【フランス映画祭】ティンブクトゥ(仮題)

作品紹介とアブデラマン・シサコ監督Q&A 「これは、野蛮な行為、暴力に反対するための映画です」
(c) 2014 Les Films du Worso (c) Dune Vision

(c) 2014 Les Films du Worso (c) Dune Vision

邦題『禁じられた歌声』
【作品レビュー】

ジープ、トラックに乗った兵士たちがガセルを追う。ライフルが撃ち込まれるが、「撃ち殺すな」そんな声が飛び、撃たれることはない。絶えまなく追い詰められ逃げ惑うその様子。場面が変わって兵士たちが、古代の土偶を的に射撃競争をする。ふくよかな女性像の胸や腕が吹き飛び、口からは、白い煙が流れ出る。今、アフリカや中東で起こっていること、イスラム過激派のしていることを、冒頭にイメージとして観客の目に焼き付ける。ガゼルは住民たち。土偶は伝統の破壊。それと、女、子供への迫害。

タイトルのティンブクトゥとは、マリ共和国の古都。これは2012年、実際にアフリカのマリ共和国で起こったマリ北部紛争をモデルにした物語。これは、今現在ISISに占領されている地域で何が行われているかを知る、ひとつの手掛かりにもなることだろう。

ティンブクトゥの周囲の小さな村にイスラム過激派組織がやってきて、さまざまな規制が敷かれる。女性はチャドル(黒地の布で作ったベール状のもので)、手袋、ソックスを着用すること。サッカー、音楽、煙草は禁止。伝統的なものは捨て去ることなどなど。「魚を売るのに手袋なんてできるわけないじゃないの」もっともなことを言って抵抗する女性もいるが、違反したものには、鞭打ちの刑が処せられる。それでも村人たちの中には、抵抗する女性たちがいる。伝統的な華やかな衣装を着る者。夜中に隠れて音楽を演奏する者。若者たちもエアーサッカーをして、ギリギリの抵抗を試みる。サッカーボールが見つかったら、鞭打ちの刑になってしまうからだ。

兵士たちは、リビアから、アラブから色々な地域からやってきている。イスラム寺院にも、武器をもってズカズカと入って、祈りを奉げていた、地元のイスラム指導者らしき人物にたしなめられるという場面もある。神聖な場所に何事かと。彼は「あなたたちのジハードと私のジハードは全く違う。私は内なるところにジハードがある」と、彼らからの協力を拒むのである。

物語は、街外れでテントを張り、遊牧して暮らす3人家族を中心にして進んでいく。「兵隊は早死にしちゃうけれど、お父さんは楽器の演奏家だから今も元気なの」一家の女の子は、放牧の手伝いに来ている、家族を亡くした男の子に、そんな話をする。この一家は、村の人たちと違う民族のようだ。言葉も通訳を介して話をしなくてはならない。今では、他の人たちは恐怖に駆られみんな移動してしまったため、この家族だけがここに残っている。村から離れていることもあって、夜には一家で歌を唄い、比較的のんびりと暮している。そんな家族にもやがて悲劇の影が忍び寄っていく。
ここまで住民たちを苦しめて一体、誰のための戦いなのか。これは宗教を自分たちの都合のいいように解釈して、さまざまな刑を作り非劇を生む、恐怖政治そのものなのではないか。日常の村人と兵士たちのやり取りの中で、本作はその矛盾を静かに綴っていく。今こそ観るべき作品である。


【Q&A】

アブデラマン・シサコ2015年6月28日、フランス映画祭2015において上映後、アブデラマン・シサコ監督によるQ&Aが行われた。

―――この映画の製作意図について

「この映画は緊急な状態で作られました。マリ共和国では、北部紛争によって、過激派の占領が、2012年から1年間続きました。私は、新聞で一組の男女が石撃ちの刑にあって、死亡したというニュースを知りショックを受けました。これは、野蛮な行為、暴力に反対するための映画です。それとこの作品でもうひとつ言いたかったことは、イスラム教というのは、決して暴力の宗教ではない。ただ、暴力を振るう人がいるということです。宗教というものは、そもそも暴力ではなく、愛であり、受け入れること、許すことなのです」

―――演じている人たちはどんな人たちだったのですか

「演じているのは、プロの俳優と、そうでない人が入っています。主人公のキダムの本職は、ギター奏者、妻は歌手です。彼らは映画に出演するのは初めてでした。過激派の長は、アルジェリア出身のフランスで活躍している俳優、踊りを踊っている過激派の兵士はチュニジア出身のフランスの俳優、魚を売っている人はマリの女優です。他には私の友人や、撮影を手伝ってくれた地元の人などです。俳優でない人たちと仕事をすることには慣れています。これは、お互いに信頼するということだけでうまく行きます」

―――この作品はどのようにして作られたのですか。どの程度事実に基づいているのですか

「シナリオは、マリの北部が占領されている間に書きました。その後、この地域が開放されたので、実際に現地に行き、その時期に生活していた人たちに実際に会って、話を聞きました。この映画の物語は、色々な人から聞いた事実にインスピレーションを得て作られています。そこで会った人たちは非常に平和な抵抗をやっていたわけです。例えば、歌を歌ったことを罪に問われた女性が、鞭打ちの刑を受けながらも、なお歌い続けていたりとか。これを物語の中に取り入れたのは、非常に強い女性達が、勇気をもって抵抗していたということを示したかったからです」

アブデラマン・シサコ―――過激派が来なければ、一家の運命は違っていたのですか

「過激派が来なければ、元々この国には死刑制度がなかったので、村人は、死刑になることはなかったと思います。この映画の中心になっている物語の事件は、実際にあったことです」

―――過激派も普通の人として描かれていますが

「過激派は、単なる暴力を振るう人とは描いていません。なぜかというと、暴力だけを描いてしまいますと、非常に冷たいものになりますし、それを見せ物のようにはしたくなかったのです。その逆に暴力を静かなものとして描くことが重要です。そのほうが、もっと危険なものになるのです。非常に重要なのは、野蛮な行為とか暴力は人間がするものであるということです。人間がどれだけ恐ろしいことができるか、その能力を示したかったのです。またアメリカ映画にあるようなバイオレンスというようなものは避けたかったのです。人が死んだということをわかるために、血を見る必要はありません」


▼作品情報▼
原題:Timbuktu
監督:アブデラマン・シサコ
出演:イブラヒム・アメド・アカ・ピノ、トゥルゥ・キキ、アベル・ジャフリ
2014年/フランス・モーリタニア/97分/16:9/5.1ch
配給:RESPECT  配給協力:太秦
2015年 公開予定
受賞歴
2015年 セザール賞最優秀作品賞・監督賞・脚本賞ほか7部門 受賞
2015年 アカデミー賞®外国語映画賞ノミネート
© 2014 Les Films du Worso


【フランス映画祭2015】
日程:6月26日(金)〜 29日(月)
場所:有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ 日劇(東京会場)
団長:エマニュエル・ドゥヴォス
*フランス映画祭2015は、プログラムの一部が、大阪、京都、福岡で6月27日(土)から7月10日(金)まで、巡回上映します。
公式サイト:http://unifrance.jp/festival/2015/
Twitter:@UnifranceTokyo
Facebook::https://www.facebook.com/unifrance.tokyo
主催:ユニフランス・フィルムズ
共催:朝日新聞社
助成: 在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
後援:フランス文化・コミュニケーション省-CNC
協賛:ルノー/ラコステ
運営:ユニフランス・フィルムズ/東京フィルメックス

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