「キッズ・オールライト」 2人のママと精子ドナーで生まれた子供たちの成長の物語

キッズオールライトサンダンス、ベルリン映画祭で賞賛され、ゴールデン・グローブ賞を受賞。本年度アカデミー賞主要4部門<作品賞><脚本賞><主演女優賞/アネットベニング><助演男優賞/マーク・ラファロ>にノミネート!

近年アメリカのメディアでは、“精子ドナーによって生まれた子供たちの成長”が報道され始めている。精子提供者は18~25歳の若者が多く、彼らの多くはその後、自らの精子によって誕生した子供に強い関心を持つのだという。そして彼らの子供たちもまた、生物学上の父について知ろうと強い興味を抱くそうだ。
『キッズ・オールライト』は、自身も精子提供によって子供を出産したリサ・チョロデンコ監督と、精子提供の経験があるスチュワート・ブルムバーグの共同脚本によって生まれた。「ドナーによって生まれた子供たちが大人になり、家族の形が変わり始めた」と感じていたチョロデンコ監督は、そういう家族が織りなすマニアックな話を撮りたいと構想を温めていたという。

ここでは、2人のママと姉と弟からなる、ある一家のひと夏の騒動が描かれている。姉ジョニは18歳になり遺伝子上の父親を知る権利を得るが、それほど積極的ではなかった。しかし、弟レイザーに「どうしても知りたい」と懇願され、ママたちに内緒で父親に会うことに。そのことがきっかけで、この家族はかなりドラマティックな展開を迎えることになる。子供たちの想像以上に男親という存在は魅力的だったのだ。レズビアンのママたちにも父親的な役割と母親的な役割はちゃんとあるのだが、男親のそれとはやはり違うもの。結局、密会のこともママたちの知るところとなり、一家は大きく揺らぎ始める。

この家族模様は全篇を通してテンポよくユーモラスに繰り広げられ、同性愛カップルならではの会話とか問題とか、日本人にはあまり馴染みのない光景が次々に映し出される。その一方で、子供を持つすべての家庭に起こりうる普遍的な家庭問題も綴られている。これから人生を歩んでいく子供たち、子育てを終えて残された人生をどう生きるかを考え始める親たちの未来への期待や不安といったものが、ゾッとするほどリアルに感じられる。チョロデンコ監督が感じている未来のビジョンそのものだからだろうか。最後の結末も含めて、偽りのない物語だという印象を受けた。

同性結婚は日本ではまだ法的に認められていないのが現状だ。しかし最近は同性愛者の間で、男女の結婚のようなきちんとした婚姻関係を結びたいという声も高まってきているようだ。そう遠くない将来、日本でも同じ光景を目のあたりにするかもしれない。必見の価値ある一本である。

4/29(金)渋谷シネクイント、TOHOシネマズ、シャンテ、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー!

おススメ度:★★★★☆(4.5)
Text by 鈴木こより

キッズオールライト監督・脚本:リサ・チョロデンコ
共同脚本:スチュアート・ブルムバーグ
出演:アネット・ベニング、ジュリアン・ムーア、マーク・ラファロ、ミア・ワシコウスカ、ジョシュ・ハッチャーソン
配給:ショウゲート
2010/アメリカ/107分
原題:THE KIDS ARE ALL RIGHT
公式サイト:http://allright-movie.com/

トラックバック 2件

  1. 作曲♪心をこめて作曲します♪

    『キッズ・オールライト』お薦め映画…

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