(ライターブログ)ちょっとだけ嫉妬するかも? チェルシーファンから観た『ユナイテッド-ミュンヘンの悲劇-』

イングランドで最も有名なサッカークラブといえば、やはりマンチェスター・ユナイテッド(マンU)かぁ・・・と思う。イングランドには、今年の欧州チャンピオンズ・リーグ(CL)を制したチェルシーやアーセナルなどの強豪クラブもひしめくが、知名度や実績からして、マンUが図抜けている印象だ。日本代表の香川真司選手が加入することで、知名度もさらに上がった。自分の周囲の知人友人に「イングランドを代表するチームを1つ挙げるならどこ?」というアンケートを敢行したが、ほぼ全員が「マンU」と答える始末。ちなみに私はチェルシーのファン。念のため申し上げるが、別に圧倒的支持を集めたマンUに対して僻んでいるわけではない。私自身も素直な気持ちで、イングランドを代表するクラブ=マンU、と感じている次第である。

最近の映画を見渡しても、『エリックを探して』(09)はマンUのスター、カントナの選手時代の話が投影されているし、『君を想って海をゆく』(09)でも主人公の少年はマンUの選手になることを夢見、キーラ・ナイトレイが注目された『ベッカムに恋して』(02)では、ベッカムはその当時、マンUに所属していた。こういった具合に、マンUもの(というカテゴライズが適切かは悩ましいが)の映画も、割と多い印象だ。そんななか、正真正銘の「マンUもの」の映画が公開される。それは、1958年2月6日、マンUがチャンピオンズカップ(現CL)に参加後、経由地ミュンヘンの空港でチャーター機が離陸に失敗。主力選手8名、チームの関係者3名が犠牲になった、いわゆる“ミュンヘンの悲劇”を取り上げたものだ。

サッカーが好きな人、特にマンUファンの人なら絶対に観たいと思う映画であることは、間違いない。事故後、傷心で実家に引きこもったボビー・チャールトン(ジャック・オコンネル)が、近所の子供達がサッカーをする姿に刺激を受け、立ち直る姿や、コーチのジミー・マーフィー(デイヴィッド・テナント)がゲキを飛ばすシーンなど、おのずと感情移入する場面はある。クラブの歴史を知ることができるし、昔も今も変わらず、CLと国内リーグの日程調整に苦慮していることもよく分かる。マンUの選手同士の「コイツの彼女、(マンチェスター・)シティのファンなんだぜ」「彼女にするならユナイテッドファンにしろ」という会話に、ぷぷっと吹き出したりもする。そして、2008年のマンUのCL優勝は事故の犠牲者に捧げられたというテロップに、じーんとくる方もいるだろう。

こうやって書いていると、いかにも劇的な作品のように思われてしまうかもしれないが、さにあらず。意外に淡々としているのだ。その最大の理由は、試合の実写場面がないからであろう。例えば『エリックを探して』では、まるでカントナのスーパーゴール集かと見まがうようなシーンがてんこ盛りで、自然とテンションが上がったものだ。しかし、本作にはそのような副作用を引き起こす要素がない。あくまで、人間ドラマに徹している。

サッカー好きの私からすると、その実直さはいささか物足りない感もある。しかし、事故により一時はクラブ閉鎖の危機を迎えたマンUが、世界有数のビッグクラブになり得たかに思いを馳せると、マンUファンでなくとも、復活に尽力した人々の熱い思いに頭が下がる。そんなクラブに日本選手が望まれて加入する日が来るとはねぇ・・・と、映画の本筋とは離れた、別の意味での感慨まで湧いてくるのだ。

また、ボビー・チャールトンは今もご健在。サーの称号を持つ彼は、“Jヴィレッジ”の名付け親であり、今春、旭日小綬章を叙勲。2002年W杯の誘致にも尽力された、日本とも縁が深い人だ。もし、サー・ボビーが事故後、サッカーを諦めてしまっていたら・・・。マンUの飛躍はなかったかもしれないし、もしかしたら日韓W杯も実現していなかったかも。それなら、今の日本でのサッカーへの関心はさほど高いものではなかったかもしれない。さらに自分もサッカーに対する喜びや愛情を、見出すことができなかったかもしれない。“たら”“れば”を語り始めたらきりがないのだが、“ミュンヘンの悲劇”を起点とした仮定の話がさらなる仮定の話を呼び、自分の人生にも多少なりとも影響を与えていたのかもしれない、とまで想像を膨らませてしまった。

そう考えると、蘇ったマンUとサー・ボビーに感謝。ただ、サッカーファンとしてはマンUへのリスペクトは感じるが、チェルシーファンとしては来季こそマンUを下してチェルシーがリーグ優勝したい・・・とか願ってしまう。何とも言えない複雑な心境に思わず苦笑。確かに“マンU万歳!”的な匂いはあるし、マンUファンなら感涙度100%だろうが、それ以外のクラブのファンからすれば、「ちぇっ」とちょっとだけ嫉妬めいたものを感じてしまうかも。確かに本作で“チェルシー”という単語は1回しか出てこなかったし、4年前のマンUのCL優勝が事故の犠牲者に捧げられたというのはいいのだけど、マンUが勝った相手はチェルシーだったんだよ・・・とか考えると、ほんの少しだけ胸がしくしくと痛む。

あれ、やっぱり僻んでいるのか?私。

▼作品情報▼
監督:ジェームズ・ストロング
出演:ジャック・オコンネル、デヴィッド・テナント、ダグレイ・スコット、サム・クラフリン
原題:United
製作年:2011年
製作国:イギリス
配給:ゴー・シネマ
公式サイト:http://www.united-movie.com/
(C)World Productions(United) Limited MMX1
7月7日より、シアターN渋谷、新宿K’s cinemaほか全国公開

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