【FILMeX】第16回東京フィルメックス受賞結果と記者会見
11月28日、第16回東京フィルメックスの授賞式に先立ち、朝日スクエアB(有楽町マリオン11F)にて受賞発表記者会見が行われた。受賞結果、授賞理由と受賞者の喜びの声は以下のとおり。
【第16回東京フィルメックスコンペティション】
▼最優秀作品賞『タルロ』(中国/2015年/123分)
ペマツェテン監督
授賞理由
シルヴィア・チャン審査員
「IDを求める男がIDを無くすシンプルなコンセプトを美しく映画にしたことに対してグランプリを贈ります」
ペマツェテン監督
「本当に嬉しいです。シルヴィア・チャンさんには、台湾の金馬奨でもお目にかかったばかりなのです。ここでまたシルヴィア・チャンさんから授賞理由を言っていただけて本当に嬉しいです。今回またフィルメックスに戻ってこられて、この映画祭がいかにスペシャルな映画祭かということが、本当によくわかりました。この場所で多くの映画人と出逢いました。ここ数日、毎日映画館にいて色々な映画を観ることができました。こういう経験は特別なものですし、ここで賞をいただくことを大変光栄に思います。心からのお礼を申し上げたいと思います」
▼審査員特別賞
『ベヒモス』(中国/2015年/91分)
チャオ・リャン監督
授賞理由塩田明彦審査員
「現代文明と、荒廃していく人間と自然を批判的かつ詩的にヴィジュアル化したことに対して、審査員全員からこの賞を贈りたいと思います」
チャオ・リャン監督
「とても嬉しいです。実は、今朝取材があるので来るようにというメールをもらったのです。そしたら騙されました。賞をいただくということだったので、本当に嬉しいです。審査員の皆さんに心から感謝します」
▼スペシャル・メンション
『白い光の闇』(スリランカ/2015年/82分)
ヴィムクティ・ジャヤスンダラ監督
サマン・アルヴィティガラさん(編集)
「初めての映画祭参加し、この作品が初めてフィルメックスで上映されたことを嬉しく思います。この賞はスリランカ映画界にとても大変光栄でありまして、これからもっといい映画を作っていけるようになると思います」
奥田庸介監督
(『クズとブスとゲス』日本/2015年/141分)
奥田庸介監督
「さっき知らされて、ちょっとドキドキしてて。心臓の鼓動、皆さん聴こえてますか(シャツを捲ってマイクを胸に当てる)スペシャル・メンションという形で私の作品を評価していただけたことは、本当に光栄で、すごく嬉しく思っています。審査員の方々、映画祭の関係者の方々に、私の人生の残りの幸せを全部分けます」
▼観客賞
『最愛の子』(中国・香港/2014年/130分)
ピーター・チャン監督
▼学生審査員賞
『タルロ』(中国/2015年/123分)
ペマツェテン監督
学生審査員
山元環さん(大阪芸術大学卒)、菅原澪さん(日本女子大学)、十河和也さん(明治大学)
授賞理由
「恋歌は、纏っていたものを自ら剥ぎ取り、喧噪に唸るパンクロックへと変化した。タルロ。彼は、誰かを傷つける術も、自分を守る術さえも知らない。人に逢えば笑いかけ、時には自分の名前を忘れてみる。まるで、小さな子どものように感じる瞬間さえある彼は、どこまでも「無防備」だ。理髪店、カラオケ。何者かに、手を引かれるようにして「街」に出た時、その愛すべき無防備さは浮き彫りになる。未経験を経験していく彼に、何度か繰り返される毛沢東の言葉が重なる。言葉は、彼自身の熱を帯びたものに思えてくる。本当に、彼が返るべき場所は「自然」だったのだろうか。最後、緑の中、私たちに背を向けるタルロに以前の面影は無い。圧倒的な、何かを得た、或いは失った彼をそこに見た。」
ペマツェテン監督
「僕はフィルメックスに縁があるのだと思います。以前にも賞をいただき(『オールド・ドッグ』で最優秀作品賞受賞)、学生審査員の皆さんから賞を頂いたことは、本当に激励のひとことに尽きます。このように励ましていただくと、僕はこれからも、自分の作りたい映画を作っていくことができます」
▼タレンツ・トーキョー・アワード2015
「A Love to Boluomi」 (ラウ・ケクフアット/マレーシア)
終わりに、イ・ヨンガン審査委員長は、総評を次のように述べた。
「この1週間 10本の映画を拝見させていただいて、とても幸せでした。アジアの新しい映画、アジアの映画の新しい傾向、新人の監督さん、意欲に溢れた未来を観ることができ、審査員である以前に1人のアジアの映画人としてとても興味深く幸せな時間を過ごすことができました。審査員全員がこの10作品の中で、どれが賞を取ってもおかしくないと考えていました。本当に素晴らしい作品ばかりで、驚くべき経験をさせていただきました。私たち審査員全員この10作品全部に賞をあげたい気持ちでした。とても実験的な作品、意欲に溢れた作品ばかりで、アジア映画の未来は明るいということを感じさせてくれました。その意味で、私たちのほうから作品すべてに感謝の気持ちを伝えたいです。今日賞を取った4作品、それ以外の6作品の監督さんすべてに称賛の言葉を贈りたいと思います」
すべての賞が発表された後、Q&Aの時間が設けられたが、記者の質問はペマツェテン監督の『タルロ』に集中した。特に劇中、タルロが三つ編みにしている髪を切るシーンについてのコメントがとても興味深い。
ペマツェテン監督
「主演の俳優は、チベット地区ではとても有名なコメディアンで、コントや漫才をよくやっている人です。詩を書いたりもしています。コメディアンなのですが、どこか憂鬱な雰囲気も持っているところが、私のイメージしていたタルロにぴったりでした。大きな決め手となったのは、この俳優さん自身が三つ編みをしているということです。彼は17年間髪を伸ばしていたのです。実は髪を切らなければいけないということで、最初はとても迷っていました。でも彼は脚本をよく読んで、やっぱりこの役をやりたいと言ってくれたのです。しかし、いざ切るというシーンになって、彼はまた迷いだし撮影は一時ストップしましたが、翌日には切る決心をしてくれました。役のため、芸術のために、自分はこの髪を犠牲にしますと言ってくれたのです。でもあのシーンは、この映画の中でもっとも難しい撮影でした。髪を切る側の女性ヤンチョ役の女優さんは大変な練習を重ね、あのシーンに臨みました。撮影に入ってから、練習台として何人もの人が頭を刈られたんですよ。彼にとっては歴史的なことだったと思います。彼のイメージがガラッと変わっていくということで、ツイッターでも話題なりました。あのシーンは1回しか撮れませんので、あそこだけは同時録音を諦めて、画をしっかり撮ろうと思いました。俳優にも演技に集中してもらえたので、いい画が撮れたわけです。髪を切られる瞬間、タルロ役の役者さんが僕に「目をつぶって心の中で涙を流していました」って、そっと言ってくれました」
ちなみに本作は、中国国内では、チベット自治区の映画や芸術を学ぶ学校で、1度だけ上映されただけで、来年の上半期くらいにチベット自治区を含む中国国内で公開される予定とのことである。
▼第16回東京フィルメックス▼
期間:2015年11月21日(土)〜11月29日(日)
場所:有楽町朝日ホール・TOHOシネマズ日劇・有楽町スバル座
公式サイト:http://filmex.net/2015/