国内初!『イスラーム映画祭2015』全9作品が決定
2015年12月12日(土)~18日(金) 渋谷ユーロスペースにて、日本では初めてとなる、イスラーム映画祭が開催される。このたびその全貌、9作品の発表がされた。
世界三大宗教のひとつイスラーム教。その信者数は、今や16億人を超えると言われている。私たちは、それの何を知っているというのか。アッラー(神)、クルアーン(経典)、モスク(礼拝所)、ジハード(聖戦)、ベールを全身に被った(ニカブ)女性、PLO、自爆テロ、ISISなどなど。日本で流れるニュースは、そうした諸々の断片に過ぎず、得体の知れない、あるいは怖いイメージだけが先行してはいないだろうか。
しかし、映画の世界に顔を向けてみると、イスラームと言っても、国によって多様な顔があることがわかる。例えば、一般的にはアルコール禁止と考えられているイスラーム教だが、キルギス映画『明りを灯す人』(10)では、堂々とお酒を呑んで酔っ払うシーンが出てくるのである。これは、元来イスラーム教には寛容なところがあって、ところによっては、今は出来なくてもその分善行を積めば良い、という解釈も存在するからだ。キルギスだけではない。トルコもお酒が呑める国としてよく知られている。この国には、エフェスビールなんて有名なビールさえ存在しているほどである。なぜそんなことができるかといえば、これらの国々では、法律で飲酒が禁じられていないからである。その点がイランなど、国の法律がイスラームに即している国とは決定的に違う。そこで、前者をムスリムの国、後者をイスラームの国として、区別するのが一般的となっている。
キリスト教とイスラーム教、ユダヤ教は常に敵対していて、交じり合うことはないのか。マレーシア映画『ムアラフ 改心』では、キリスト教徒の青年と、ムスリム(イスラーム教)の姉妹が親しくしており、決してそんなことはないことが、すぐにわかる。レバノン映画『キャラメル』(07)では、イスラーム教徒の人たちが住む地域を、キリスト教のお祭りの列が通過していく。パレスチナ映画『ガザを飛ぶブタ』(10)では、イスラエル人がパレスチナ人を、アラブ系女優がイスラエル人を演じているのだが、何ら違和感がなく、見かけだけでは両者が区別できないことを教えてくれる。元々この地は、アラブ人とユダヤ人が共生してきた歴史のほうが長い。それゆえに、昔からアラブ系のユダヤ人、ユダヤ系のムスリム(イスラーム教徒)も、実際存在しているのである。しかし、1917年英国のロイド=ジョージ首相他によるバルフォア宣言によって、両民族の対立が創り出されたことが発端となり、それが崩れていったのだ。
このように、イスラーム圏の映画は、私たちがあまりにも知識がないこともあるのだろうが、そのひとつひとつが驚きと、発見の連続である。しかし、これらの国々の映画はなかなか観ることができない。確かに東京国際映画祭や東京フィルメックスなどで観る機会はある。しかし、それはあくまでも点である。今回の映画祭では、8カ国の作品が並べられているのだが、このように多様性を持ったさまざまな国の映画を一同に会して観ることは、それとはまた違った体験になるのではないだろうか。縦断的、横断的にそれらの作品を眺めてみることで、それぞれの国が抱えている問題だけでなく、イスラーム文化の豊かさや、多様性が見えてくるのではなかろうか。そして何よりそこに暮らす人たちの気持ちが、当たり前ではあるけれど、私たちと何ら変わらないということが、理解できることだろう。日本人の人質事件、シャルリ・エブド襲撃事件、泥沼化するイラク、シリア。そんな不穏なニュースが多い今だからこそ、すこしでも、私たちはイスラーム教のことを理解する必要がある。そういう意味でも、私は、こんな映画祭を待っていたのである。
【作品紹介】
1.オープニング上映『禁じられた歌声』(マリ)
イスラム過激派の支配に非暴力で抵抗する人々の姿を描き、フランス・セザール賞で最優秀作品賞ほか7部門を獲得。本年6月に開かれたフランス映画祭でも有楽町朝日ホールを
満席にした話題作、『禁じられた歌声』(フランス映画祭題『ティンブクトゥ』)を特別上映!
(12月26日(土)よりユーロスペースにて一般公開)
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作品紹介とアブデラマン・シサコ監督Q&A
2.『ガザを飛ぶブタ』(パレスチナ)
イスラームとユダヤの双方にとって禁忌とされる豚をめぐる騒動を通じ、いまだ和平への道のりが遠いパレスチナを風刺した痛快コメディです。イスラエル人俳優がパレスチナ人を、アラブ系女優がイスラエル人を演じています。
映画と。掲載記事【TIFF】ガザを飛ぶブタ
観客賞受賞!宗教的タブーが奇跡を生む、ファンタジック・コメディ
3.『神に誓って』(パキスタン)
パキスタン国内における原理主義とリベラルなムスリムの軋轢や、異教徒間での結婚など、様々なテーマをダイナミックに捉えた重量級の社会派ドラマです。本国では歴代興行記録を塗り替え、一大社会現象にまで発展しました。
4.『長い旅』(パリ⇔サウジアラビア)
“メッカ巡礼”の旅に出た父子を通じ、移民社会のジェネレーション・ギャップを描きます。少しずつ互いを理解してゆく父子の物語と、フランスからサウジアラビアまで7ヵ国をまたぐ旅が心をゆさぶるロード・ムービーです。
5.『ムアラフ 改心』(マレーシア)
傷ついた魂を持つ者たちが、互いの中に安らぎを見出してゆく姿を通じ、“人を赦す大きな力の源”を謳う信仰と改宗をめぐるドラマです。自身も敬虔なムスリムだったヤスミン監督は、2009年に51歳の若さで他界しました。
6.『トンブクトゥのウッドストック』(マリ)
サハラ砂漠に暮らす遊牧民“トゥアレグが”、自らの文化的アイデンティティを内外に示すべくマリで毎年開催してきた音楽祭「砂漠のフェスティバル」。その2011年の模様を、詩情豊かに描いた珠玉の音楽ドキュメンタリーです。
7.『カリファーの決断』(インドネシア)
ニカブをまとうことになった女性の戸惑いを描く人間ドラマです。男のみが託される“導く者”という意味から、中東では女性にはつけられないカリファーという名のヒロインを通じ、真の抑圧や女性の自立とは何かを問いかけています。
映画と。掲載記事【TIFF】カリファーの決断
ニカブを被ること、それは彼女が成長するためのひとつの過程。
8.『法の書』(イラン)
宗教の違いからくる家庭内文化摩擦をユーモア満載に描いた国際結婚コメディです。でも、妻と夫の家族がうまくいかないのはどこの国も同じ!? 検閲により一部をカットされましたが、イランでも無事に公開されヒットしました。
9.『二つのロザリオ』(トルコ)
イスタンブールを舞台にした、滑稽でもどかしくも切ない恋物語です。伝えたくても伝えられない主人公の想いが、宗教の壁とさりげなく重ねられ、胸をしめつけます。アジアとヨーロッパを結ぶ静謐な街のたたずまいも、息をのむ美しさです。
【開催概要】
会期: 2015年12月12日(土)~18日(金)
会場: 渋谷ユーロスペース(http://www.eurospace.co.jp/)
主催: イスラーム映画祭実行委員会
特別協力: TRANSIT編集部
運営:シネヴィル(シーハウス)
オフィシャルWEBサイト:http://cineville.jp/iff/
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