一枚のハガキ
御年99歳、この映画での監督業引退を表明している新藤兼人監督の最後の作品「一枚のハガキ」。引退の理由としてご本人は体も頭も弱ったと話しているが、いやいや全然そんな事はない。この映画は傑作であるし、まだ何本も撮れるとしか思えない出来である。
戦争末期に徴集された100人の兵士のうち、たまたまクジ引きの運だけで生き残った松山啓太(豊川悦司)と、啓太に手紙を託し戦地で亡くなった仲間の兵士の妻、森川友子(大竹しのぶ)。妻と父親が恋人同士になって出奔してしまい、家には誰も待っていない啓太。夫だけでなく、家を継ぐために戦死した夫の弟と結婚したのにその弟まで戦死し、舅と姑まで立て続けに死に一人になってしまった友子。手紙を届けるために啓太が友子を訪れるところから、孤独だった二人の生き方に変化が現れてくる…。
監督の原点である反戦というテーマが、静かに耐え忍ぶ友子の姿を通して観客に伝わる。当時この様な境遇の女性は多かったであろう事が容易に想像され、戦争ですべてを奪われた上に理不尽な周りの要求にも黙って従うしかない友子に、戦争の残酷さを改めて感じさせずにはおかない。普通の庶民が苦しむのが戦争、死んだ人間はもちろん生き延びた人間も不幸にしてしまうのが戦争なのだと。
しかし、この映画には希望がある。それでも生きて行くんだ、幸せになるんだという明るい未来が見える。一番の驚きは、99歳の監督がこれほど男女が惹かれ合う過程を説得力を持って描けるという事。やはり人生経験とは素晴らしいものだ。
監督がこれまで何があっても映画を撮り続けるんだと決意して映画を撮り続けた様に、生き続けると決意する事が大事なんだという思わせてくれた映画。やっぱり、まだ新藤監督に新しい作品を望む声は自分を含めて多い事は間違いないだろう。
おススメ度:★★★★☆
Text by 石川達郎
2011年8月6日(土)より、テアトル新宿にてロードショー
監督: 新藤兼人
キャスト: 豊川悦司、大竹しのぶ、六平直政、柄本明、倍賞美津子、大杉漣、津川雅彦、川上麻衣子、絵沢萠子、大地泰仁、渡辺大、麿赤兒
製作:2011年/日本
配給: 東京テアトル
上映時間: 114分
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