トーキョーノーザンライツフェスティバル2019が2月に開催

~国別・独断と偏見の映画祭鑑賞ガイド~

©Chisato Tnaka

 トーキョーノーザンライツフェスティバルが2019 年 2 月 9 日(土)~15(金)に渋谷のユーロスペースにてJAPAN PREMERE11本を含む14作品が上映される。今年は、北欧の新進監督の作品を中心にしたプログラムとなっている。そのいずれもが各国の映画祭で賞を受賞するなどの注目作品である。また今年は、日本とフィンランドの外交関係樹立100周年を記念した特集も特別に組まれている。いずれも見逃せない作品ばかりだ。また、ガブリエラ・ピッシュレル監督、ヨハン・ルンドボルグ撮影監督、プロデューサーのキーナ・オーランダーさんなど海外からのゲストの他、作品に関係する専門家によるトークショーも充実している。

 関連イベントも、2月16日(土)、2月17日(日)開催の、毎年人気の音楽イベント(「ATTENTION REYKJAVÍK Vol.9 + Soundscape Iceland live」)は、ナビゲーターの小倉悠加さんによるトークと爆音ノイズ・ギターのキャルタン・ホルム(シガーロスのバックメンバーとして活躍し、米ローリング・ストーン誌でも絶賛される)のライブとの豪華2 部構成!となっているし、恒例の「シバノジョシア・アイスランド写真展」の他、渋谷駅周辺の飲食店でのコラボメニューの提供など、盛りだくさんとなっている。

 また、2月8日(金) 19:00 -には、ボルボ スタジオ 青山にて「前夜祭 -北欧映画最前線-」<ガブリエラ・ピッシュレル監督(『アマチュアズ』『イート・スリープ・ダイ』)来日記念トークショー!&2019年公開予定の北欧映画先取トーク!>が行われる。北欧映画ファン必見のイベントをぜひお見逃しなく。

フィンランド

~日本との外交関係樹立100周年~

日本との外交関係樹立100周年を迎えるフィンランド。今年のTNLFでは、これを記念して、「FOCUS ON FINLAND」と題したフィンランド映画の特集が組まれ、全部で5本+1本の日本映画(『かもめ食堂』)が上映される。

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『オンネリとアンネリとひみつのさくせん』
(17年)
マリヤッタ・クレンニエミの児童文学の映画化作品。昨年『オンネリとアンネリのおうち』(14年)『オンネリとアンネリのふゆ』(15年)が公開され、人気を博したシリーズの3本目。3作ともサーラ・カンテル監督をはじめとして、同じスタッフ同じキャストで製作されているので、2人の成長ぶりも楽しみである。
末延弘子さん(フィンランド文学翻訳家)トークイベント@TNLF2018『オンネリとアンネリのおうち』フィンランド児童文学の魅力に迫る
※ルミコ・ハーモニーさんによるトークショーを開催。
オンネリとアンネリの生活から見えるフィンランド人の思想やライフスタイル、子育ての方法などからフィンランド流幸せメソッドを読み解きます。

『マン&ベイビー』(17年)
フィンランドの女性は、世界のどの国よりも独立心が旺盛で逞しいという。もちろん社会的にも男女間の差は少なく、子供が生まれても、女性がキャリアを捨てないで済む社会体制も整っている。その反面、社会保障が充実し女性の自立も容易であるため、離婚率が高いのもこの国の特徴だ。これは、妻が失踪し、生まれたばかりの息子と2人取り残された男の奮闘をコメディ・タッチで描いた作品である。フィンランドでは共働きし男性が子育てするケースも少なからず見られるとはいうものの、いざ妻に出ていかれてみれば、なかなかシングル・ファーザーは大変なようである。

マルヤ・ピューッコ監督は、赤ん坊の時から子役、女優として活躍していた。20代後半にフィンランド・アカデミー・オブ・ファイン・アーツ に入り、美術の修士号を取得した後は、映画監督、助監督としても活躍している。因みに彼女自身には、二人の子供がいるそうだ。本作は、男性の奮闘ぶりを女性の監督が描いているという点も面白い。2017年ノルディック国際映画祭最優秀長編映画賞受賞した。
※マルクス・コッコ (駐日フィンランド大使館 報道・文化担当参事官 )によるトークショーを開催

『若き兵士たち 栄光なき戦場』(85年)
フィンランド人の少女とサーミ人の若者の不幸な恋を描いた『大地は罪深き歌』(『Maa on syntinen laulu』73年)が各国の映画祭で反響を呼んだ、ラウニ・モルベルイ監督の80年代のヒット作。フィンランドの国民的小説家ヴァイノ・リンナの「無名戦士」の2度目の映画化作品である。第二次大戦下、ドイツとソビエトとの闘いに巻き込まれるような形で起きた、8万5000人の戦死者を出した継続戦争(41~43年)に参加した若者たちの戦いをリアルに描いた作品である。
第39回カンヌ映画祭ある視点部門出品。
※軍事評論家斎木伸生さんによる「冬戦争」「継続戦争」についての解説トークショーを開催

『アントレプレナー』(18年)
ヴィルピ・スターリ監督は、20年以上にわたりドキュメンタリーの世界で活動し、その作品は、いくつかの賞にノミネートされている。タイトルのアントレプレナーとは起業家のこと。この作品では、2組の起業家の日常生活が描かれており、彼らの夢、仕事に対する真摯な姿勢が写し出されている。苦難な状況に置かれた時、彼らが尊厳をいかに維持していったのかということに焦点が当てられているが、その中から、まったく異なる2組の起業家の類似点も浮かび上がってくるのが興味深い作品だ。

『村の靴職人』(1923年)
フィンランドの森を舞台に繰り広げられる靴職人たちとヤーナの結婚騒動。

エルッキ・カル監督について
フィンランドでは当初、盛んに映画製作が行われてはいたものの、ロシアからの独立宣言と、それに続く内線によって、その芽はいったん断たれてしまう。それでも画家出身のエルッキ・カルがスオミ・フィルム社を創設(1919年)したことにより、1920年ころからフィンランド映画界はようやく軌道に乗り始める。

エルッキ・カル監督は、独立直後のフィンランド外務省の依頼によって、長編記録映画『フィンランディア』を監督したことからも、その当時いかに重要な存在であったかが、窺い知れる。また、彼はフィンランド初の本格的トーキー映画『材木屋の小僧の花嫁』を監督したことでも映画史にその名が残っている。彼は48歳という若さで亡くなってはしまったものの、数多くの作品を監督している。その中でも最高傑作と言われているのが、今回上映される『村の靴職人』である。

 この時代のフィンランド映画は、人口400万人(当時)の小国ということもあり、またフィンランド語という言語の特殊性もあってか、スウェーデン映画のように、世界にマーケットを広げることができなかったため、当然日本でも公開されることがなかった。そういう事情からこの作品は、これが日本で初めての上映となる。柳下美恵さんの伴奏でこの作品が観られる貴重な機会を、ぜひお見逃しなく。
※北欧映画研究の第一人者で、早稲田大学文学学術院教授の小松弘さんによるスペシャルトークを開催(2月10日、13日それぞれ内容は別のものになります)

『かもめ食堂』(05年)
小林聡美、片桐はいり、もたいまさこ主演。荻上直子監督。フィンランドの首都ヘルシンキに「かもめ食堂」という日本食の食堂を開店させたサチエ。しかし、客は全く来ない。それでもそこは、日本かぶれのフィンランド青年、わけありの日本人、はぐれ者のフィンランド人など、個性的な人たちのたまり場となっていく。アキ・カウリスマキ監督『過去のない男』に主演したマルック・ペルトラが、カウリスマキ映画的な人物をそのまま演じている。13年ぶりに35ミリフィルムで上映されるのも嬉しい。

スウェーデン

~スウェーデンの移民たちの今~

スウェーデンは多文化の移民を欧州で最も積極的に受け入れてきた国として知られている。
しかし、近年の極端な移民の増加は、治安の悪化、移民保護制度の負担による財政破綻の危機などさまざまな問題を引き起こしている。移民問題、新自由主義の影響で、社会の分断、流動化が進み、みんなが信頼しあうことで成り立つ福祉国家という従前のイメージは、壊れつつあるのだ。そういった意味で、今回取り上げられた作品が、何れも移民の視点で作られた作品というのも、決して偶然ではないだろう。

『マイ・アーント・イン・サラエボ』(16年)
旧ユーゴスラビアでの戦争を逃れたてスウェーデンに渡ったズラタン。祖国との接触は、唯一生き残った親戚である年取った叔母に定期的にお金を送ることだけだった。アンニャは、彼が若き日に過ごした街サラエボを一緒に訪問しようと説得する。最初は不本意であったものの20数年ぶりに母国を訪れたズラタンに、その旅は驚くべき不条理と過去の秘密をもたらすのだった。

隣近所の人たちが、民族の違いによって分断され争ったことから熾烈を極めたボスニア・ヘルツェゴビナの内戦が終結して、四半世紀。母国を知らない子供たちが大人になり、ようやく過去を検証できるようになったかと思うと、感慨深いものがある。

 娘のアンニャ役で『ストックホルム・ストーリー』(14年)のジュリア・ラグナーソン(アンナ役)が出演。また、サラエボ出身のゴラン・カペタノビッチ監督は、これが長編劇映画初監督作品で、本作は2017年スウェーデン・アカデミー賞(グルドバッゲ賞監督賞、助演女優賞を受賞した。

※同時上映:短編『フュジー532』(14分)
(監督:ゴラン・カペタノビッチ、共同脚本、プロデューサー:キーナ・オーランダー)
家族と離れてスウェーデンに逃れ、難民キャンプで暮らす少年が主人公の物語。
※プロデューサーで脚本も手掛けたキーナ・オーランダーさんによるトークショーを開催!

ガブリエラ・ピッシュレル監督特集
ガブリエラ・ピッシュレル監督は、1980年生まれ。ボスニア出身の母とオーストリア出身の父を持つ。デビュー作の『イート・スリープ・ダイ』で、第69回ヴェネチア国際映画祭国際映画批評家週間で観客賞を受賞した他、スウェーデン・アカデミー(グルドバッゲ) 賞作品賞、監督賞、脚本賞を受賞。今回は、現在までに作られた彼女の長編作品のすべて(2作品)がまとめて上映される。

『アマチュアズ』(16年)
スウェーデンの小さな街の評議会では、ドイツのスーパーマーケットを誘致し、何とか街を活性化させようと、地元の魅力を紹介するマーケティングビデオを作ることを決定する。予算がなかったことから、高校生にビデオを作らせてはというアイデアが生まれ、選ばれた移民の少女ダナとアイダの2人がスマホ片手に街を撮影し始める。撮影するなかで、彼女たちは、住民間に存在する偏見やグローバルリズムがもたらす問題など、この街に存在する様々な課題を発見していくのだった。
※2018 年ヨーテボリ映画祭最優秀ノルディック映画賞受賞
※ガブリエラ・ピッシュレル監督、ヨハン・ルンドボルグ撮影監督によるトークショーを開催!

『イート・スリープ・ダイ』(12年)
食品工場で働くクロアチア移民二世でムスリムのラーシャは、効率化の名の元に、突然解雇される。映画は、父親の世話をしながら、新しい仕事を見つけるための彼女の闘いの日々を追っていく。高校の卒業証書もなく、仕事はなかなか見つからず、差別や社会と衝突しながらも彼女は逞しく生き、自分自身を見つけていく。

主演のネルミナ・ルカシュ自身もモンテネグロで生まれたスウェーデン移民。この作品で初めて演技を経験した。
※2013 年スウェーデン・アカデミー( グルドバッゲ) 賞作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞(ネルミナ・ルカシュ)受賞

※ガブリエラ・ピッシュレル監督、ヨハン・ルンドボルグ撮影監督、キーナ・オーランダーさんによるトークショーを開催!

デンマーク

~氷と雪の世界に閉じ込められて~

『氷の季節』(18年)
19世紀デンマークの農村地。極貧にあえぐ農家の主は、娘を裕福な地主と結婚させて貧困からの脱却を図るが、思惑と運命が残酷に交差する。現代に通じる格差社会を描き、リアリズムに裏付けされた硬質のドラマ。マイケル・ノアー監督は国立映画アカデミーでドキュメンタリーを専攻。本作は2018年東京国際映画祭:最優秀男優賞(イェスパー・クリステンセン)、審査委員特別賞を受賞。
クロス・レビューhttp://eigato.com/?p=30688

『ウインター・ブラザーズ』(17年)
白銀の世界、石灰で真っ白になった顔、鉱山の暗闇。厳寒の中、田舎の石灰採掘場で働く兄弟の物語。工場から盗まれた化学物質から蒸留酒ムーンシャインを作る風変わりな弟エミール。同僚が病気になったとき、蒸留酒との関りが取りざたされ、エミールに疑いがかけられる。その時彼を助けるものは誰もいなかった…。

主演のエミールには『氷の季節』にも出演のエリオット・クロセット・ホーヴ、他にマッツの兄ラース・ミケルセンも出演。アイスランド出身のフリヌール・パルマソン監督はこれが長編劇映画初監督作品で、本作はデンマークアカデミー賞作品賞、監督賞、主演男優賞ほか9部門を受賞した。

ノルウェー

~それぞれの心の旅~

『アイ・ビロング』(12年)
ナーバスになると、英語で話しだしてしまう看護師。乗り気でない仕事を受けた翻訳者。親戚からの100万クローネの現金を贈るという申し出に、恥ずかしい思いをする経済的に苦しい母娘。すべてがうまく行っているように見えるのに、他人を傷つけたり、誠実さと感情に基づいて行動しているのに面倒であると見られたり、ある人にとって重要なもののように思えることが、他の人には大惨事のように見えてしまったり。3人の登場人物たちのミスマッチな日常を描いた悲喜劇。

司書、小説家、脚本家、映画監督といくつもの顔を持つダーグ・ヨハン・ハウゲルード監督の最初の長編映画。主演のライラ・グッディは演劇界でも活躍する演技派女優である。
※2013 年アマンダ賞作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞(ライラ・グッディ)

『ルールズ・フォー・エヴリシング』(17年)
10歳のストームは父親の死を経験する。その混乱から逃れようともがくうちに、世界には一定の法則が存在し、それがすべてを決めていると考え始める。キム・ヨーソイ監督は、電子音楽家、グラフィックデザイナー、イラストレーター、映画監督、作家、多ジャンルにまたがり活躍するアーティスト。そんな監督ならではの感性で、少女ストームの世界を目くるめく映像と音楽で表現しており、観客の五感に響く作品になっている。
※2017 年アマンダ賞撮影賞、助演女優賞(サーラ・フランチェスカ・ブレンナ)

アイスランド

~大自然に包まれて~

『サマー・チルドレン』(17年)
1960年代、両親が離婚し、エイディスとカリの兄弟は母親の元に引き取られる。まだ5歳と6歳に過ぎない子供を抱えた母親は、なかなか自分の足場を見つけることができずに、彼らを郊外の一時預かり施設サマー・チルドレンに預けることにする。しかし、子供たちの予想以上に滞在が伸びると、彼らは施設を脱走する。アイスランドの広大な自然の中を進む彼らの目の前で、子供ならではの現実と空想の世界が交差する。グズルン・ラグナルスドッティル監督は本作が初長編映画となる。

【開催概要】 トーキョーノーザンライツフェスティバル 2019

会場:ユーロスペース 会期:2019 年 2 月 9 日(土)~15(金)
主催:トーキョーノーザンライツフェスティバル実行委員会
公式サイト:http://tnlf.jp/ (スケージュール詳細はこちらから)
Face book:https://www.facebook.com/tnlfes
Twitter:https://twitter.com/tnlfes
【チケット情報】
ユーロスペース公式ウェブサイト、劇場窓口にて上映 3 日前より販売! 一般 1,500 円 学生・シニア・ユーロスペース会員 1,200 円
*ユーロスペースの火曜日サービスデー 1,200 円が適用されます。

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