【TIFF】ルールを曲げろ(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

監督:ベーナム・ベーザディ
出演:アミル・ジャファリ、アシュカン・ハティビ、バハラン・バニ・アハマディ、ネダ・ジェブライーリ、マルティン・シャムンプル、ロシャナーク・ゲラミ

作品解説(公式サイトより)
若い劇団の海外公演が決まるが、女優たちは親の承認がなければ出国もままならない。古い価値観や旧世代へ抵抗する姿を通じ、現代イランの若者たちが抱える問題をリアリズムで描く集団劇。台頭著しいイランの新世代監督に注目。

親に反抗する若者たちを描く映画は珍しくないが、イラン映画となると別の様相を呈してくる。1979年のイスラム革命から35年近くが経ち、新世代が台頭している一方、表現の自由をめぐる芸術家の受難もしばしば報道されている。そんななかで権威や体制への抵抗を描くには、作家の側に周到な戦略が要請されるだろう。本作はまず演劇のリハーサルを映画的に見せる工夫を駆使して観客の気持ちを掴み、続いて親をいかに上手く騙すかをユーモラスに見せながら、やがて本格的な家族ゲンカの風景の中に、より深いメッセージをしのばせるという巧みな構造の作品である。アスガー・ファルハディ監督を頂点とするイランの新しい現代劇映画の波の一端を担うであろう、ベーナム・ベーザディ監督の才能に注目したい。


クロスレビュー

長回しの連続で紡がれる場面は舞台芝居そのもののようで、やがて自分が会話に参加している気がしてくるほど引き込まれた。自由を求める若者の一途さ、軽やかさは世界共通のようにも思えるが、団員のひとりの「(旅に出たら)もうここへは戻らない」という決意に、この国の表現者の苦悩がかいまみえる。前世代の代表であるヒロインの父親は、権力を盾に、新世代の夢を阻んでくる。でも、彼がぽつんと佇む寂し気な姿には、娘への愛情をうまく伝えられないもどかしさも感じた。妻・母親を失った悲しみを乗り越えられないままの不器用な父娘の関係が、劇団の行方とともに気がかりだった。
(北青山レオ/★★★★☆)

アスガー・ファルハディ監督の作風に似ているとの噂通り、中心人物の女性が途中から姿を見せなくなり、緊迫の展開になるというのは『彼女が消えた浜辺』のよう。だが傑作を送り続けるファルハディに似ているとの触れ込みは、その分見る側の期待値が上がることを意味し、その高い期待に十分に応えられたとは言い難い。ジャファル・パナヒ監督(『オフサイド・ガールズ』『これは映画ではない』)の例でも分かるように、イランの芸術家が海外に出る困難さは知られているし、現状のイランの閉塞感や若者の苛立ちなどを伝えたいという誠実な思いは真摯に受け止めるが、既視感が先立ち、もう一ひねりが欲しい。「似ている」ではなく、ファルハディ越えを期待したい。
(富田優子/★★★☆☆)

海外に行くチャンスを手にしながらも、家族の反対によって実現を阻まれるという点で、ヒロインの境遇は『別離』と類似している。ただ本作では、彼女の家族やその背景についてほとんど語られず、「なぜ、彼女の父親が“そこまで”反対するのか」という理由がボンヤリしたまま物語が展開する。娘と父は周囲を巻き込みながら、膠着した状況を打開しようとするのだが…。主張の対立もしくは対話がテーマだと思っていたが、当事者不在だったり、他人まかせだったりで、こちらもなかなか感情移入できない。それゆえに彼らの苛立ちや怒りの感情もどこか希薄に見えてしまった。冒頭の長回しシーンのサプライズが良かっただけに、この煮え切らない展開は残念。
(鈴木こより/★★☆☆☆)


98分 ペルシア語 Color | 2013年 イラン |

上映情報
▼TOHOシネマズ 六本木ヒルズ Screen7
10/18 21:15 – (本編98分)
登壇ゲスト(予定): Q&A: ベーナム・ベーザディ(監督/脚本/編集/製作/原作/出資)、ネダ・ジェブライーリ(女優)

▼TOHOシネマズ 六本木ヒルズ Screen5
10/20 10:50 – (本編98分)
登壇ゲスト(予定): Q&A: ベーナム・ベーザディ(監督/脚本/編集/製作/原作/出資)、ネダ・ジェブライーリ(女優)


第26回東京国際映画祭
期間:2013年10月17日(木)〜10月25日(金)9日間
場所:六本木ヒルズ(港区)をメイン会場に、都内の各劇場及び施設・ホールを使用
公式サイト:http://tiff.yahoo.co.jp/2013/jp/tiff/outline.php