【FILMeX】タルロ(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

【作品解説】

Tharlo(東京フィルメックス公式サイトより)
オールド・ドッグ』で第12回東京フィルメックスグランプリに輝いたペマツェテン監督の最新作。現代文明と伝統文化の相違に引き裂かれてゆくチベットの遊牧民をユーモアとほろ苦さを交えて描く。長回しの撮影と大胆な構図が強烈なインパクトを与える力作である。

【クロスレビュー】

藤澤貞彦/豊かな映像表現で孤独が心に沁み入る度:★★★★★

冒頭のシーンから羊飼いの素朴さが滲み出る。タルロという名前がありながら、彼の髪型を表す、三つ編みという呼ばれ方しかされていないところに、彼の村での地位が想像できる。牧場では、モノクロの暗闇の画面の中に小さく浮かぶ火が、タルロの孤独を照らし出す。一方IDカード用の写真を撮りに行った街の、カラオケボックスでは、人工的な光の束が、彼がこの場にそぐわないことを浮き彫りにする。親しくなった街の女性と彼の会話が、いつも鏡越しに写されることで、二人が理解しあえていないことが暗示される。街に拒絶された彼には、結局行き場がない。IDカードが、決して彼が誰であるかを証明することにはならないところに、この国の「今」と、自らのアイデンティティとの間で引き裂かれるチベット族の思いが、静かに滲み出て胸に迫った。

富田優子/監督のチベットの今を撮り続ける姿勢へのリスペクト度:★★★★☆

チベット族の羊飼いとして素朴で孤独な生活を送っていた主人公が、「自分が誰であるかを証明するもの」であるIDカードをつくろうとしたがゆえに、自分自身を見失っていく姿は皮肉としか言いようがない。町へ出て証明写真を撮る、美容院で髪を洗う、若い女性とカラオケに行き、一夜を共にする・・・、彼にとっての未知の体験がチベット族と中国との文明の衝突であり、誘惑と堕落、そして自滅の道であったのだろう。モノクロの画であることが、時代の波に淘汰されていくチベット族の悲哀がより強調されている。ペマツェテン監督は前作『オールド・ドッグ』でもそうであったように、変わりゆくチベットの今を見つめ、チベットの人々の声なき声を代弁しているかのようだ。


▼第16回東京フィルメックス▼
期間:2015年11月21日(土)〜11月29日(日)
場所:有楽町朝日ホール・TOHOシネマズ日劇・有楽町スバル座
公式サイト:http://filmex.net/2015/

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