『スノーホワイト』新説「白雪姫」は人間の性(さが)を投影するダークファンタジー

誰もが知っているグリム童話「白雪姫」を大胆に翻案した本作は、「美とは何か、若さとは何か」を観る者に繰り返し問う映画だ。シャーリーズ・セロン扮する白雪姫の継母、ラヴェンナ女王は圧倒的な美貌の持ち主であるが、彼女は邪悪な力を操る魔女として描かれる。若さと美しさを保つために、『ハリー・ポッター』シリーズに登場する吸魂鬼(ディメンター)のように美女たちの生気を食らい、怪しげな薬草風呂に入り、鳥の臓物を好んで食す。そして魔力によって王国を支配する。

しかし、パワーを維持し続けないと彼女は「老いる」。しかも一気に老けるのではなく、いくつかの段階があって、肌のハリだったり目の下のクマだったり口元のシワだったり、よく見ないとわからないが、確かに老けてる!と言えるような、微妙なところまで映し出されている。そのリアルさと、(老けたな…)と自覚した時の気持ちは、加齢を意識したことのある男女なら共感できるだろう。そして彼女は次なる生贄に手を伸ばす。劇中、女王は老いたり若くなったりを繰り返すのだが、その現象自体が何だか切ない。

とは言え、本作は単に美と若さへの固執や嫉妬の醜さのみを示しているのではない。もはや「固執」という言葉では済まされないような、生きるための強い執念を感じさせる。幼い頃の不遇を背景に、いつしか「美しくなければ生きていけない」という考えに囚われ、その沸点に達した女王。自分が生き残るためには残酷な手段を厭わず、望むものを手にしても満たされることなく渇望し、その維持のために奔走しなければならない。その心理構造は十分に理解できるものだ。これが金や権力であれば、もっとわかりやすいだろう。悲しい哉、これが人間の性(さが)なのである。

一方、本作のタイトル・ロールである姫(クリステン・スチュワート)もまた、自分が生き残るために、甲冑に身を包み自ら剣を振りかざし、女王に戦いを挑む女性として描かれている。ディズニーアニメで描かれるような、王子様によって救われる可憐な乙女とは異なる。なにより、本作に「王子様」は登場しないのだ。彼女は常に泥や埃にまみれ、あえて女王よりキレイに描かれていないのもミソだ。

グリム童話誕生から200年を経て登場した新説「白雪姫」。生きるためになりふり構わずバトルを繰り広げる女たちの様は劇場で一見の価値アリだ。

▼作品情報▼
製作国:米 製作年:2012年
監督:ルパート・サンダーズ
出演:クリステン・スチュワート、シャーリーズ・セロン、クリス・ヘムズワース、サム・クラフリン
(C) 2012 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.
公式HP http://snowwhite-movie.jp/
2012年6月15日(金)よりロードショー

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