【FILMeX】彼女のそばで(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

彼女のそばで監督:アサフ・コルマン
脚本:リロン・ベン・シュルシュ
撮影:アミット・ヤスール
出演:リロン・ベン・シュルシュ、ダナ・イヴギ、ヤコブ・ダニエル・ツァダ

【作品解説】
(東京フィルメックス公式サイトより)
ハイファの雑然としたアパートに障がいを持つ妹ギャビーと暮らすシェリ。だが、ギャビーがデイケアサービスの女性と親しい関係を築き始めたことにより、姉妹の濃密な関係は揺らぎ始める。あたかもその埋め合わせをするかのように、シェリはボーイフレンドのゾハールをアパートに同居させるが……。姉妹の抜き差しならない関係をパワフルに描いたアサフ・コルマンの鮮烈な監督デビュー作。コルマンの妻リロン・ベン・シュルシュが脚本を担当するとともに、シェリ役で主演。ギャビーを演じたダナ・イヴギは、イスラエルを代表する名優モーシェ・イヴギ(『若さ』第14回フィルメックスで上映)の娘。この二人の演技のぶつかり合いはこの映画の白眉である。カンヌ映画祭監督週間で上映された。(さらにアサフ・コルマン監督は、『エピローグ』主演ヨセフ・コルマン<第13回フィルメックス表記=カーモン>の息子である)


【クロスレビュー】

高校の警備員のパートをする女性シェリ。その朝は遅れてきたのか、校門を早く開けてという生徒たちの声にせがまれ、ようやく門を開く。そんなファースト・シーンが示すように、これは扉についての作品である。心の扉、知的障がい者と健常者の間にある扉、男と女の間にある扉。福祉事務所の女性が玄関の扉を叩く。その音を無視し、鍵を開けようとしないシェリ。それは、知的障がいを持つ妹との二人の世界に、他人が入りこむのを拒んでいることを、何より示す。他人に任せるのが不安、しかしそれだけではない。恋人が家に越してきた後においても、彼女が妹から離れて寝ることができないのは、彼女自身もまた、妹に依存しているからである。まるで娘依存症の母のよう。確かに扉を開ければ、トラブルも起こる。しかし開けてみて初めてわかることもある。本作は、そのことの意義を問う。知的障がい者の性、知的障がい者同士の世界があるのは当たり前のことではあるのだが、私たちはそれに気がついていない、もしくは気がつかないふりをしていただけなのかもしれない。
(藤澤貞彦/★★★★☆)

ヒロインは障がい者の妹がいることを悲観しているわけでもなく、熱心に世話を焼く。恋人ができても妹が優先。だが献身的である一方、度が過ぎて妹を支配しようとする様子が入浴シーンなどから窺える。彼女はもしかしたら見落としていたのかもしれない、障がい者にも心があり、人を愛せるということを。妹が途中から口にする「トムトム」の謎が明かされ、ヒロインが全てを悟るシーンは衝撃的で心が痛くなるが、そこに導く過程の描き方(あえて他の障がい者を登場させない等)に監督の才能を見た。誰が悪いとか世間に物申すという類の話ではなく、障がい者を感傷的に描いた話でもなく、姉妹の関係の変化をフラットな目線で見つめた点にも好感だ。
(富田優子/★★★★☆)


イスラエル / 2014年 / 90分
© TOKYO FILMeX 2014  



▼第15回東京フィルメックス▼
期間:2013年11月22日(土)〜11月30日(日)
場所:有楽町朝日ホール・TOHOシネマズ日劇
公式サイト:http://filmex.net/2014/

トラックバック URL(管理者の承認後に表示します)