エリックを探して

ケン・ローチ監督とサッカー界のカリスマ、エリック・カントナが贈る、痛快コメディ

イギリスの巨匠ケン・ローチ監督とサッカー界のカリスマ、エリック・カントナによる、この時期にぴったりのロマンティック・コメディ。

ローチ監督は実は大のサッカーファンとして知られているが、この巨匠にカントナが自ら企画を持ち込んだことで、本作は誕生した。エリック・カントナは、90年代前半にマンチェスター・ユナイテッドの復活に貢献し、今なお絶大な人気を誇る伝説の選手である。彼のスーパーゴールシーンの数々は、本作の見どころの一つだ。

しかし、彼の人気の理由は、その華麗なプレーによるものだけではない。ピッチ外における“人間臭い”言動も、また魅力の一つとなっている。たとえば、野次を飛ばした観客に跳び蹴りをかました“カンフーキック事件”や、その謝罪会見での“カモメ発言”は当時物議を醸した有名なエピソードだ。

そういった、お騒がせなイメージも併せ持つカントナだが、プレーに対するモチベーションは超一流。今回、本人役で登場する彼は、人生崖っぷちの郵便配達人に勝者のメンタリティーを説き、どん底から這い上がる知恵と勇気を授けている。心に深い傷を負った者にとっては、完全無欠の英雄よりも、酸いも甘いも知り尽くした男の言葉の方が説得力があるというもの。

その郵便配達人(その名もエリック!)は、マンチェスター・ユナイテッドのサポーターで、本作のもう一人の主役である。この多難続きの中年男の周辺からは、イギリスの国内事情のいろんな側面が見えてくる。離婚、青少年の非行、教育問題etc…。自身も労働階級出身であるローチ監督は、これまで社会的弱者といわれる人々の日常、社会問題と対峙するドラマを多数描いてきた。だが今作は、マンチェスターに暮らす彼らの実情を捉えながらも、“サッカー命!”な人々と彼らのユーモラスな挙動を軸に、自身初のファンタジーかつハッピーエンドに仕立て上げた。70歳を超えた巨匠の挑戦と進化はアッパレ!というほかないだろう。

「すべては美しいパスから始まる」と、エリック・カントナは語る。本作はまさに、カントナが出したパスをローチ監督が受け、ラストに痛快なゴールを見せてくれる傑作だ。観たあとは、自分の仲間や家族に想いを馳せずにはいられない、この時期にぴったりの映画である。

オススメ度:★★★★☆

Text by 鈴木こより

『エリックを探して』
Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開中!
英題: LOOKING FOR ERIC
監督:ケン・ローチ(「麦の穂をゆらす風」カンヌ国際映画祭パルムドール受賞

脚本:ポール・ラヴァティ
出演:スティーヴ・エヴェッツ/エリック・カントナ/ジョン・ヘンショウ/ステファニー・ビショップ
配給:マジックアワー+IMJエンタテインメント
公式HP: www.kingeric.jp
(C)Canto Bros. Productions, Sixteen Films Ltd, Why Not Productions SA,
Wild Bunch SA, Channel Four Television Corporation,France 2 Cinema, BIM
Distribuzione, Les Films du Fleuve, RTBF (Television belge), Tornasol Films MMIX

▼ケン・ローチ監督オススメ作品『明日へのチケット』(05)
チャンピオンズ・リーグのセルッティ対ローマ戦を観戦するためローマに向かうスコットランド人青年3人の列車内での葛藤をユーモラスに描きつつ、格差問題を鮮やかに浮き彫りにした。アッバス・キアロスタミ、エルマンノ・オルミと共同監督。

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