『父の初七日』〜大切な人の不在には慣れない−それでいいのかも。

誰もがいつかは経験する肉親との別れ。『父の初七日』は、父親の訃報で都会から帰省した若い女性が、伝統的な慣習に則った葬儀スタイルに右往左往しながら、突然訪れた大切な人の死と向き合っていく姿を描く。デリケートな題材をユーモラスに描きながら、残された者の悲しみもじわりと伝える演出が上手い。

遺族に代わって大声で泣く「泣き女」や、賑やかな楽隊が盛り上げる道教式の葬儀は、さながらお祭りのよう。「葬儀場で記念写真なんて、あり得ないだろう!」などなど、心の中でツッコンだ箇所は数知れず。しかし “人生最後の一大イベント”として盛り上がっている様子を見ているうちに、いつしか「こんなのも“あり”だな」という気になってくる。葬儀に翻弄される数日間は、どこか非日常的。主人公はふとした時に亡き父との思い出を回想するが、それが夢物語のように見えるところが逆にリアルだ。本当に故人を偲ぶことになるのは、暫く時を置いて、通常の生活に戻ってからなのかもしれない。 大切な人の不在には慣れない。コミカルな演出の中にも、支え合いながら悲しみを乗り越えていこうとする人々を包み込むかのような視点が温かい。
日本人の観客にとって驚きのシーン満載の『父の初七日』だが、現在は台湾でも、都会に行くと葬儀を斎場で執り行う方が普通らしい。イマドキの台湾っ子にもこの映画が描く情景は新鮮にうつったようで、2010年に公開された同作はその年の台湾映画の中で『モンガに散る』に次ぐ興行成績を記録した。また、物語の舞台となる台湾中西部の彰化県は、昨年台湾はじめ中華圏で大ヒットした『あの頃、君を追いかけた』(2011年東京国際映画祭で上映)でもノスタルジックな青春の場所としても登場している。 近年元気な台湾映画。その傾向といえる“台湾らしさ再考”の系譜の作品を語る上で、『父の初七日』もまた、重要な一本となっている。

text by:新田理恵
おすすめ度:★★★★☆

3月3日より東京都写真美術館ホール、銀座シネパトスほかにて全国順次公開

父の初七日
【製作・監督】ワン・ユーリン(王育麟)
【原作・脚本・監督】エッセイ・リウ(劉梓潔)
【出演】ワン・リーウェン(王莉雯)、ウー・ポンフェイ(呉朋奉)、チェン・ジャーシャン(陳家祥)
2009年/台湾/92分
提供=マクザム パルコ 太秦
配給・宣伝=太秦

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<公式HP> www.shonanoka.com
 

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