【YFFF】「ロミオ&ジュリエット フーリガンの恋」アンディバティアール・ユスフ監督インタビュー:暴力や憎悪からは何も生まれません

(ヨコハマ・フットボール映画祭上映作品)

 

アンディバティアール・ユスフ監督

2月19日、ヨコハマ・フットボール映画祭(YFFF)での上映がジャパン・プレミアとなったインドネシア映画『ロミオ&ジュリエット フーリガンの恋』。インドネシアのスーパーリーグ(日本ではJリーグに相当するもの)のチームで、首都ジャカルタを本拠地とするプルシジャと、地方都市バンドンを本拠地とするプルシブ、それぞれのサポーターが激しく対立し、衝突は日常茶飯事。そんな状況下でプルシジャを愛する青年ランガと、プルシブのサポーターの娘デジが恋に落ちる。だが2人が真剣な恋を育むことを周囲の人々は許さず、彼らの前途は厳しいものだった。そして思いがけない悲劇が、ランガとデジを襲う・・・。

本作はシェイクスピアの戯曲「ロミオとジュリエット」と、実際に起こった出来事を下敷きにした物語だが、YFFFに合わせて来日されたアンディバティアール・ユスフ監督に、主に映画で描かれていたサポーターの対立について、お話を伺った。

それにしても、ユスフ監督、かなりのサッカー好きで、ご自身は映画にも出てきたプルシジャのファン。またJリーグもご覧になっているとのこと。何でもインドネシアのケーブルテレビではJリーグの試合を放送しているという。日本代表の香川真司選手、本田圭佑選手もインドネシアでは人気があり、1月のアジア杯決勝では日本を応援していました、との嬉しいお言葉も頂きました(でも特に試合の前半は、日本にとって厳しい試合内容でしたよね、というご指摘も・・・。あまりにも事実なので何も反論できず・・・)。

――インドネシアのサッカー事情はよく知らなかったのですが、だからこそ興味深く拝見しました。プルシジャとプルシブのサポーター同士の乱闘シーンから映画は始まりますが、あまりの激しさに驚きました。乱闘シーンに登場した人達はエキストラの方々だったのか、それとも実際のサポーターの方々だったのでしょうか?

アンディバティアール・ユスフ監督(以下AY):プルシブのサポーター役は、全員エキストラの人達に演じてもらいました。プルシジャのサポーターはエキストラに加えて、本物のサポーターにも参加してもらっています。冒頭の乱闘シーンはジャカルタ市内で撮影しました。最初の計画ではサポーターがバスを追いかけているところでカットする予定だったのですが、演じているうちに、皆がだんだん頭に血が上ってしまったようで、私が指示していないのに、一部の人がバスの窓を割ったりするなど、勝手に暴れてしまったんですよね。まあ、後から冷静になって謝ってくれましたが(笑)。その人たちは、かつて実際にサポーター同士の乱闘騒ぎに加わっていた人だったんですよ。「そのとき、俺たちはこうやっていたんだ!」とこん棒でバスの窓をたたき割っていたそうです。彼らはその時の様子を再現してくれたつもりのようでしたね。

――それにしても乱闘シーンは、とてもリアリティに溢れていました。ドキュメンタリーを観ているようでした。

AY:私はドキュメンタリー畑の監督なので、どうしてもスタイル的にドキュメンタリーっぽくなってしまいます。この映画には3つの街(ジャカルタ、バンドン、マラン)が登場しますが、ジャカルタは暑くて人も多く、ゴミゴミした雰囲気を出すためにハンディカメラで撮影しました。バンドンはのんびりした街で、理由はよく分かりませんがインドネシア中の可愛い女の子が住んでいると言われています(笑)。ですので、ゆったりした雰囲気を出すためにカメラもしっかり構えて撮影しました。マランは都会的で洗練された街で、それぞれの雰囲気を捉えるように心がけました。また、プルンジャのチームカラーはオレンジ、プルシブのチームカラーは水色ということで、この点も映像にも意識的に取り込みました。例えば、プルシブ側の人間であるデジの部屋の壁紙は、ブルー系にしてみたりね。

――この映画をつくろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

AY:私自身はジャクマニア(プルンジャのサポーター)で、ジャクマニアの短編ドキュメンタリーを撮ったことがあります。また、“Old Farm”というスコットランドの名門チーム同士(セルティックとレンジャーズ)のサポーターの対立を描いた映画があり、対立するチームのサポーター同士が友情を築く話で、とても面白いコンセプトだと感じました。これをインドネシアを舞台にした映画にできないか、さらに踏み込んで恋愛の話として描けないだろうかと考えました。自分はシェイクスピアの戯曲が好きなので、彼の代表作『ロミオとジュリエット』が本作の恋愛シーンの骨組みになっていますが、さらにインドネシアの社会的・経済的背景を織り込んで描いたら面白いと考えたんです。

――ユスフ監督ご自身が脚本を書かれた理由は?

AY:脚本に関しては、当初は自分が担当する予定ではなく、女性の脚本家が担当するはずでした。ですが、彼女の脚本だと、どうしても女性視点の恋愛ものになってしまう。私は男性の視線での恋を描きたかったので、結局自分で書くことにしたのです。

――サポーターがサッカーを熱烈に愛していることは分かるのですが、彼らがいがみ合うような対立の根源にあるものはなんでしょうか?民族や言語の違いなども考えられるのでしょうか?

AY:ジャカルタはインドネシアの首都で、ジャカルタの人々は首都であることを誇りに思い、他の地方都市を見下している面もあります。逆にバンドンはインドネシアの流行の発信地でもあるんです。バンドンの人々は文化に対して誇りを持っていて、その点ではジャカルタの人々を軽蔑する傾向があるようです。つまり、2つの街では、誇りに思うものが違うんですよね。だから互いを理解することが難しい。
それから、インドネシアは地方によって言葉が違います。プルシブのサポーターが大勢乗っているバスに、ランガとその仲間がプルンジャのサポーターであることを隠して乗り込みますが、会話のなかでうっかりジャカルタの方言を使ってしまい、プルシブのサポーターにばれてしまうシーンがあります。都市によっての言葉の違いがあることも描きたくて、あのシーンを入れました。
また、インドネシアは基本的に階級社会で、階級の違いによる格差が根強く残っています。その格差が激しいいがみ合いに、直接的あるいは間接的に影響しているのだと思っています。

――この映画に込めたメッセージは何でしょうか?

AY:シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」では、ロミオもジュリエットも、ともに死んでしまうという悲劇的なラストを迎えますが、映画では違う結末にしました。でも悲劇であることには変わりはないと思います。私が映画を通して描きたかったのは、暴力や憎悪からは何も生まれないということです。失われるものがあまりにも多くて、得るものは何もない。プルシジャとプルシブの対立は、映画で描いた通り、本当に尋常なものではないんですよ。サポーターの衝突で命を落とした人も多くいます。こんな不毛な対立をいつまでも続けているわけにはいかないんです。こんな状態だと、肝心のサッカーを楽しく観ることができなくなってしまいますから。

――ありがとうございました。

取材:富田優子

〈プロフィール〉
アンディバティアール・ユスフ(Andibachtiar Yusuf)
“Jakarta Is Mine” (2003)などの短編ドキュメンタリー映画で、国際映画祭等で高い評価を得ている。本作はユスフ監督にとって初めての長編フィクション映画。

▼作品紹介▼
『ロミオ&ジュリエット フーリガンの恋』
監督:アンディバティアール・ユスフ
出演:エド・ボルネ / シシー・プレシリア
舞台:インドネシア・スーパー・リーグ
STORY:遠征バス襲撃の混乱のなか出会ったランガとデシ。長年激しく対立してきたサポーターグループに属する二人は、許されない恋とわかりつつ、お互いに惹かれあう・・・。アジアで最も熱いインドネシアサッカーシーンから届いた激しすぎるラブストーリー。 香港国際映画祭出品作品。日本での劇場公開は未定。

2009 年製作/インドネシア/107 分/DVD
公式サイト:http://www.bogalakonpictures.com/romeo-juliet/
© 2009. Bogalakon Pictures. AllRights Reserved.

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