【FILMeX】プレジデント(特別招待作品)
※『独裁者と小さな孫』のタイトルで、2015年12月12日(土)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー!
【作品解説】
(東京フィルメックス公式サイトより)
ヨーロッパで亡命生活を続けているモフセン・マフマルバフがグルジアで撮影した最新作。舞台は老独裁者に支配されている架空の国。ある日、クーデターが勃発。妻と娘たちはいち早く国を脱出してしまい、残された独裁者は幼い孫を連れて逃亡の旅に出る。ボロボロの服を着て旅芸人に扮した独裁者は、行く先々で自分の圧政のために苦しんできた人々を目撃する・・・。大勢のエキストラを動員した冒頭のクーデターの場面を筆頭に、マフマルバフの演出力が全面に展開する。イラクのフセイン政権崩壊、アラブの春、ウクライナ紛争等々、近年起こった様々な事件を想起せずにはいられない力作である。ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門オープニング作品。
【クロスレビュー】
主人公の大統領は孫との逃避行のさなか、国民の惨状を目の当たりにし自らの愚かしい行為に気づくが、時すでに遅しだ。権力とは浜辺につくられた砂の城のように、波にさらわれればいとも簡単に崩れるものだ。ただ本作は独裁者を一方的に吊し上げるだけではなく、これまで彼に対して反対の声を上げなかった軍や民衆への批判も含まれている。彼の圧政により拷問を受けたり処刑されたりした者の家族の怒りは当然だが、憎悪の感情に任せて彼を処罰して良いのか?それはフセインやカダフィがいなくなった世界が、果たして良い方向に進んでいるのか?負の連鎖に陥るだけではないのか?という疑問とも重なる。マフマルバフ監督久々の純然たる劇映画だが、混沌とした現実世界を痛烈に、でもしなやかに描写し、観客に映画を見ることの興奮と幸福に酔いしれる喜びを与えている。彼の新たな代表作と呼ぶのにふさわしい作品だ。
(富田優子/★★★★★)
独裁者の電話ひとつで点灯、消灯する街の灯り。彼とその孫は、高いビルの上から、ガラス越しに街を一望する。外気は伝わらず、突然の消灯に事故が起きても、ここからは見えない。支配階級の人々の目線が、これだけでもうわかる。まもなく起こるクーデター、その後の独裁者とその孫の逃避行。下界に降りてからの彼らと、民衆の隔たりは大きい。「あなたがもう少し優しかったらこんなことにならなかったのに」という貧しい床屋に「いやあんたが働かず、税金を納めないからだ」と、独裁者。どこかで聞いたような台詞である。これはひとつの寓話か、いや寓話ではない。これは世界中で現実に起こっていること。支配階級の傲慢、貧困を生む社会の構造、民衆の無知と不寛容、そこから生じる憎しみの連鎖、こうした問題の全てが、物語に凝縮されている。これは、マフマルバフ監督が現実に肌で感じてきたこと、それ故の説得力。これこそ、21世紀の傑作と呼ぶに相応しい作品である。
(藤澤貞彦/★★★★★)
監督:モフセン・マフマルバフ
出演:ミシャ・ゴミアシュウィリ、ダチ・オルウェラシュウィリ、ラ・スキタシュウィリ、グジャ・ブルデュリ、ズラ・ベガリシュウィ
原題:The President
グルジア、フランス、UK、ドイツ / 2014 / 119分
配給:シンカ
© TOKYO FILMeX 2014
第15回東京フィルメックス観客賞受賞
▼第15回東京フィルメックス▼
期間:2014年11月22日(土)〜11月30日(日)
場所:有楽町朝日ホール・TOHOシネマズ日劇
公式サイト:http://filmex.net/2014/