『オンネリとアンネリのおうち』フィンランド児童文学の魅力に迫る
北欧発のとびきりキュートな映画『オンネリとアンネリのおうち』が6月9日から公開されている。フィンランドで長く愛されているマリヤッタ・クレンニエミの児童文学が実写映画化されたもので、本作はシリーズ3部作のうち1本目となる。
今年2月にトーキョー ノーザンライツ フェスティバルで先行上映された際、フィンランド文学翻訳家の末延弘子さんを招いてトークイベントが行われた。末延さんはフィンランド現代文学の翻訳を多数手がけており、この映画のなかで描かれている世界観や、その根底にあるフィンランドの生活文化について、ご自身の留学経験に触れながら分かりやすく語ってくれた。
ストーリー
オンネリとアンネリはとっても仲良し。ある日ふたりは、バラ通りで「正直者にあげます」と書かれた手紙とお金の入った封筒を拾い、そのお金で、ふたりだけの素敵な水色のおうちを買うことに。オンネリは9人きょうだいのまん中で、アンネリは離婚したおとうさんとおかあさんの間を行ったり来たり。ふたりの両親は忙しすぎて、自分たちがいなくても気づかない。気難しそうなお隣さんや、魔法が使える陽気なおばさん姉妹、ちょっぴり変わったご近所さんと交流しながら、ふたりだけの楽しい生活が始まる。しかし、お隣さんに泥棒がー!(公式サイトより)
トークイベント(語り:末延弘子さん)
ーーフィンランド児童文学の特色について
「オンネリとアンネリのおうち」は1960年代の児童文学ですが、その頃の作品は色んなキャラクターが出てきて、みんな考え方も見た目も違います。でも自分と違うから避けようなどとは思わず、自分と違う価値観を受け入れ、どんな風に付き合っていくかを考えていくような話が多いと思います。みんなのあり方を受け入れながらお話が展開していく、というのがフィンランド文学の特長で、「みんな違っていてそれで良い、だからこそ面白い」という考え方が反映されていると思います。みんな違っているという前提のもと、「何を共有するのか」ということの方が大事だと考えられているんですね。
60年代の文学は童話的な要素、本作のように魔法が出てくるなど寓話性が強いですが、90年代になると、より現実的なテーマや周りの社会で起こっていることが話に入ってきます。共通点はフィンランドらしい現実的な問題が背景に描かれていることですが、テーマは深刻であっても「この先にはきっと良いことがある、夢がある」という肯定的なラストが魅力だと思います。(翻訳を手がけた)「麦わら帽子のヘイナとフェルト靴のトッス」もそうです。
子供にとって辛くても向き合わなければならない問題をあえて取り上げていますが、共感して辛さや悲しみを乗り越えていけるような、また本を読んだことで明るい選択肢が生まれて前向きに生きていけるような文学が多いのではないかと思います。
ーーフィンランドの暮らしについて
子供たちがよく飲んでいるのはベリーのジュースです。タンペレ大学に留学していた時に、フィンランド人のおばあちゃんと仲良くなって、週末になるとおばあちゃんのお宅に泊まりに行ってたんです。その時にフィンランド料理をたくさん教えていただいたんですが、キッシュとかパンとか色々と教えていただいたなかにベリーのジュースがありました。おばあちゃんのお庭には色んなベリーの実がなっていて、それを夏の終わりぐらいに摘んでジュースを抽出する鍋に入れて作るんです。それぞれのご家庭で自家製のジュースを作っていましたね。フィンランド人はお酒が好きなんですが、ウィスキーの空ビンに何本も入れて地下の貯蔵室にストックしてるんです。風邪を引いた時には、「ビタミンがたくさん入ってるからこれを飲めばすぐに治るわ」と言って、わざわざアパートに持ってきてくれました。
ーーブタの貯金箱について
昔、ブタを飼っている人はお金持ちになれると言われていて、ラッキーアイテムの一つなんです。ブタの貯金箱というのは富の象徴で、映画に出てくるのも、きっとそれに由来していると思います。フィンランドでは、ジンジャークッキーの型とかミートパイの型でもよく見かけました。
ーーフィンランドは世界一の教育先進国
フィンランドでは、夜寝る前の絵本の読み聞かせが習慣になっていて、私の知り合いはみんなそうしていました。フィンランドの絵本というのは、けっして簡単な絵本ではなく、難しいテーマのものもありますし、児童小説かなと思うぐらい文章量が多いものもあります。子供たちは文字が読めなくても、両親が読んでくれることで、つまずくことなく想像の世界に入っていけます。またフィンランドは夫婦共働きが多いので、尚のこと子供との時間を大切にしていると思います。現在、学習到達度調査でフィンランドがどの分野も優秀な成績をおさめているんですが、読み解く力が高いのは読み聞かせが後押ししていると思います。
映画『オンネリとアンネリのおうち』は6.9(土)より、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国順次公開
末延弘子さんプロフィール Hiroko Suenobu
タンペレ大学フィンランド文学専攻修士課程修了。フィンランド文学情報センター勤務。フィンランド文学協会、カレワラ協会会員。レーナ・クルーン、ノポラ姉妹などフィンランド現代文学の訳書多数。フィンランド政府外国人翻訳家賞受賞。