(ライターブログ)イタリア映画祭2016を振り返る

今年のテーマは「愛」と「アイデンティティ」
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サインに応じるC・サンタマリアさん

今年もGW恒例のイタリア映画祭が開催され、東京会場では全14作品が上映された。トークセッションの内容や公式カタログをみると、今年のテーマは「愛」とか「アイデンティティ」のようだ。たしかに、どん詰まりの状況のなか現状を変えていけるのは暴力ではなく愛であり、また周りに流されることなく自分を貫く勇気である、ということを訴えた作品が多いような気がする。少しも良くならない政治や日常にはびこるマフィアの存在、あるいは家族や他人が押し付ける自分像。自分らしく生きることを制限する“縛り”に対して、諦めることなく立ち向かう人物像が今のイタリアでは共感を呼び求められている、ということなのかもしれない。それも特別な人ではなく、社会的に弱者や負け組といわれる人が主人公である作品が多いという傾向も(全ての作品を観たわけではありませんが…)。以下は鑑賞作品のレビューで、一部上映後のQAのコメントなども引用しています。


皆はこう呼んだ『鋼鉄ジーグ』 ★★★★☆
監督 ガブリエーレ・マイネッティ
主演 クラウディオ・サンタマリア

KIMG0234これまでのイタリア映画にはない超人的ヒーロー映画。ハリウッド的な娯楽とは一線を画してきた伊映画界において革新的な作品だと思う。ローマ郊外で盗品を売りながら生きていたエンツォは、ある日警察に追われ、川に飛び込んだ時に妙な液体にまみれてしまう。直後、体に異変が起こり、鋼の肉体を手に入れることに・・・。
正義感溢れるスーパーヒーローではないところがイタリア的。超人になっても最初はATMを破壊してお金を盗んだり、彼自身は何も変わらない。ただ力を得たことで、ある女性から好意と期待を抱かれるところから彼の人生は変わっていく。ダメ男と社会を救えるのは女性の愛、ということなのか。また、エンツォが犯罪に関わるようになったのは社会の構造に一因ある、と暗に指摘しているところも伊映画に通底するネオレアリズモを思わせる。この2人の関係については上映後のQAで、フェデリコ・フェリーニ監督『道』のザンパノとジェルソミーナに類似しているという指摘もあり「なるほど!」と思った(ただ監督は『レオン』の殺し屋と少女の関係をイメージしたとのこと)。
主演のクラウディオ・サンタマリアが、突如起こる身体の変化に戸惑い、パワーを持て余し、やがて愛を知るエンツォを熱演。役のために20キロも増量し、孤独な中年男の哀愁を漂わせる(いつかニコラス・W・レフンの作品に出て欲しい)。本作の演技が評価されイタリアのアカデミー賞といわれるダヴィッド・デイ・ドナテッロ賞の主演男優賞を受賞。


フランチェスコと呼んでーみんなの法王 ★★★★★
監督 ダニエーレ・ルケッティ
主演 ロドリゴ・デ・ラ・セルナ

image現ローマ法王フランチェスコとはどんな人物なのか。バチカンへの信頼を取り戻せるような庶民的でポジティブなイメージのある現法王だが、これまでどんな人生を歩んできたのだろうか。なぜ彼が人々に慕われているのか。
社会派で知られるルケッティ監督は、最初この撮影のオファーを断るつもりだったそう。でも実際にフランチェスコの出身地であるアルゼンチンに赴き、取材を進めるうちに撮ることを決意したという。社会派映画監督としての使命を感じたのだろう。描かれているのは、軍事政権下のアルゼンチンで苦悩する一介の聖職者の姿である。恐怖政治に屈することなく、弱き人々に寄り添い、彼らとともに歩んだ半生が映し出される。目を覆いたくなるシーンもあるが、一般公開してほしい。今後彼がバチカンをどのように変えていくのか注目したくなる作品。


処女の誓い ★★★☆☆
監督 ラウラ・ビスプリ(本作で監督デビュー)
主演 アルバ・ロルヴァケル

image女性の地位が低いアルバニアの閉鎖的な寒村で、自由に生きるために終生処女で男として生きることを誓うハナ。伝統的な慣わしとはいえ、時が経つにつれ、その生き方に疑問を感じ始める。そんなハナは、国を棄ててイタリアで暮らす妹を訪ねるのだが・・・。
アルバ・ロルヴァケル演じるハナが繊細で大胆で危うくて目が離せない。監督はアルバが演じることをイメージして脚本を書いたというが、アルバは女性から男性へ、そしてまた女性へと変化していく難役を好演。姿勢や歩き方といった外見の変化だけでも難しいと思うが、アイデンティティを取り戻すまでの心情を丁寧かつ自然に表現できるところに、この女優の凄みを感じる。また、その姿はアルバート・ノッブスを演じたグレン・クローズを思わせる。
女性が自由に生きるためには性別か国境を越えなきゃならないなんて!と暗い気持ちになるが、舞台がイタリアに移るとトーンも一変。シンクロナイズドスイミングなどプールのシーンが仕掛けになっていて、少しベタというかわかりやすいんだけど、それが面白かった。

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