第65回カンヌ国際映画祭:デンマークからヴィンターベア監督が巻き起こした衝撃の嵐 『The Hunt』

※『偽りなき者』のタイトルで、2013年3月16日(土)、Bunkamuraル・シネマほかにて全国ロードショー

(コンペティション部門公式上映:5月20日)

トマス・ヴィンターベア監督(左)

世界的に注目を集め、カンヌとも相性がいいデンマーク映画。今年はトマス・ヴィンターベア監督の『The Hunt』がコンペティション部門で上映された。
ひとりの男が少女のついた嘘から児童性愛者の疑いをかけられるという冤罪を描く本作。些細なことから自分が痛ましい魔女狩りの犠牲者にも忌まわしい迫害者にもなり得るかもしれないという情報化社会の恐怖に身をつまされ、上映後は緊張から解放された場内に溜息とともに熱狂的な拍手が響いた。

記者会見では衝撃的な題材の着想をどう得たかのとの質問をまず受け、ヴィンターベア監督は「入念なリサーチを行い、セクハラの事例にインスピレーションを受けました。嘘をついた子供も犠牲者です。デンマークには『子供と酔っ払いは嘘をつかない』という諺がありますが、これは間違いで、子供たちは大人を満足させるために嘘をつくことがあるのです」と語った。映画で少女はやがて真実を語るのだが、大人たちの集団ヒステリーはもはや歯止めが利かず、それが真の怖さとなっている。

マッツ・ミケルセン

主人公のルーカスを演じたマッツ・ミケルセンは『007/カジノ・ロワイヤル』(06)など国際的に活躍するスターだが、本作では非運の男を壮絶に演じ、演技派として評価が高まることは間違いない。難役についても監督の意図を捉えての演技であったことを伺わせた。「ルーカスは子供が大好きなのに、その愛情によって恐ろしい体験をすることになります。しかし子供が原因なのではありません。彼は魔女狩りの餌食となった純粋な犠牲者なのです。こうした状況を私たちは伝えたいのです」。

ヴィンターベア監督は98年に『セレブレーション』で監督賞を受賞して以来2度目のカンヌ参加となる。様々な規則により映画にリアリズムをもたらした「ドグマ95」の手法で制作された作品だったが、撮り終えると「木の上に果物は残っておらず、他の方法を探さねばならなかった」と監督は振り返る。一度はハリウッドに渡ったが、故国の暗さに惹き付けられて戻り、一般大衆の生活の中の光と闇とを映し出す道を歩み始めた。本作のテーマである噂について、監督は「この映画はウィルスのように早く情報が流れる村の小宇宙にあります。インターネットによって世界は噂が飛び交う小さな村となりました。しかしこの映画で大切なのは人間の愛です。誤解があっても寄り添おうとすることが大事なのです」と力強く語り、カンヌに再び迎え入れられたことに喜びの表情を見せていた。

Text & Photo by 深谷直子

※マッツ・ミケルセンは27日に行われたコンペティション部門授賞式において、見事男優賞を受賞しました。

マッツ・ミケルセン授賞式(C)AFP


▼『The Hunt』作品情報
監督:トマス・ヴィンターベア
出演:マッツ・ミケルセン、トマス・ボー・ラーセン
制作:デンマーク/2012年/1時間51分

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