(ライターブログ)イタリア映画祭2012を振り返って
毎年ゴールデン・ウィークに開催されるイタリア映画祭。
今年は東京会場で14作品が上映されたが、事前に見たのも含めて7作品観ることができた。最近のヨーロッパ映画の傾向なのだろうが、「移民を題材にした作品が多いな」という印象を受けた。一言で移民といっても、南から北まで舞台によってさまざまなようだ。例えば、イタリア最南端の島にはアフリカ大陸からの難民が、北部キオッジャにはEU諸国や中国からの移民が職を求めてやってくる、というように。色んな国からやってくる移民はそれぞれ事情も違うし、受け止められ方も違うのだということを今回のラインナップで知ることができた。
ゲストも多数来日し、毎回のようにQ&Aも行われていたが、ゲスト全員が集合してトークをする「座談会」はなかなか興味深いイベントだった。「今、イタリアで何が起こっているのか」を感じることができる映画祭だと思う。
以下、期間中にTwitterでつぶやいた感想をまとめてみました(★は5が最高で、オススメというよりは個人的な好みです)。
『大陸』★4
なんて衝撃的な作品だろう。移民問題で揺れるイタリアだが、南イタリアの島に暮らす人々には究極の選択が迫られている。漁に出て目にするものは、アフリカからの難民。人命を救助するか、己の生活を守るか。法と倫理観の間で苦悩する島民の心理描写が秀逸。
制作:2011年/イタリア=フランス/エマヌエーレ・クリアレーゼ監督
『シャッラ/いいから!』★4.5
癖はあるけど憎めない登場人物たちが交わす、何気ない会話が楽しい。赤いブリーフ姿がサマになる、存在感抜群のフィリッポ・シッキターノ君が最高!こういうの観たかった、イタリア映画だもの。後でムフっと笑える伏線も◎ 公開希望!
制作:2011年/イタリア/フランチェスコ・ブルーニ監督
『天空のからだ』★4
思春期の少女の目を通して、宗教や教会の空洞化を描いた作品。カンヌ映画祭の話題作でイタリア本国でも大きな反響があったそう。余裕のない大人たちが、迷える子羊をより混乱させている状況は万国共通か。教会に違和感を感じた少女はどこへ向かうのか。再生への期待が込められているようなラストに好感。
制作:2011年/イタリア=フランス=スイス/アリーチェ・ロルヴァケル監督
『至宝』★3
中田英寿が所属していたチームの親会社がモデルで、粉飾会計により破産した事件が本作のもとになっている。コネと男尊女卑は当たり前という保守的な会社が、グローバル化で右往左往し、崩れていく様子がリアルに描かれている。「一度入ったら抜けられない」という台詞と、会計役の死んだ魚のような目、女性社員のサバイバル術が印象的。
制作:2011年/イタリア=フランス/アンドレア・モライヨーリ監督
『楽園の中へ』★3
スリランカ移民のコミュニティの様子は興味深かったけど、移民・マフィア・失業など、色んなモノを詰め込み過ぎちゃって、消化不良になってしまった感じ。途中までそれらの要素が絡み合っているように見えたけど、ラストでうまく結びついていないのが残念。
制作:2010年/イタリア/パオラ・ランディ監督
『シュン・リーと詩人』★4
ジャ・ジャンクーのミューズとして知られるチャオ・タオのしっとりとした演技と港町の情景が涙を誘う。我が子を祖国に残し、単身でイタリアに出稼ぎに来た中国人女性の目線で、移民問題が描かれている。引用されている詩も情緒豊かで余韻が残る。2012年・冬に公開決定。
※後日、アンドレア・セグレ監督のインタビューを当サイトに掲載します。
制作:2011年/イタリア=フランス/アンドレア・セグレ監督
『ローマ法王の休日』★5
昨年カンヌ国際映画祭で鑑賞。日本語字幕でもう一度観たかったけど、イタリア映画祭ではチケットが完売。監督のナンニ・モレッティもカウンセラー役で登場していて、途中までコミカルで笑えるが、最後は驚きのあまりすぐには立ち上がれなかった。2012年7月21日から劇場公開。
※昨年書いたカンヌレポートはこちら。
制作:2011年/イタリア=フランス/ナンニ・モレッティ監督
文:鈴木こより
▼「イタリア映画祭2012」概要
東京会場/4月28日から5月4日 有楽町朝日ホール
大阪会場/5月12日から5月13日 ABCホール
公式サイトはこちら