【FILMeX】第15回東京フィルメックス、クロージングセレモニー

最優秀作品賞は、『クロコダイル』に決定!

コンペ集合写真11月29日、有楽町朝日ホールで第15回東京フィルメックスのクロージングセレモニーが行われ、コンペティション部門の各賞が発表された。

【第15回東京フィルメックスコンペティション】

▼観客賞
プレジデント
モフセン・マフマルバフ監督
(グルジア、フランス、UK、ドイツ/2014年/119分)
▼学生審査員賞
彼女のそばで
アサフ・コルマン監督
(イスラエル/2014年/90分)
▼スペシャル・メンション
『シャドウデイズ』
チャオ・ダーヨン監督
(中国/2014年/95分)
▼審査員特別賞
彼女のそばで
アサフ・コルマン監督
(イスラエル/2014年/90分)
▼最優秀作品賞
クロコダイル
フランシス・セイビヤー・パション監督
(フィリピン/2014年/88分)



記者会見集合写真クロージングセレモニーに先だって記者会見が行われ、ジャ・ジャンクー審査委員長は、次のように本映画祭を振り返った。

「どの作品も啓発を受けるレベルの高い作品でした。コンペの作品を観ることで、各作品の背景、社会状況、人間について、より深く知ることができました。若い監督たちの物の見方、映画の新しいスタイルを観ることかができました。今、自分は焦っています。皆さんに負けない良い映画を撮っていかなければと、思っています」

今回の審査は、まず初めに各審査員に自分のお気に入りの作品を3本挙げてもらい、それを叩き台にして議論を進め、その結果全員一致で意見がまとまったとのこと。審査員のリチャード・ローマンド氏に至っては「あんまりすんなり決まり過ぎて、つまらなかった。もっと議論をしたいくらいだった」と、その様子を語る。

審査員長記者会見今回、特にスペシャル・メンションを与えたことについて、ジャ・ジャンクー氏は「現在映画を撮る時に、社会と離れていっているのではないかという危機感があります。スペシャル・メンションを若い人に与えることによって激励すると共に、社会との関係を緊密に保ちながら映画を撮っていってほしいと考えました」と、その意義を語った。




今年のコンペは、例年以上に作品の質が高いのでは。巷では、そんな声がちらほらと聞こえていた。歴史を通して今を考える作品、社会問題を捉えた作品、人間について深く掘り下げたドラマなど。映画的表現という点でも魅力に富んでいて、今作らなければという、切実さを感じるものが多かった。各賞の授賞理由と受賞者の喜びの声をお伝えする。

▼観客賞

『プレジデント』

ショーレ・ゴルパリアン

ショーレ・ゴルパリアンさん

モフセン・マフマルバフ監督の滞在している、ロンドンから届いたばかりのメッセージを、ショーレ・ゴルパリアンさんが代読した。「この作品の平和のメッセージに対して与えられた観客賞は、わたしにとっても非常に大きな意味があります。人間はお互いに殺し合うために生まれてきていない。地球は生命が存在するたったひとつの星。地球に生まれてきたのは、お互いに愛するためだと思います。しかし、今の世界には暴力が溢れています。30億年かかって育まれたさまざまな命が、たったの30年間で人間の力で破壊されたのです。
エボラ出血熱で5000人手助けが必要だという、国連の声に答えるニーズはとても少なかったのですが、ISIS(イスラム国)が起こす暴力的な作戦を手伝うために1万5000人の人が集まりました。これには大きな理由があると思います。平和を大切にする文化はとても弱いということです。芸術、特に映画は、この暴力的な世界に平和のメッセージを伝える大きなメッセージを持っていると思います」

つづいて、この作品を配給会社する株式会社シンカのスージュン氏より、来年この作品が公開されることが、受賞の感謝を述べると共に伝えられた。

▼学生審査員賞

『彼女のそばで』

学生

大河原恵さん

学生審査員、大河原恵さん、千葉花桜里さんより発表された。
授賞理由「カメラが切り取る、姉妹二人の息苦しいまでに愛おしい距離感、作家の誠実な眼差しによって、彼女たちにずっと寄り添っていたいとさえ思えました」

アサフ・コルマン監督はすでに帰国しているため、林加奈子ディレクターからメッセージが代読された。「私自身イスラエルで映画を教えているのですが、熱意ある映画学生である彼らの要求に答え続けることは、とても大変であることを知っています。この賞は将来の日本の巨匠になるかもしれない人々からの特別な表彰なのです。『彼女のそばで』は、私にとって愛の行為なのであり、それがあなた方の心に響いたことを嬉しく思います」

▼スペシャル・メンション

『シャドウデイズ』
中村由紀子審査員により発表された。
授賞理由「監督が映画と社会との緊密な関係を築くことに全力を傾けていることに深く感銘を受けました」

チャオ・ダーヨン監督

チャオ・ダーヨン監督

壇上には上がらなかったチャオ・ダーヨン監督は、記者会見では、喜びの声を次のように語った。「この映画祭に参加できたこと自体が嬉しいです。今回認めていただいたことで、これからも映画をずっと撮り続けていくことに確信が持てました。いい作品を作っていくことが、私の人生における目標です」




▼審査員特別賞

『彼女のそばで』
柳島克己審査員により発表された。
授賞理由「初監督作品であるにも関らず、監督の熟練味溢れる行き届いた演出力を感じます。特に全編に亘って保たれた適切な距離感に、その素晴らしい手腕が発揮され、親密な姉妹の間に見られる興味深い関係を見せてくれています」

チャン・ヤン

「確かにお渡しします」審査員チャン・ヤンさん

ダブル受賞となったアサフ・コルマン監督は、これについても別にメッセージを寄せており、林加奈子ディレクターによって、代読された。
「私とこの作品を書き主演を演じた妻のリロンが、身体しょう害を持つ姉妹の傍らで育った経験を元に、この作品を作ろうと決心した時、私たちが何かを勝ち取れるとは思ってもみませんでした。私たちのもっとも野心的な夢は、映画のための資金を見つけることだったのです。私たちの社会が継続的に直面している政治的問題を扱っていないこの作品が、ここ最近のイスラエル映画のように成功できるものか、とても心配していました。東京フィルメックスに招待されたことは、私にとっては、すでに大きな賞であり、映画の力の証明でもありました。映画と映画理論と達人からこのような賞をいただけることは、もうこの世のものとは思いません。」

▼最優秀作品賞

『クロコダイル』
リチャード・ローマンド

リチャード・ローマンド審査員

リチャード・ローマンド審査員により発表された。
授賞理由「誠実な人間性を携えながら、この作品は戸を超越した場所へ私たちを誘い、そこで私たちは心温かい人々の生活に遭遇します。監督の直感的かつ観察力に優れたスキルにより、私たちはスピリチュアルな旅を体験し、このような固有の世界があることに気づかされます。この作品の強さは、実直で一貫性をもった監督のスタイルと、キャストの生き生きとした表現力にあります。」

 フランシス・セイビヤー・パション監督

フランシス・セイビヤー・パション監督

賞の発表と同時に客席の一角より大きな歓声があがる。フランシス・セイビヤー・パション監督は、登壇後、映画のスタッフたちを壇上に呼び寄せ、仲間たちと喜びを分かち合った。「個人的にとても特別な賞です。なぜかというと、私はタレント・キャンパス・トーキョー第1期生(※1)でして、東京フィルメックスで作品が上映されること自体がとても光栄なことでしたけれども、まさか最優秀作品賞を取るとは思いませんでした。賞金は、映画に出てきたコミュニティのみなさんのために使いたいと思います」
あまりの喜びに、奇声を発しながら壇上を降りる映画のスタッフに、司会者の「大変興奮されているようです」という声がかぶさり、場内はとても明るい雰囲気に包まれた。
(※1 2010年。当時の名称はネクスト・マスターズ・トーキョー、現タレンツ・トーキョー)
フランシス・セイビヤー・パション

フランシス・セイビヤー・パション監督と仲間たち



▼審査員長による総評

ジャ・ジャンクー審査員長
審査員長挨拶「今回、審査員長という責任を仰せつかり、見せていただいた作品はどれも素晴らしいものでした。9人の監督の新しい才能それぞれに、映画の未来を見ることができました。それと、非常に嬉しかったのは、モフセン・マフマルバフ監督の『プレジデント』が観客賞を受賞したということです。監督は故郷に帰ることができないわけですけれども、それでも映画を撮り続けています。こういう監督が映画を発表する場として、フィルメックスのような映画祭は重要な場所であると思います。コンペ作品はどの作品も、我々が啓発を受けるものでした。アジアというのは、さまざまなことが絶えず起こっていて、静かではない地域だと言えます。しかし若い監督たちが、それぞれの表現方法でもって、自らの伝えたいことを、一所懸命伝えようとしていることに、とても感銘を受けました。今日の午前中、私はタレンツ・トーキョーで講師を務めました。本当に映画の好きな若い人たちが、自らの表現を求めて、東京に毎年参加しているということが、とても嬉しいです。この東京フィルメックスが、これからもどんどんいい人材を発掘して、素晴らしい映画製作者を生んでいくと、信じています。私もまた、いい作品を作って参加できたらいいなと思っております」

最後に、林加奈子デイレクターの「映画人生はつづきます。来年の第16回フィルメックスにどうぞご期待下さい。本当にありがとうございました」という挨拶でセレモニーは締めくくられた。



【タレンツ・トーキョー・アワード2014】

タレンツトーキョークロージングセレモニーの前に、タレンツ・トーキョー・アワード2014の受賞結果の発表と、表彰式が行われた。参加したのは、講師を務めた、諏訪敦彦監督、オ・ジョンワン映画プロデューサー、ワールド・セールスのウィニー・ラウ氏、プログラム・マネージャーのフロリアン・ウェグホルン氏。受講生の間には、とても親密な空気が漂っており、自分たちの受講の日々を紹介するスライドの上映では、歓声や笑い声がたくさん起こった。2010年のネクスト・マスターズ・トーキョー(現タレンツ・トーキョー)で最優秀企画賞を取った作品が、アンソニー・チェン監督『イロイロ ぬくもりの記憶』に結実し、また今年のコンペの優秀作品賞受賞者のフランシス・セイビヤー・パション監督もまた、ネクスト・マスターズ・トーキョー(現タレンツ・トーキョー)の受講者ということで、俄然注目度が上がっている本賞。結果は次のとおりとなった。

▼スペシャル・メンション
『A Family』(ムン・クォン/韓国)
授賞理由
「一般には知られてはいるけれどもあまり注目されることのないテーマを扱っています。タレンツ・トーキョーの公開プレゼンテーションでは、特にその厳選されたビジュアルにより、監督の創り出したい包括的な雰囲気を提示してくれました」

▼タレンツ・トーキョー・アワード2014
『Somewhere South Of Reality』(ジャンカルロ・アブラアン/フィリピン)


ムン・クォン

左からムン・クォンさん、ジャンカルロ・アブラアンさん

授賞理由
「素晴らしいタイトルのついたこの企画は、私たちの現実を超えた世界にヒントを得ています。神話の要素を巧妙に取り入れ、現代社会にも通ずるようなストーリーになっています。公開プレゼンテーションも刺激的で新鮮な発表で、ゲストの心を鷲掴みにするものでした」

ジャンカルロ・アブラアンさんは、クロージングセレモニーの舞台上で「すごい体験でした。色々な監督、プロデューサーたちと会う事ができてとても刺激的でした。私の中のモンスターを見つけ出していただいてとても嬉しいです」と挨拶した。この作品が制作され、再び東京フィルメックスに戻ってくる日を楽しみにしたい。




▼第15回東京フィルメックス▼
期間:2014年11月22日(土)〜11月30日(日)
場所:有楽町朝日ホール・TOHOシネマズ日劇
公式サイト:http://filmex.net/2014/

トラックバック URL(管理者の承認後に表示します)