【FILMeX】第20回東京フィルメックス授賞式

最優秀作品賞は『気球』ペマツェテン監督3度目の栄冠に!

11月30日、有楽町朝日ホールで第20回東京フィルメックスの授賞式が行われ、コンペティション部門の各賞及びその他の賞が発表された。観客賞の発表の前に市山尚三ディレクターから20回目の映画祭開催に協力、サポートした各団体、ゲストをはじめとする関係者たち、会場を盛り上げた観客に丁寧な感謝の気持ちが伝えられた。また、今年から協賛企業となったシマフィルムズからは、「ニュー・ディレクター・アワード」という賞を来年新設することが発表された。

審査員特別賞の発表前には、トニー・レインズ審査委員長から「先ほどちょっとパニックに陥りそうになったのです。受賞者が書いてある紙がシュレッダーにかけられたのかもしれないという瞬間があったのですが、スタッフの方が見つけて下さったので事なきを得ました」と、オープニングの時に約束していた安倍総理に関するジョークが披露され、観客席は笑いに包まれた。

最優秀作品賞はペマツェテン監督『気球』が受賞。11年『オールド・ドッグ』、15年『タルロ』に続き実に3度目の栄冠となった。(18年には『轢き殺された羊』で審査員特別賞) トニー・レインズ審査委員長は講評で「安倍晋三首相の下の日本ではみんなが同意するというところなので、心配していましたが、審査員は国籍も含めて多様性に富んでいました。それでも『気球』は全員一致で決まりました。ペマツェテン監督は、過去にも賞を受賞しているので、受賞したことのない人のほうが良いかとも一瞬思いましたが、やはり『気球』のクオリティは高く、説得力もあるので、これにしようということになりました」と述べた。受賞結果は以下のとおりとなった。

最優秀作品賞:『気球』ペマツェテン監督⇒レビュー
審査員特別賞:『春江水暖』グー・シャオガン監督⇒レビュー
スペシャル・メンション:『昨夜、あなたが微笑んでいた』ニアン・カヴィッチ監督
『つつんで、ひらいて』広瀬奈々子監督
観客賞:『静かな雨』中川龍太郎監督
学生審査員賞:『昨夜、あなたが微笑んでいた』
タレンツ・トーキョー・アワード2019:『About a Boy』シヌン・ウィナヒョコ

【最優秀作品賞】『気球』 Balloon

監督:ペマツェテン(Pema Tseden)
中国 / 2019 / 102分
副賞賞金100万円

ジンパ

授賞理由;東京フィルメックスは過去にこの監督の傑作を評価していますが、この新作は彼の作品の中でも映画表現の新しいレベルに達しています。オープニングの遊びの視点から侯孝賢へのオマージュとなる美しいクロージング・シーンまで、本作品はチベットの特殊な難問を幅広い、洗練された観点で描いています。つまり仏教的信心と国の政策と個人の心理的要因のぶつかり合いを通して今日のチベット人の生活について多くを語っています。

ペマツェテン監督の代わりに来日していた主演のジンパが代理で賞状を授与され、挨拶をし、また監督からのメッセージを代読した。
「私は今回初めて日本に訪れ、この映画祭にも初めて参加しました。私が主演を務めましたこの作品がこのような賞を受けたことは大変縁起の良いことです。ありがとうございます。監督のほうからメッセージが届いておりますので、代読させていただきます。東京フィルメックスに出品するたびにこのように賞を受賞できるとは思っていませんでした。本当にご縁としか言いようがありません。この映画祭に参加するたびにこのうえない感謝の気持ちを覚えております。作品を日本に連れて来てくれて、熱い観客に届けてくれてありがとうございます。審査員の皆さま、この映画に大きな栄誉を与えて下さいましたことを感謝しております」

【審査員特別賞】『春江水暖』


監督:グー・シャオガン
中国 / 2019 / 154分
副賞賞金50万円

グー・シャオガン監督

授賞理由;この勇敢で野心的な初監督作品は家族の物語と地方文化を正確にそして見事な文体で究めています。中国の古代のそして近代の伝統文化もそのストーリーテリングや映像で描写されそれでいて同時に現代の中国の映画文化の現代的な表現となっています。グー・シャオガンの初監督作品としては驚くべき出来栄えです。

グー・シャオガン監督は既に帰国していたため、友人のツェド氏(プロダクション)が代理で賞を受賞し、監督のビデオメッセージが流された。
「あのうすみません(日本語で)スケジュールの都合で、会場で賞を受け取れなくてごめんなさい。撮影スタッフには、とびきりの感謝を伝えたいです。春夏秋冬の季節を一緒に歩んでくれてどうもありがとう。私たちは力を合わせてこの映画を完成させました。みんながいなかったらこの映画も存在しなかったでしょう。だからみんなに感謝します。市山さん、この映画を日本に連れてきてくれてありがとうございます…」その他沢山の感謝の言葉が伝えられた。

【スペシャル・メンション】『昨夜、あなたが微笑んでいた』『つつんで、ひらいて』


『昨夜、あなたが微笑んでいた』
監督:ニアン・カヴィッチ
カンボジア、フランス / 2019 / 77分

ニアン・カヴィッチ監督

授賞理由:そこにある記憶を慈しむようにカメラと対峙させたこの映画は、決して過去を見つめる映画ではありませんでした。日本企業の買収によって数百の世帯が立ち退きを余儀なくされたホワイト・ビルディング。都市の発展や国や私企業の利益のために破壊される生活。それはやはり暴力なのです。そしてそれは今も再開発の進むあらゆる場所で起きているはずです。その現実をこの映画は静かに私たちに差し出してきました。これはまさしく記憶へのドキュメントという美しい映画です。

ニアン・カヴィッチ監督「本当に光栄に感じております。今思い出したのですが、タレンツトーキョーに参加した時、フライトに乗り遅れるというヘマをしてしまいました。それでもタレンツトーキョーさんのほうがもう一回チャンスを下さって、そのお陰で作品を作ることができ、こうやって皆さんにお見せすることができて、このような賞をいただけて大変嬉しく思っています。この先はこういう失敗はしないようにしていきたいと思います」

『つつんで、ひらいて』
監督:広瀬奈々子 (HIROSE Nanako)
日本 / 2019 / 94分
配給:マジックアワー

広瀬奈々子監督

授賞理由:はじめに言葉ありき。言葉は神と共にあり、言葉は神である。本作品は古来から今日に至るまで人類の永遠の友である本の地位に対し称賛と敬意を示しています。未来の人びとも本の紙を触ったり、匂いを嗅いだり、見たり感じたりし続けることができますよう。本は高貴な友です。私たちがそれを受け継ぐことができますように

広瀬奈々子監督「市山さんには最初に、今年は賞とかは期待しないでくださいって言われていたんです(笑)受賞理由が本当に嬉しくて、とても感動しております。本が売れない時代に紙の面を改めて考え直すことはとてもいいことだと思っているので、たくさんの人に届いてくれたらいいなと思っております」

【学生審査員賞】『昨夜、あなたが微笑んでいた』


監督:ニアン・カヴィッチ
カンボジア、フランス / 2019 / 77分

ニアン・カヴィッチ監督

授賞理由:1つの場所と1つのカメラさえあれば映画ができます。さり気なくも計算された監督のカメラは、映画の原点ともいえるその事実を証明してしまいました。無限だと錯覚した日常が有限だと悟ったとき、私たちはカメラを手に取りそれをやはり永遠のものにできるのです。映画が終わったとき、私たちはすぐにでも映画を撮りたいと思いました。

ニアン・カヴィッチ監督「選んで下さった学生審査員の皆さんありがとうございます。そして2016年にタレンツトーキョーで自分を選んで下さったことも改めて感謝したいです。今年は自分の作品をこちらに持ってくることができて、大変光栄に思っております」

【観客賞】『静かな雨』


監督:中川龍太郎監督
日本/2019/99分

中川龍太郎監督

中川龍太郎監督は欠席のため、藤村プロデューサーが代理して賞状を授与し、つづいて監督のビデオメッセージが流された。「学生時代から友人と通っていたフィルメックスで観客賞という素晴らしい賞がいただけて、本当に嬉しく思っています。この作品は2月7日に劇場公開されます。その時また観ていただけたら、とても嬉しいです」

【タレンツ・トーキョー・アワード2019】『About a Boy』


シヌン・ウィナヒョコ氏

シヌン・ウィナヒョコ氏「今回参加できたのは、素晴らしい機会でした。知識も得ましたし、素晴らしい友人たちにも出会うことができました。それぞれがこれから素晴らしい作品を作っていければと思います」




▼第20回東京フィルメックス▼


期間:2019年11月23日(土)〜12月1日(日)
【メイン会場】有楽町朝日ホール(有楽町マリオン)11/23(土)〜12/1(日)
【レイトショー会場】TOHOシネマズ日比谷11/23(土)〜12/1(日)
【映画の時間プラス会場】ヒューマントラストシネマ有楽町 (11/23(土)のみ)
主催:認定NPO法人東京フィルメックス
共催:朝日新聞社
公式サイト https://filmex.jp/2019/

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