「ソーシャル・ネットワーク」野心とコンプレックスが生んだ世界最大のSNS
世界最大のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)Facebookの若き創業者、マーク・ザッカーバーグに焦点を当てた「ソーシャル・ネットワーク」。2004年初頭、ハーバード大学の学生だったマーク(ジェシー・アイゼンバーグ)が友人エドゥアルド(アンドリュー・ガーフィールド)と共に作り上げたSNSは、著しい発展を遂げ、やがて巨大サイトに成長する。一躍大富豪となったマークだが、一方で共同経営者エドゥアルドや大学時代の知人から訴訟を起こされる…。映画は、Facebook誕生から発展までの「過去」と、マークとエドゥアルドらが対峙する「現在」の2つの時間軸を交錯させながら進行していく。
非常に興味深いのは映画の冒頭。2003年の冬、マークとガールフレンドのエリカ(ルーニー・マーラ)がカフェで話をしているシーンなのだが、会話の内容が、とにかく、噛み合っていない。ファイナルクラブ(大学にある社交クラブ)のこと、ボート部のこと、勉強のこと…。話題はいろいろ出てくるのだが話が噛み合わず、挙句の果てに彼女はキレて、マークはフラれてしまうのだ。
実はここで、マークのコミュニケーション能力の欠如が露呈されていると同時に、彼の内面にほとばしる高い自尊心やエリート学生たちへの嫉妬心、自分は不当に評価されているという苛立ちが溢れている。これらのコンプレックスとコミュニケーション不全(ミスコミュニケーション)が、自分をフッた彼女への復讐心と相まって、やがて世界中の人を繋げるコミュニケーションツールを生む…この視点がなんとも面白い。
マークの天才的なスキルによって誕生し、世界を席巻するほどの発展を遂げたFacebook。その過程は非常にスリリングであるが、同時に人間関係の破綻、企業家の苦悩や孤独といったものも克明に描かれる。しかし、映画では、誰かを悪人に仕立て上げるでもないし、SNSのあり方や是非を問うような描き方はされていない。むしろ本作のねらいは、野心とコンプレックスを抱えた青年の姿を活写することではないだろうか。Facebookの成功はさまざまなものをマークにもたらしたが、結局彼は相変わらずコミュニケーション下手だし、味方をしてくれる友人はいない。その皮肉、その悲劇を示しながら、ストーリーの着地として、ラストでは、SNSを作ることになった原点、つまり映画の冒頭で提示されたものに戻っていく。そこで初めて、マークが一歩前進するかのように、私には思えるのだ。
監督は、『セブン』『ファイト・クラブ』などで知られる鬼才、デヴィッド・フィンチャー。個人的に『セブン』は私の中のナンバー1映画で、本作を見てもその位置は変わらない。フィンチャー監督作に寄せる期待が大きいので、ハードルは高くなるわけだが、それでも本作が各映画賞にノミネートされているのは頷けるところ。セリフ過多なうえにスピードも速く、専門用語も多用されるが、見る者を飽きさせず120分間を見せ切る手腕はさすがだ。とは言え、鑑賞前にSNSやFacebookの知識を少し入れていった方が、より映画を楽しめるだろう。
Text by 外山 香織
オススメ度★★★★☆
製作国:アメリカ 製作年:2010年
監督:デヴィッド・フィンチャー
出演:ジェシー・アイゼンバーグ、アンドリュー・ガーフィールド、ジャスティン・ティンバーレイク、ルーニー・マーラ
公式サイト http://www.socialnetwork-movie.jp/
2011年1月15日(土)丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
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