ジュリエットからの手紙

“真実の愛”の存在を、素直に信じてみたくなる

ウィリアム・シェイクスピアの不朽の名作『ロミオとジュリエット』。その舞台となった世界遺産の街ヴェローナ(イタリア)には、本当に「ジュリエットの家」があり、ジュリエット宛に愛や恋の悩む世界中の女性からの手紙が、何と年間5000通も届くという。そして、その手紙1つ1つに、「ジュリエットの秘書」と呼ばれるボランティアの女性達が親身になって返事を書いている。
本作『ジュリエットからの手紙』は、その「ジュリエット・レター」がきっかけとなり、50年の時を経て蘇る、真実の愛の物語である。『ロミオとジュリエット』は悲劇に終わったが、本作はその逆。ハッピーで、心温まる作品に仕上がっている。

ソフィ(アマンダ・セイフライド)は婚約者である料理人ヴィクター(ガエル・ガルシア・ベルナル)とプレ新婚旅行のため、ヴェローナを訪れる。しかし、自分のレストランの開店を間近に控えたヴィクターは、ワインや食材の仕入れに夢中でソフィのことは二の次(ヴェローナのオバちゃんから「ポール・ニューマン!」と呼ばれて大喜びするヴィクター役のガエルがとてもキュート)。結局、ヴィクターと別行動をとるソフィは「ジュリエットの家」を訪れ、「ジュリエットの秘書」の女性達と出会う。そこで偶然にも50年前、当時15歳の英国人女性クレアが、ロレンツォという現地の青年への苦しい恋心を綴った手紙を発見。その内容に心動かされたソフィはクレア宛に手紙を書くが、そのクレア(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)が孫チャーリー(クリストファー・イーガン)を引き連れて、ヴェローナにやってくる。そして、ソフィ、クレア、チャーリー3人のロレンツォ探しの旅が始まるのだった。

正直なところ、話の筋は読めてしまう。旅の序盤は反発し合っていたソフィとチャーリーだが、次第に心通わせるようになる設定も想定の範囲内。あれれ?じゃあヴィクターはどうなるの?・・・とこれもまあ、ほぼ予想通り。そしてクレアとロレンツォの件も、あぁやっぱり・・・という展開で、ゆるめのストーリーではある。観客の好奇心をむやみに煽るような、「衝撃の結末!」は用意されていない。ただ、筆者が本作をマスコミ試写で観たのは、大震災後の4月初め。仮に震災前に観ていたら、現実は絶対こうはいかんぞ~と、天の邪鬼的なひねくれた見方をしていたかもしれない。
しかし、あの恐ろしい震災を経て、自分の心境に何らかの変化があったのか、本作のような、話はちょっと出来すぎかもしれないが、ハートウォーミングな映画に癒されたいとか、何かを信じてみたいと願う気持ちがあったみたいだ。乾いた砂に水がすーっと沁みこむように、抵抗なく、物語が心に入ってきた。

その主たる理由は、アマンダ・セイフライド、ヴァネッサ・レッドグレイヴはじめ、俳優陣の程よく力の抜けた、伸びやかで自然体の演技だろう。そのナチュラル感が、「愛の街」との異名をとるヴェローナの美しい街並みや、郊外の田園風景に絶妙に溶け込んでいる。眩しいほどに降り注ぐ陽光も、観ている側の気持ちを温めて、元気を与えてくれるかのよう。また、ロレンツォ探しの旅の過程では、何人もの「ロレンツォさん」が登場するが、どの「ロレンツォさん」も個性的で笑いを誘い、ユーモアのさじ加減も心地よい。

そして 、愛にまつわる数々のセリフが、何とも格言的で傾聴に値する。「愛に決して遅すぎるということはない」「真実の愛は年を経ても真実」など、心のど真ん中にドスンと響いた。しかもそれらのセリフが、ヴァネッサ・レッドグレイヴやフランコ・ネロという名優の口からこぼれるのだから、説得力があり、ははぁ~とひれ伏したくなるほど。もし震災前なら、何となくこそばゆく思っただろうが、今なら素直に受け止めることができる。何よりも、真実の愛の存在を信じてみたいと思うではないか!真実の愛には賞味期限は存在しない。そのメッセージは、こんな時期だからこそ、なおさら多くの人の共感を得ることだろう。人が何かを-例えば友人、恋人、家族、そして愛を-信じる勇気を、本作からもらいたいと思うのである。

オススメ度:★★★★☆
Text by 富田 優子

製作年:2010年
製作国: アメリカ
原題:Letters to Juliet
監督: ゲイリー・ウィニック
出演:アマンダ・セイフライド、ガエル・ガルシア・ベルナル、クリストファー・イーガン、フランコ・ネロ、ヴァネッサ・レッドグレイヴ
配給: ショウゲート
公式サイト: http://www.juliet-movie.jp/
©2010 Summit Entertainment, LLC. All rights reserved.

5月14日(土) Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開

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トラックバック-1件

  1. soramove

    映画「ジュリエットからの手紙」あの時、別の選択をしていたら・・・。…

    「ジュリエットからの手紙」★★★☆ アマンダ・セイフライド、 ヴァネッサ・レッドグレイヴ、 ガエル・ガルシア・ベルナル、フランコ・ネロ出演 ゲーリー・ウィニック監督、 105分 、2011年5月14日公開 2010,アメリカ,ショウゲート (原作:原題:LETTERS TO JULIET)                     →  ★映画のブログ★                      どんなブログが人気なのか知りたい← 「誰もが知る『ロミオとジュリエット』、 そのジュリエットのモデルとなっ…

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