサーとして、今後どういったテーマの作品を作っていきたいのだろう?「教会の人間による子どもへの性的虐待や、政治家のマスコミを使った印象操作といった問題にも興味がある」と答えてくれたモレノさん。いずれも、日本では馴染みの薄いテーマであるがゆえに、今後も「映画を通してメキシコを知る」きっかけを私たちに与えてくれることになりそうだ。
『レボリューション』は、メキシコの歴史に詳しくない日本人にとって、容易い映画ではないかもしれない。しかし、作品が一体何を言わんとしているのか、そのメッセージを読み取る楽しみに浸ることのできる一本である。
オススメ度:★★★★☆
Text by :新田理恵
Photo by :鈴木こより
【原題】REVOLUCION
【監督】マリアナ・チェニリョ、フェルナンド・エインビッケ、アマ・エスカランテ、ガエル・ガルシア・ベルナル、ロドリゴ・ガルシア、ディエゴ・ルナ、ヘラルド・ナランホ、ロドリゴ・プラ、カルロス・レイガダス、パトリシア・リヘン
【出演】アドリアナ・バラーサ、カルメン・コラル、ジャンニ・デルベスほか
2010年/メキシコ/105分
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