【TIFF】『メイジーの知ったこと』スコット・マクギー監督&デヴィッド・シーゲル監督インタビュー
『メイジーの瞳』の邦題で、2014年1月31日(金)よりTOHOシネマズシャンテ、シネマライズ他にて全国順次ロードショー!
(第25回東京国際映画祭コンペティション部門)
第25回東京国際映画祭(TIFF)コンペティション部門にエントリーされた『メイジーの知ったこと』。離婚した両親の身勝手な都合に振り回される少女メイジー(オナタ・アプリール)がある決断をするまでを繊細に描いた作品だ。本作で共同監督を務めたスコット・マクギー監督とデヴィッド・シーゲル監督のインタビューをお届けする。
――本作でメイジーがいがみ合う両親に翻弄されているにも関わらず、それなりに気遣っている様子を観て、家族とは何だろうか、家族が家族であるために何が必要なのか?を考えさせられました。もちろん、血のつながりや親権も重要な要素だとは思うのですが・・・。でも本当にそれだけでしょうか?監督は、家族が家族であるためには何が必要だと考えていますか?
デヴィッド・シーゲル監督(以下シーゲル):本作に関して言うと、メイジーにとって何が大切なのか?ということを考えたいと思います。つまりそれは、自分らしくあり続けられること、そして精神的に安全であるかということが大事だと思うんです。メイジーの母親(ジュリアン・ムーア)が彼女に「あなた、私が怖いの?」と訊ねるシーンがあります。その言葉はいかにメイジーにとって両親といることが安全ではなかったことを象徴しています。メイジーにとっては、自分の心が平穏であること、自分が自分らしくいられることが大切だと感じたのです。
――ただ、メイジーは何だかんだ言っても両親のことが好きだという気持ちは持っているのだと思うのです。でも、好きという気持ちだけではなく、自分の安全性と天秤にかけたうえでのラストの選択だったのでしょうか?
スコット・マクギー監督(以下マクギー):うーん、それはとても複雑です。映画を撮っている間、彼女にとって何がいちばん大切かを僕たちも考えていました。もちろんメイジーは両親を愛していたし、両親もメイジーを愛していたのは確かです。でもメイジーにとって良い親ではなかった。結局自分たちの都合を優先してしまう始末だし。メイジーはそんな両親との本当の繋がりを感じられなかったのでしょうね。メイジーにとってあの決断は難しかったと思いますが、今の自分にとって何が必要なのかを考えた結果だったのです。
――そのメイジーを演じたオナタ・アプリールが本当に素晴らしい演技で心が震えました。非常に難しい役柄だったと思いますが、監督はどのように彼女に演技指導をしていたのでしょうか?また離婚問題や男女の恋愛の機微に関わるような微妙な心の動きを、どのように彼女は理解していたのでしょうか?
シーゲル:オナタと一緒に仕事をしているうちに、彼女に対してあまり指導しなくてもいい、メイジーを演じるにあたって彼女自身でいればいいんだということに気がつきました。これはとてもユニークな才能ですよね。これまでいろいろな子役と仕事をしてきましたが、こんなに才能がある人と仕事をしたのは初めてです。彼女は撮影時6歳(現在は7歳)でしたが、ジュリアン・ムーアや(父親役の)スティーヴ・クーガンなど芸達者な俳優たちとのやりとりも自然でした。セリフを覚えさせるとか、状況の説明をわざわざしなくても、今、何が起きているのかだけを分かってもらえれば大丈夫で、あとは彼女に任せていました。オナタのお母さんが「(オナタは)まるでカメラの前で暮らしている感じで自然なのよ」と話していましたが、まさにそのとおりで、自然体の演技を見せてくれました。
マクギー:僕たちがオナタに対してアドバイスしたのは、そのシーンでの状況の感情を理解してもらうことでした。また、彼女のお母さんも演技コーチとして撮影に帯同してくれました。オナタに「こういう状況なら君自身はどう感じるのかな」と問うと、彼女は「うーん、悲しいかなぁ・・・」と答えてくれる。あとは彼女なりに想像力を駆使して、感じてもらった結果、あのようなパーフェクトな演技になったのです。
シーゲル:それと演技の才能に恵まれていただけではなく、本当に元気な子でした。オナタがセットにくるたびに、スタッフや共演者に元気を振りまいてくれるような子でしたよ。彼女と出会えて本当にラッキーでした。
――本作はマクギー監督とシーゲル監督の長編5作目の作品です。本作もそうですが、これまでの『綴り字のシーズン』(05)、『ハーフ・デイズ』(09)などのお二人の作品には色彩の統一感などセンスの良さが感じられ、気持ち良く映画を観ることができます。どうしてお二人はこんなにセンスがいいのでしょうか?
シーゲル:あはは!それはもうスコットのせいだよ(笑)
マクギー:(苦笑しつつ)映像に関することについて、僕たちはとても興味を持っています。デヴィッドと僕の性格は全然違うんだけど、二人で一緒に仕事を始めたとき、映画の好みや興味の対象など感性が非常に似ていることに気付いたんです。だから映像に統一性があるのかもしれませんね。僕たちにとっても映像表現は楽しいことです。
シーゲル:僕たちはビジュアル的に素晴らしくて、映像にこだわりがある監督にも興味があります。たとえばアルフレッド・ヒッチコックやフランシス・フォード・コッポラ。日本人では勅使河原宏、黒澤明などです。そういう人たちの影響も多少はあるかもしれません。
――今後のプランがあれば教えて下さい。
マクギー:実は2週間前までこの映画の仕上げにかかっていたので、他のことを考える時間がなかったんです。なので、次のプランは決まっていませんが、もちろんアクティヴに探すつもりでいますよ。
(後記)
マクギー監督とシーゲル監督の二人は1990年よりコンビを組んでいたというだけあり、インタビューのやりとりも息がぴったりで微笑ましかった。また、「天からの授かりもの」であるオナタ・アプリールの起用が本作の成功に直結していることも強調。確かに、6~7歳の少女が両親を愛しつつも、“自分にとって何が必要なのかを考える”なんていう芸当は、実生活でも想像するのは困難だと思うのに、それをさらりと自然に演技してしまうなんて、天才少女の呼び声が高いというのも頷ける。TIFFでは惜しくも無冠に終わった本作だが、映画祭以外にも多くの人に観てもらいたいと素直に思えた佳作だった。
〈プロフィール〉
スコット・マクギー Scott McGehee
デヴィッド・シーゲル David Siegel
二人はこれまでに5本の長編映画を共同で監督している。ジャンルの既成概念を鮮やかに裏切る、高評価のデビュー作“Suture”(94)のほか、賞にも輝いたサスペンス・スリラー『ディープ・エンド』(01)、リチャード・ギアとジュリエット・ビノシュを主演に迎えた『綴り字のシーズン』(05)、トロント、サンダンス、カンヌの映画祭で数多くの賞を受賞した『ハーフ・デイズ』(09)などがある。
▼作品情報▼
監督:スコット・マクギー、デヴィッド・シーゲル
原作:ヘンリー・ジェームズ
原題:What Maisie Knew
出演:ジュリアン・ムーア、スティーヴ・クーガン、アレキサンダー・スカルスガルド、オナタ・アプリール
2012年/95分/アメリカ
© Red Crown Productions USA
▼第25回東京国際映画祭▼
日時:平成24年10月20日(土)~28日(日)
場所:六本木ヒルズ(東京港区)他
公式サイト:http://2012.tiff-jp.net/ja/
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