『ブルーノのしあわせガイド』少年の精神的成長を軽やかに描いた、“ローマ流”痛快コメディ
イタリアから痛快なバディ・ムービーが届いた。といっても、父と子の二人組を描いたコメディである。原題の「SCIALLA!(シャッラ!)」はローマの若者の間で流行しているスラングで、「まあいいさ」とか「気楽に行こう」という意味を持つという。さまざまな問題を抱えるイタリア社会で、したたかに生き抜く術なのだろうか。タイトルが持つ脱力系ボジティブなニュアンスのとおり、語り口は軽妙だけど、両親の存在や環境が子に与える影響を映し出した、社会派エンタテインメントだ。
ヴェネツィア国際映画祭で話題を呼び、イタリア国内で大ヒットを記録。ハリウッドではリメイク権をめぐって争われているという注目作で、日本でも2012年イタリア映画祭で上映され好評を博している。
15歳のルカは母親と二人、ローマで暮らしている。気はいいヤツで愛嬌も抜群だけど、学校では問題児。だけど本人にその自覚はあまりなく、何でも「シャッラ!」で解決しようとする落第寸前の落ちこぼれだ。母親はそんな息子を家庭教師ブルーノのところに通わせている。
一方、かつては教師だったブルーノ。いまは売れない作家で有名人のゴーストライターと家庭教師を兼業しながら、ひとり気ままな生活を送っている。しかしある日、ルカの母親から、仕事で留守にする半年間、ルカを預かってほしいと頼まれる。さらに、ルカは15年前に二人の間にできた息子だという衝撃の事実も告げられる。こうして、男二人の波乱に満ちた同居生活がはじまるのだが・・・。
物語はこの“ワケあり親子”によって繰り広げられる悲喜劇を軸にしながら、同時に、「父親不在が子に与える影響」というものを鮮やかに浮かび上がらせている。ルカは15年間、母親からの愛情をたっぷり受けて、おおらかでポジティブな少年に育った。だけど彼には、他人へ払う敬意というものがまったく見られない。学校の担任や職員に対しても、友達に対しても、母親やブルーノに対しても。(この傍若無人ぶりが本作を面白くしているのだが)。しかしある事件をきっかけに、彼のそういった側面に変化が起こりはじめる。
息子が父親を心から尊敬するのは、勉強を教えてもらうとか、厳しくしつけられるとか、そんなことではないようだ。劇中のルカも、そんなブルーノには激しく反発している。だけど、他人から敬愛されているブルーノを目の当たりにしてから、ルカの心持ちというものが変わりはじめていく。この辺りのユーモアを交えた描き方も、フランチェスコ・ブルーニ監督の腕の見せどころだろう。これまで脚本家として、社会風刺コメディの名作を次々と生み出してきた手腕が光る。
新星フィリッポ・シッキターノの伸びやかな演技も見どころ。ブルーニ監督にスカウトされ、本作でデビューを果たした彼は、抜群の存在感とスター性でルカ役をみごとに演じきった。無敵の笑顔で女性客のハートをがっちりと掴み、以後、イタリア国内で一気にブレイク。2013年イタリア映画祭では、デビュー2作目となる「ふたりの特別な一日」が上映されるなど、今後の活躍が期待される若手俳優のひとりである。
4月13日(土)、シネスイッチ銀座ほか、全国順次ロードショー
監督・原案・脚本:フランチェスコ・ブルーニ
出演:ファブリッツィオ・ベンティヴォリオ、バルボラ・ボブローヴァ、ヴィニーチョ・マルキオーニ、フィリッポ・シッキターノ
原題:Scialla!
制作:2011年/イタリア/95分
配給:アルシネテラン
公式サイト:http://www.alcine-terran.com/bruno/
2013年6月5日
映画「ブルーノの幸せガイド」毎日の繰り返しも、考え方次第なのかも…
映画「ブルーノの幸せガイド」★★★★ ファブリッツィオ・べンティヴォリオ、 バルボラ・ボブローヴァ、ヴィニーチョ・マルキオーニ、 フィリッポ・シッキターノ出演 フランチェスコ・ブルーニ監督、 95分、2013年4月13日より全国公開 2011,イタリア,アルシネテラン (原題/原作:SCIALLA!)…