吟遊詩人ニック・ケイヴが脚本家としてカンヌに降臨!『Lawless』

※『欲望のバージニア』の邦題で、2013年6月29日から丸の内TOEI、新宿バルト9ほか全国で順次公開。

(コンペティション部門公式上映:5月19日)

デイン・デハーン、ニック・ケイヴ (c)FIF/GT

カリスマ・ミュージシャンのニック・ケイヴが、コンペティション部門で上映されたジョン・ヒルコート監督新作『Lawless』の脚本家としてカンヌ入りを果たした。87年のカンヌでヴィム・ヴェンダースに監督賞をもたらした『ベルリン・天使の詩』劇中の強烈なライヴ・パフォーマンスでスクリーンに登場して以来、数々の作品に俳優として、あるいはサントラ担当として参加し、映画界とも深い繋がりを持っていたケイヴだが、オーストラリア出身の友人同士でもあるヒルコート監督の『The Proposition』(05)でも脚本を担当しており、2度めのタッグでの晴れ舞台となった。

『Lawless』はマット・ボンデュラントの人気小説『The Wettest County in the World』を映画化した作品。禁酒法時代のアメリカ南部の町を舞台に、密造酒ビジネスで名を馳せたボンデュラント3兄弟(作者の祖父たちがモデル)が腐敗した警察と闘う姿を描く。オールスター・キャストも話題となっており、特に不屈の長男トム・ハーディと異形の悪役ガイ・ピアースの熱演が見事。凄惨な暴力シーンも多いがユーモアと美意識が効き、エンターテインメント作品の立場が弱くなりがちなカンヌでも上々の評判だった。

T・ハーディ、J・チャステイン、S・ラブーフ(c)AFP

記者会見には上記2人の俳優のほかシャイア・ラブーフ、ジェシカ・チャステイン、ミア・ワシコウスカ、デイン・デハーンも華やかに顔を揃えた。ケイヴはその中でも真っ先に紹介され、異色の存在として記者団からも喝采を浴びていた。ケイヴは、原作からどんなインスピレーションを与えたられかとの質問に、「古典的なラブストーリーと夥しい暴力とが織り交ぜられた物語に興味を惹かれ、創造意欲が掻き立てられた。小説には様々な感情とともに生々しい暴力が描かれているが、ヒルコート監督は暴力シーンも興奮と爽快さをもって上手く描いていたと思う」と答えた。

ジョン・ヒルコート監督(c) AFP

ヒルコート監督は禁酒法を題材にしたことについて、「その問題は今も存在するんだ。ドラッグ戦争で」と語り始めた。監督は当初、映画に80年代のメキシコの麻薬カルテルの問題をモンタージュさせることを考えていたと言う。「今日の経済恐慌、政治危機、ドラッグ戦争は平行線を辿っているように見える。禁酒法は重大な組織犯罪を生み出したが、それは今も続いているんだ」との監督の言葉に、ケイヴも「ドラッグ撲滅運動はカネの無駄だ。刑務所の囚人の7%はドラッグ関連での逮捕者が占めている。全てのドラッグを合法化し、収監者たちを解放するべきだ。そうすればもっと有効なことにカネを使うことができる」と意見を述べ、ともにドラッグ戦争の失敗を痛烈に非難した。
透明感のある美しさが魅力のジェシカ・チャステインは、本作ではシカゴから流れ着き長男フォレストと恋仲になる姐さん的な女性マギ―を艶っぽく好演して新境地を見せた。キャラクターについての質問に、ジェシカは「フォレストは暴力の世界に生きていて愛に関しては絶望的だったから、マギーが最初は彼をリードしていかなければならなかったの。男女の役割が逆になったような脚本を面白く感じたわ」と答えた。

ニック・ケイヴ

会見が終わると出待ちをしていたプレス陣からのサインの求めにケイヴはクールな表情ながらも気前よく応じ、カンヌの雰囲気もまんざらではない様子だった。今後の活躍にも期待したい。

Text by 深谷直子


▼『Lawless』作品情報
監督:ジョン・ヒルコート
脚本、音楽:ニック・ケイヴ
出演:シャイア・ラブーフ、トム・ハーディ、ジェイソン・クラーク、ガイ・ピアース、ゲイリー・オールドマン、ジェシカ・チャステイン、ミア・ワシコウスカ、デイン・デハーン
制作:アメリカ/2012年/1時間55分

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