トーキョーノーザンライツフェスティバル2014
~独断と偏見の映画祭ガイド~
2014年01月06日(月)
トーキョーノーザンライツフェスティバルが今年も開催される。2014年2月8日(土)から2月14日(金) に渋谷のユーロスペースにてJAPAN PREMERE6本を含む14作品が上映される他、アート、音楽など関連イベントが行われる。第4回目となる今年は、丁度ムーミンの作者トーベ・ヤンソンの生誕100年にあたり、それに関連したイベントも行われるのも楽しみなところである。また、知られざるスウェーデン映画の巨匠ヤン・トロエル監督に焦点を当てるなど、この映画祭ならではの企画も盛りだくさんだ。充実の内容、その一部をご紹介する。
【トーベ・ヤンソン生誕100周年記念特集】
今年は、ムーミンの作者トーベ・ヤンソン生誕100周年にあたる。子供の頃に親しんだムーミンであるが、実は大人になって読み返してみると、物語のなかにまた別の顔が見えてきて、驚かされたりもする。ムーミン谷の世界は奥が深い。今年は、TNLFを皮切りに、イベントや本の出版が目白押しゆえ、そんな追体験をするチャンスの年になることだろう。
本映画祭では、トーベ・ヤンソンのドキュメンタリーを製作したカネルヴァ・セーデルストム監督、リーッカ・タンネル監督、またムーミン研究家の森下圭子さんによるトークショーも予定されている。
☆『ハル、孤独の島』(98)カネルヴァ・セーデルストム監督
[JAPAN PREMIERE]
ムーミン・コミックスの新聞連載が終わったのが、1960年。〆切に追われる日々から解放されたトーベ・ヤンソンは、翌年クルーヴ(ハル)島に家を造り始め、64年から91年までの夏を、グラフィックデザイナーで生涯のパートナー、トゥーリッキ・ピエティラと共にここで過ごす。ちなみにトゥーリッキは「ムーミン」の登場人物トゥティッキのモデルとなった人でもある。この島での生活は96年に「島暮らしの記録」として刊行されるのだが、本作は、トゥーリッキが8mmカメラによって撮影した映像で構成されており、いわば映像版「島暮らしの記録」といったものだ。トーベ・ヤンソンの素顔を見られるのが興味深く楽しみである。
☆『トーベ・ヤンソンの世界旅行』(93)カネルヴァ・セーデルスト、リーッカ・タンネル監督
[JAPAN PREMIERE]
トーベ・ヤンソンは、日本の文化に関心を持っていた。石庭が好きで、71年に初来日した時は、京都の龍安寺で枯山水や石庭を眺めて過ごしたという。これは、その時日本からアメリカ、メキシコ、ヘルシンキに帰るまでのトゥーリッキ・ピエティラの撮影による貴重な旅の記録である。
☆『ムーミン谷の彗星』(92)斉藤博監督
90年から放映されたアニメシリーズの劇場版。TV版旧ムーミン(69年10月~)は、日本では絶大な人気があったのだが、トーベ・ヤンソンの怒りを買い抗議を受けたこともある。この平成版のムーミンはヤンソン自身が監修することを条件に作られているため、より原作のイメージに近いものになっている。
【ヤン・トロエル監督特集】
スウェーデン映画の巨匠である。といっても、ヤン・トロエル監督作は、日本では不幸なことに『ハリケーン』(79年、ジョン・フォード監督の同名映画(37年)のリメイク)という時代錯誤なアメリカ映画1本しか劇場公開されていない。先ごろ公開された『リヴ&イングマールある愛の風景』に出てくる、ベルイマンと決別したリヴ・ウルマンが出演しゴールデン・グローブ賞の主演女優賞に輝いた作品『移民者たち』(71年)の監督こそ彼である。教員から映画界入りという経歴の持ち主で、スウェーデン・ヌーヴェルヴァーグの中心的存在であった。スウェーデン・ヌーヴェルヴァーグが当初、ベルイマンへの不満から出発したことを考えると、海外で『Ole dole doff (ひふみ)』(ベルリン映画祭金熊賞)『移民者たち』(アカデミー外国語映画賞他ノミネート、ゴールデン・グローブ賞外国映画賞受賞)が評価されたことの重要さと、リヴ・ウルマンが本作で賞を取ったことの皮肉が理解できる。映画史では、かように重要な監督だが、その作品が上映される機会は滅多にないので、ぜひ観ておきたいところだ。
☆『マリア・ラーション永遠の瞬間』(08)
[JAPAN PREMIERE]
出演:マリア・ヘイスカネン(『街のあかり』)、ミカエル・パーシュブラント(『未来を生きる子供たちへ』)
13年スウェーデンアカデミー賞助演女優賞受賞
20世紀初頭激動の時代、フィンランドからスウェーデンに移民した女性写真家の一代記。
☆『ハムスン』(96)
[劇場未公開・DVD国内未発売]
出演:マックス・フォン・シドー
97年スウェーデンアカデミー賞最優秀作品賞他受賞
第二次大戦中、ノルウェーでは親ナチス政権が誕生し、ドイツにより全土が占領される。ノーベル文学賞受賞者のクヌート・ハムスンは、かねてよりナチスドイツに共感しており、大戦中は新聞に親ナチスの記事を執筆するが、戦後は戦犯となり精神病院に入れられる。そんな彼の波乱の半生を通じて描く壮大なノルウェー近代史。
【再発見! 北欧映画の古典】
☆『復讐の夜』(15) ベンヤミン・クリステンセン監督
昨年の予告通りベンヤミン・クリステンセン監督連続上映第3弾ということで、今年もクリステンセン作品が上映される。本作は後のスリラー映画に多大な影響を与えた作品でもある。ピアノ演奏はもちろん柳下美恵さん!1年待った甲斐があった…。
2013年TNLFヨハン・ノルドストロム氏講演より→「主人公は殺人の濡れ衣を着せられています。大晦日に怪しい男に押し入られる田舎屋敷という単純な設定で、30分緊張を持続させる編集と演出が見事で、アクションに切れ目がありません。現代の批評家や学者も、これほどうす暗い中で効果的な撮影ができたのは、彼だけだと言っています。現実的に使用可能になった新しい照明機器を広く使用。アークライトをテーブルランプに見せかけることで恐怖を生み出しているのです」
ベンヤミン・クリステンセン監督についての詳細は↓
【TNLF_2013】トーキョーノーザンライツフェスティバル開催記念シンポジウム『北欧映画・古典への招待』PART1
【フィンランド】
☆『ファーザーズ・トラップ禁断の家族』(11)ミカ・カウリスマキ監督
[劇場未公開・DVD国内未発売]
2003年『モロ・ノ・ブラジル』以来日本では劇場公開作がなく、今年久しぶりに最新作『旅人は夢を奏でる』が公開される、ミカ・カウリスマキ監督1本前の作品である。弟のアキ・カウリスマキに較べると、日本ではいまひとつパッとしない感のある兄ではあるが、むしろ活動は弟よりも活発であり、ブラジル音楽の次はアフリカンにといった具合に、自分の興味の赴くまま音楽ドキュメンタリーを劇映画の合間にも精力的に作り続けている。本作はドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」に着想を得た家族の愛憎劇。今年は久しぶりにミカ・カウリスマキに大きなスポットが当たりそうな予感。
☆『ミス・ジーンズ・フィンランド』(12)マッティ・キンヌネン監督
昨年のフィンランド映画祭で上映され、人気が高かった作品。77年、今でこそノキアを初めとするハイテク企業が集まる、オウル市郊外の街を舞台にした青春ドラマ。ミュージシャン、カウコ・ロユフカの自伝的小説がモデルになっている。ちなみに劇中で使われるカッコイイ音楽Miss Farkku-Suomiも、彼自身の曲である。
【スウェーデン】
☆『リリア4‐ever』(02)
ルーカス・ムーディソン監督
[劇場未公開・DVD国内未発売]
昨年の東京国際映画祭、『ウイ・アー・ザ・ベスト!』で最優秀作品賞を受賞したルーカス・ムーディソン監督の傑作、待望のアンコール上映。旧ソビエトの郊外。男とともに母親が去ってしまい、一人取り残された16歳のリリア。生活に困窮し、八方塞がりになった時、若い男からスウェーデンでいっしょに暮らそうと誘われる。リリアは、希望を胸に旅立つのだったが、その先には思いもよらぬ罠が潜んでいた。少女の夢とそれを悪用する大人。少女を描いたらピカ一のルーカス・ムーディソンが、ベルリンの壁崩壊後のヨーロッパの厳しい現実を背景にその孤独を描いた、03年スウェーデンアカデミー賞最優秀作品賞他受賞作。
【ノルウェー】
☆『ラグナロク(仮題)』(13)ミケル・ブレネ・サンデモーセ監督
[JAPAN PREMIERE]
考古学者のシーグルが発掘されたバイキング船から謎のルーン文字を発見する。それは、北欧神話における終末の日を意味するラグナロクについて書かれたものだったことから、彼は家族と共に真実を探求する旅に出るという冒険アドベンチャー。ちなみにシーグルは、竜を倒した北欧神話の英雄と同じ名前で、ドイツ語に置き換えるとジークフリートとなる。そう、この物語をモチーフに作られた歌劇が「ニーベルングの指輪」なのだ。そんな運命を背負ったかのような名前をもつシーグル役が『コン・ティキ』のポール・スヴェーレ・ハーゲンというのも見所。ノルウェー国内興行成績1位。
☆『NOKAS』(10)エーリク・ショルビャルグ監督 [JAPAN PREMIERE]
オリジナル版『インソムニア』『私は「うつ依存症」の女』のエーリク・ショルビャルグ監督の作品。犯罪スリラーに定評のある監督が、2004年にノルウェーで起きた現金強奪事件を映画化。複数の視点から事件がスリリングに再現されている。
2011年ノルウェーアカデミー賞最優秀監督賞、脚本賞受賞。
【アイスランド】
☆『ベンヤミンの夏』(95)ギリス・スナイル・エリンソン監督
[劇場未公開・DVD国内未発売]
児童文学賞を受賞したフリズリク・エリンソンの「鳩のベンヤミン」が原作。家を火事で失った孤独な老女のため、騎士団を結成した4人の少年のひと夏の物語。ギリス・スナイル・エリンソン監督は、子供映画の優れた監督で、現在『イキングット』(00年)がDVD化されていて観ることができる。
☆『馬々と人間たち』(13)
ベネディクト・エルリングソン監督
[劇場未公開・DVD国内未発売]
長編デビュー作にして、昨年の第26回東京国際映画祭監督賞受賞作。製作は名匠フリドリック・トール・フリドリクソン。何か言いたげな馬の目のアップが章の扉となって複数の小話が展開する。前章の物語の続きが、次章の途中で別の人物の視点に引き継がれた形で完結するという、独特の話術にぐいぐい引き込まれていく。これはアイスランドに生きる人と馬、その人生、大地への賛歌とも言える作品である。個人的には、2013年のTIFFで一番のお気に入り。
【TIFF_2013】『馬々と人間たち』(コンペティション)クロスレビュー
【TIFF_2013】監督賞受賞!ベネディクト・エルリングソン監督『馬々と人間たち』記者会見レポート
【デンマーク】
☆『アンバサダー』(11)マッツ・ブリュガー監督
[JAPAN PREMIERE]
アンバサダー(大使)この肩書を売買する国があるというのが信じられないのだが、実際に監督自身がアフリカ・リベリア大使の地位を金で買って、地獄の三角地帯と言われるダイヤ鉱山にいわゆるブラッド・ダイヤモンドを買いに行くという奇想天外で、衝撃的なドキュメンタリー。政府が鉱山の利権を自分たちのものにするため、軍を派遣し、人々に強制労働をさせるなど、問題の多いアフリカ諸国のダイヤモンドビジネスの秘密が明らかにされる。
【トーキョーノーザンライツフェスティバル 2014 スペシャルイベント】
北欧からの贈り物〜生演奏で楽しむサイレント映画の世界
2014年2月2日 (日)渋谷区総合文化センター大和田 さくらホールにて
今回、初の試みとなる企画。コンサートホールで生演奏付きサイレント映画鑑賞を体験できる貴重な機会です。
■『風』 「スウェーデン映画の父」ヴィクトル・シェストレム監督、リリアン・ギッシュ主演
柳下美恵さんの生演奏付き。
■『白い花びら』 アキ・カウリスマキによる20世紀最後のサイレント映画
初来日のノルウェーのトリオ・バンド「ハンツヴィル」の生演奏付き。
※他にもご紹介できなかったイベントがまだまだあります。詳細は公式ページをご覧ください。
「北欧映画の一週間」
トーキョーノーザンライツフェスティバル 2014
2014年2月8日(土)〜14日(金)渋谷ユーロスペースにて開催
公式ページhttp://www.tnlf.jp/