イタリア映画祭2017を振り返る
今年もGWの恒例行事として、有楽町の朝日ホールに通い、最新の気になるイタリア映画8本を観てきました。女性ゲストが一人も来ないという状況で、映画祭がはじまるまでは正直「今年は地味だな・・・」なんて思っていましたが・・・。フタを開けてみれば、男性ゲストたちの茶目っ気たっぷりの振る舞いは微笑ましく、映画も笑いあり、問題提起あり、もちろんアモーレありで、味わい深いラインナップを堪能しました。今年はとくに「愛のために戦地へ」のピフことピエルフランチェスコ・ディリベルト監督(兼主演)のキャラクターと作品に魅了されました。
オープニングの挨拶で、作品選定の担当者も仰ってたけど、今年は若者を描いた作品が多く、また「未来ではなく今、この瞬間を生きる」という共通のテーマがあるように感じました。登場人物たちを突き動かす情熱、目の前の壁を越えて未知の世界に飛び込んでいく瑞々しい感性に、大いに刺激を受けたのでした。
鑑賞した8作品のレビューを以下にまとめました。「君が望むものはすべて」「ジュリアの世界」「愛のために戦地へ」「花咲く恋」「かけがえのない数日」「切り離せないふたり」「告解」。近日中に「スイート・ドリームス」を追加する予定です。
※「イタリア映画祭2012」「イタリア映画祭2016」のレビューはこちら
君が望むものはすべて:★★★★★
少年たちの宝探し、得たものはプライスレス
出会いとは人生の宝探し。前作『ブルーノのしあわせガイド』も好きだけど、フランチェスコ・ブルーニ監督の描く物語は「こんな出会いがあったら、どんなに豊かで幸せだろう」と思わせてくれる。出会いはボーイ・ミーツ・ガールだけじゃないんだ(まぁ、それもオマケで付いてくるけども)。世代を超えた交流とそれがもたらす作用が面白く、示唆に富んでいる。大学を辞めて職もなくプラプラしている若者が出会うのは、アルツハイマーの元詩人。時間を持て余す同士、お互いの存在に刺激を受けながら、なんだかんだで上手くかみ合いはじめる。元詩人による恋愛指南は古風で逆に新鮮だけど、実はとても的を得ていたり・・・。やがて二人は元詩人の記憶を辿って、過去に遺してきた宝物を探しにゆく。監督の意図はわからないけれど、この物語に「オズの魔法使い」を重ねてしまう。魔法使い(元詩人)に出会えたドロシー(若者)と3人の仲間たち(悪友)は、それぞれの持ち味に気づかされ行動のきっかけを見出すのだが、良き出会いとは、まるで魔法のよう。ドロシーはどこにでも行ける魔法の靴を手に入れたが、この若者の未来もきっと明るい。
ジュリアの世界:★★★★★
ジュリアの透明感、優しさ、強さに救われる
これはとても心に触れた映画で、美しいヒロインの繊細な感情表現に引き込まれる。「周りから理解されない」という共通点を持った若い男女が、互いに救いを求めるように恋に落ちていく物語。女子高生ジュリアは家族全員が"エホバの証人"の信者で、生活は信仰と伝道を中心に動いている。ライフスタイルや価値観が理解されず、高校には友達が一人もいない。そんなジュリアは伝道の最中に、服役から戻ったばかりのリベロと出会う。リベロを救おうとしたジュリアだが、自由という意味の名を持つ彼との触れ合いのなかで、自身の信仰が揺らぎはじめる。「付き合う友を間違えると破滅する」という趣旨の言葉で始まる本作は、「果たして本当にそうなのだろうか」という疑問を投げかける。真逆ともいえる世界に住む二人の交流は、価値観がまったく違う他者だからこそ、気付かせてくれる真実もある、と思えて心震えた。
愛のために戦地へ:★★★★★
古き良きイタリア映画を思わせるブラボーな作品
主演と監督をつとめたピフことピエルフランチェスコ・ディリベルトに魅了され、個人的には今年の映画祭のハイライトに。舞台挨拶で開口一番「サーモン、サビ抜き10貫お願いします!」と日本語ネタを披露し、会場を沸かせたお茶目なピフ。愉快でサービス精神旺盛なキャラクターに作品への期待も高まるが・・・。期待をまったく裏切らない、否、いい意味でちょっと裏切られたような、笑いのなかにも芯のある素晴らしい映画だった。描かれているのは、第二次世界大戦後に実際にあった、アメリカとシチリア・マフィアとの蜜月関係。風刺のきいたコメディ仕立てで、イタリア南部が背負う"負の遺産"を語っていく。監督としての覚悟もその手腕も相当なもの。キャラクター造形も丁寧で深みがあり、イタリア独特の郷土愛や人間愛に温かい余韻が残る。
花咲く恋:★★★★☆
その一瞬にかける恋、ほとばしる青春!
後先考えず、周りへの迷惑もかえりみない、自分勝手な若者の話はちょっと苦手で、たいてい理解も共感もできない。だけど今作は珍しく彼らの気持ちに寄り添えた気がするし、思いのほか後味も爽やか。名優ヴァレリオ・マスタンドレアの好演による貢献も大きいけど、それだけじゃない。罪を犯してしまった彼らの境遇には同情の余地もあるし、未来に希望を見出すことができない彼らにとって、今この瞬間の恋は生きることを意味している。鉄格子の中から浜辺へ向かう景色に、少女の内面の変化が映し出される。感情表現の演出にセンスを感じるけど、6ヶ月間、実際に過ごして取材したという、少年院の描写も衝撃的。男女の接触は一切禁じられてるとはいえ、日本のそれとは違って何だか楽しそうである。