【三大映画祭週間2012】『イル・ディーヴォ ー魔王と呼ばれた男ー』時代が生んだ希代の政治家

欧米では市民の政治への関心が高いというが、本作を観て、その理由の一端が少しわかったような気がする。政治家の圧倒的な存在感やユーモアのセンス、皮肉の効いた応酬は痛快で、一種のエンターテインメントである。
本作品で描かれているジュリオ・アンドレオッティも例外ではない。イタリアの首相を7期も歴任し、「魔王ジュリオ(Divo Giulio)」と呼ばれた男。強大な権力で政財界だけでなくマフィアをも操り、多くの疑惑を残した超スキャンダラスな人物である。現在のイタリアで最も評価の高い監督の一人、パオロ・ソレンティーノが、スタイリッシュな映像表現でこの男の実像に迫る。

物語はアンドレオッティが首相7期目に就任する前夜から始まる。元首相のアルド・モーロが極左テロ組織「赤い旅団」に殺害され、政財界の重要人物が次々に謎の死を遂げていく中で、アンドレオッティは生き残り、権力を絶対的なものにしていく。しかし、それらの事件のほぼ全てに関与したと告訴され、失脚するのである。

そんなアンドレオッティに対する、ソレンティーノ監督の視点が興味深い。彼を事件の黒幕として描いているが、否定的ではない。監督が描きたかったのは事件そのものではなく、アンドレオッティの実像であり、事件の裏側に隠された彼の“本当の”狙いである。彼の“本当の”狙いとは一体何だったのか。
極端なイデオロギーを掲げる組織が権力闘争を繰り広げていた冷戦下のイタリアにおいて、政治的なバランス感覚としたたかな舵取りは国の生命線だったといえる。そういう時代背景がアンドレオッティという怪物を創り出したのかもしれない。

アンドレオッティの複雑な内面を表現するために監督が起用したのは、名優トニ・セルヴィッロ。特徴的な猫背をはじめ、雰囲気も本人そっくりに再現している。ほとんど無表情なのに、ただならぬ凄みと不気味さを漂わせる演技はさすがで、徐々に感情を昂らせていく独白のシーンは圧巻である。
本作は2008年カンヌ映画祭で審査委員長を務めたショーン・ペンが惚れ込んだといわれ、ソレンティーノ監督の次作『きっと ここが帰る場所』でタッグを組むきっかけになった作品である。

8月4日(土)から、ヒューマントラストシネマ渋谷にて開催される「三大映画祭週間2012」にて上映。

「イル・ディーヴォ ー魔王と呼ばれた男ー」カンヌ国際映画祭2008年審査員賞
原題:IL DIVO
監督:パオロ・ソレンティーノ
出演:トニ・セルヴィッロ、フラヴィオ・ブッチ、アンナ・ボナイウート
制作:イタリア・フランス/110分


「三大映画祭週間2012」開催情報
■時期:8月4日(土)ー8月24日(金)限定3週間ロードショー
■劇場:ヒューマントラストシネマ渋谷(上映スケジュール
※テアトル梅田ほか全国順次公開
■料金情報:
5回券¥5,000,  3回券\3,900,  1回券¥1,500 (すべて税込)
当日券:一般¥1,800 / 大・高・専¥1,500 / 中学生以下・シニア\1,000(税込)
■公式HPアドレス:www.sandifestival.jp
■全作品デジタル上映


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