「SOMEWHERE」第67回ヴェネツィア映画祭金獅子賞!ソフィア・コッポラが描く「父と娘」

ソフィア・コッポラ監督の過去3作品は、すべて女性が主人公だ。『ヴァージン・スーサイズ』(99)、『ロスト・イン・トランスレーション』(03)、『マリー・アントワネット』(06)…。特に『マリー・アントワネット』では、ファッションやお菓子など、女子が好きなものを投入しまくり、まるでドールズハウスのような印象を受けたのが記憶に残っている。

しかしこの作品はどうだろう。まず、主人公はヤサグレ感漂う中年男、ジョニー(スティーヴン・ドーフ)。人気の映画スターで、ホテルで気ままな一人暮らし。華やかな生活、表面だけの人間関係、数多くの女性との情事。雇ったポールダンサーをベッドで眺めながら眠るシーンはもはや救いようのない感じさえする。ところが、こんな男にも結婚していた妻がいて、11歳になる娘もいる。名はクレオ、まるで天使のような愛らしい少女(エル・ファニング)が、父と数日を過ごすことになる。

「ここで男の生活が一変して、真の愛に目覚めるんだろう」と観る側は予想するが、事態はそう劇的に変わらない。それは、彼らの関係が「恋人」ではなく「親子」であり、家族の日常はそうそう劇的なものではないからだろう。親子というのは久しぶりに会ってもそれほど感慨がなかったりするものだ。「こんな可愛い娘がいたら、こんなに自堕落にはならないだろうに」と思いたくなるが、主人公はまるでピンと来ていない。ただ、娘と過ごす時間が、まるで水のように彼の空洞に少しずつ満ち、あるタイミングで決壊する。父親だということだけで自分の傍にいる娘。彼らにとって二度とは訪れない、おそらく今しかない時間を、カメラはひたすら撮り続けているように私には思えた。

「家族愛」を期待すると裏切られるだろう。ベタな内容ではなく、むしろ淡白でドライ。セリフは極端に少なく、説明的なト書きもなく、ただただ映像で示すタイプの映画。シンプルなので飽きる人もいるだろう。しかし、その分とても丁寧に作られていると感じる。本作の成否を握る大きなポイントは「娘」をどんなふうに描くかであろうが、それこそソフィア・コッポラの最も得意とするところ。彼女が出てきただけで、正直、「ヤラれた」と思ってしまった。エル・ファニングの今後も大いに注目したい。

Text by 外山 香織

オススメ度★★★☆☆

製作国:米 製作年:2010年
監督・脚本:ソフィア・コッポラ
出演:スティーヴン・ドーフ、エル・ファニング
公式サイト http://www.somewhere-movie.jp/index.html
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