「英国王のスピーチ」演技を超える?コリン・ファースの“いい人オーラ”
ウィリアム王子とケイト・ミドルトンさんのロイヤル・ウエディングに向けて盛り上がる英国。良くも悪くも英国のマスコミが王室報道に過熱しがちなことは日本人にも馴染みの事実だ。かくも庶民に親しまれている、そのきっかけを作ったといわれているのがジョージ6世(1895-1952)、現エリザベス女王の父親であり、『英国王のスピーチ』の主人公である。
幼少より吃音(きつおん)のコンプレックスを抱え、内気で人前に出ることも苦手だったジョージ6世(コリン・ファース)は、“王冠を賭けた恋”のために王位を捨てた兄・エドワード8世(ガイ・ピアース)に代わって、文字通り「泣く泣く」王位に就いた。スピーチで始まり、スピーチで終わる公務の数々。治療を受けても改善しない夫を心配した妻のエリザベス(ヘレナ・ボナム=カーター)は、オーストラリア人の型破りなスピーチ矯正専門家ライオネル(ジェフリー・ラッシュ)を訪ねる。同作は、傷を抱えた人間が、自らを克服し、国民から信頼される本当の国王になるまでを描く。
内気ながらも誠実に国民に寄り添い、尽くし、第二次世界大戦中には幾度もラジオ番組に出演して兵士たちに激励のメッセージを送るなど、夫婦で英国国民を大いに励まし「イギリス抗戦の象徴」とまで呼ばれたジョージ6世。女性問題で王位を捨てた先代のエドワード8世あたりから英国王室の威光は失われていったという見方もあるが、 敢えて“庶民に愛される王室” に変貌を遂げたと言い換えたい。そしてその新たな王室イメージの誕生は、この頃のジョージ6世とエリザベスが礎になったと言っても過言でないだろう。
オスカー当確の声も高いコリン・ファースは、持って生まれた品性、人柄の良さが溢れ出んばかりの好演を見せている。『ブリジット・ジョーンズの日記』(01)のマーク・ダーシーのような知的で優しい英国紳士役がぴたっとはまりすぎた故、これまで同じような役柄を何作も演じ続けていた感がある。「求められれば何でもやる、脇役でもやる」という、謙虚なほど人の良さそうな俳優だと思っていた。しかし、今となってはそれも、すべては“英国王”への道だったのか。観客は、決して目立つことのない地味な男の人間臭い弱さに心を寄り添わせ、困難に立ち向かう姿に共感を抱く。それは決して俳優の“巧さ”だけによるものではなく、スクリーンからジョージ6世=コリン・ファースの人柄の良さが十分に伝わってくるからだ。
日本時間2月28日発表の米アカデミー賞作品賞で、同作の最強の対抗馬と目されているのが『ソーシャル・ネットワーク』(作品レビュー)だが、英国王室もSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)Facebookに参加している。「伝えるべき声がある」―だからジョージ6世は演説に臨んだ。さすが庶民に愛される王室、時代は変わり、声の伝え方にも変化があるのが面白い。
Text by:新田理恵
オススメ度★★★★★
2011年2月26日(土)TOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマ他全国公開
© 2010 See-Saw Films. All rights reserved.
【原題】THE KING’S SPEECH
【監督】トム・フーバー
【脚本】デヴィッド・サイドラー
【出演】コリン・ファース/ジェフリー・ラッシュ/ヘレナ・ボナム=カーター/ガイ・ピアース/ティモシー・スポールほか
2010年/イギリス×オーストラリア合作/118分
公式サイト http://kingsspeech.gaga.ne.jp/
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