【FILMeX】第19回東京フィルメックス授賞式

最優秀作品賞は、キルギスの不法労働女性を描いた『アイカ』が受賞

 11月24日、有楽町朝日ホールで第19回東京フィルメックスの授賞式が行われ、コンペティション部門の各賞及びその他の賞が発表された。観客賞の発表の前に市山尚三ディレクターから「今回さまざまな問題を抱えつつも、授賞式を迎えることができて、大変嬉しく思います」と、関係した人たちそれぞれ、観客に丁寧な感謝の気持ちが伝えられた。受賞結果は以下のとおりとなった。

最優秀作品賞:『アイカ(原題)』⇒クロス・レビュー
審査員特別賞:『轢き殺された羊』⇒クロス・レビュー
観客賞:『コンプリシティ』
学生審査員賞:『ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト(仮題)』
スペシャル・メンション:゜『夜明け』

【最優秀作品賞】

『アイカ(原題)』Ayka
監督:セルゲイ・ドヴォルツェヴォイ (Sergei DVORTSEVOY)
ロシア、ドイツ、ポーランド、カザフスタン、中国 / 2018 / 100分

ウェイ・ワン審査委員長

プレゼンター:ウェイン・ワン、西澤彰弘氏
授賞理由;この映画はどういう映画かということは、あまり観る前にお伝えするのはどうかと思いますが。25歳のキルギス出身の不法労働者の女性がモスクワにいるのですが、映画の冒頭産んだ赤ん坊をすぐ置いていなくなる。そしてそこから彼女の運命はさらに過酷になっていくというお話なのですが、映画を通して圧倒的な肉体的な大変さが伝わってきます。彼女の気分が悪くなると、私も一緒に気分が悪くなるという経験をしました。難民というテーマは非常にこんにち私たちに深くかかわっている、世界中の課題と言えますね。これに私たちは取り組む必要があるということも強く感じさせる作品です。

セルゲイ・ドヴォルツェヴォイ監督

セルゲイ・ドヴォルツェヴォイ監督コメント
「審査員の皆様、市山さんに感謝します。ちょうど9年前になりますが、東京国際映画祭で『トルパン』という作品を上映していただき、そこでもとてもいい評価をいただきました。今回こうして良い評価をいただいたというのは、おそらく私たちの文化というものが、日本の皆様の文化、皆様の感情という部分に、非常に近いものがあるのではないかということを、思いがいたしました。私も小津安二郎監督、溝口健二監督の黒澤明監督の映画をとても尊敬しています。この映画は非常に小さな存在である主役の女性が、モスクワという巨大な街の中で、右往左往する話なのですけれども、本当の彼女の心というのがテーマになります。このテーマは、何もキルギスの女性だけの話ではなくて、世界中に共通する部分が、あると思います。審査委員長からお話があったように、こういった、移民の問題とか、不法労働の問題は、カザフスタンでも、モスクワでも、アメリカでも、世界中で起こっていることではないかと思います。本当にこういう映画は、日本でも公開していただいて、チャンスがあれば、もっといろいろな人に観ていただきたいのですが、その機会に今回の映画祭がなったと思っておりますので、とても感謝しております」

【審査員特別賞】

『轢き殺された羊』 Jinpa
監督:ペマツェテン(Pema Tseden)
中国 / 2018 / 86分

モーリー・スリヤ審査員

プレゼンター:モーリー・スリヤ、エドツワキ氏
授賞理由;「私の夢を教えても、あなたはおそらく忘れるだろう。私が夢に従って行動すれば、あるいはあなたは覚えているかもしれない。ただ、私の夢にあなたを巻き込めば、それはあなたの夢にもなる。」このチベットに言い伝えに始まるポップな西部劇ロードムービーは二人ともジンパという名の謎の人物とココシリへと私たちを誘う。一人は復讐のために人殺しを企て、もう一人は誤って殺してしまった羊の救済を求める。 息を呑む映像で神秘的でオペラのような夢のごとく物語は語られ、チベット語で歌われる「オーソレミオ」で強調される。

ペマツェテン監督

ペマツェテン監督コメント
「審査員のみなさん本当にありがとうございます。といいますのも私の作品『オールド・ドッグ』『タルロ』そして『轢き殺された羊』の三本が、このフィルメックスで皆様に最初に観ていただいておりますので、本当にフィルメックスには感謝したい気持ちでいっぱいです。この作品に関わってくれたすべてのスタッフとキャストにお礼を言います。この映画が夢であるとするならば、私の今の夢は、たくさんの観客の皆様と私の夢の体験を共有したいということです。出来る限り多くの日本の皆様にこの映画をぜひ観てもらいたいと強く願っています」

【スペシャル・メンション】

『夜明け』 His Lost Name
監督:広瀬奈々子(HIROSE Nanako)
日本 / 2018 / 120分

プレゼンター:ジーン・ノ 氏

広瀬奈々子監督

授賞理由;今年は秀作ぞろいでしたので、審査が本当に難しかったです。本作は大変優れた家族ドラマと言えます。審査員は広瀬奈々子監督の「夜明け」をスペシャル・メンションとします。本作は、見事な脚本と演出により、柳楽優弥が人生を模索する青年を力強く演じるファミリードラマである。この若い女性監督の明晰なデビュー作品は日本映画の未来への一条の明るい光となった。

広瀬奈々子監督コメント
「大変光栄に思っております。今回力のある作品ばかりが並んでいる中でこのような評価をいただけて、本当に嬉しく思っています。この賞は本来私ではなく、柳楽さんが贈られるべきなのじゃないかというくらい、彼の繊細なお芝居に支えてもらった作品です。まずは柳楽さんに報告して、一緒に喜びを分かち合いたいと思います。本当に嬉しいです」

【学生審査員賞】

『ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト(仮題)』
Long Day’s Journey into Night
監督:ビー・ガン(BI Gan)
中国、フランス / 2018 / 140分
配給: リアリーライクフィルムズ / ガチンコ・フィルム / シネフィル

シャン・ズォロン(プロデューサー)

授賞理由;男と女、2人の究極的な愛は、地球の自転にも抗っていました。 男が誰と出会ったのか、本当に出会ったのかさえ不確ですが。ようやく縫い合わせた錆びた記憶のかけらたちと、眠ってしまったのかと錯覚してしまう夢のようなひととき、意味は遥か先に隠され、どこを探しても見つけらません。僕らは宇宙からやってきた監督によって別世界に、別の宇宙に連れ去られました。大冒険は終わったのかわかりません。まだ元の世界に帰ってきていないのかもしれません。映画表現へのこの革命的ギャンブルは、新たな扉を叩いたでしょう。そして、映画に対する確固たる愛と覚悟を見せつけ、僕らの背中も大きく押してくれました。

シャン・ズォロン(プロデューサー)コメント
「監督は次回作の準備でここにはいられないのですが、まずこの賞にはとても特別な思いがあります。というのも、3人の学生さんに選んでいただいたということ。やはりこれは将来の映画、若い世代の映画と言えるのではないかと思います。本作は来年夏、日本で配給が決まりました」

【観客賞】

『コンプリシティ』 Complicity
監督:近浦啓 (CHIKAURA Kei)
日本、中国 / 2018 / 116分 製作:クレイテプス

近浦啓監督

近浦啓監督コメント
「東京フィルメックスで上映できる機会をいただき、誠にありがとうございます。観客賞という賞は、お越しいただいた皆さんからいただいた賞だと思っております。この映画は中国と日本の共同制作なのですが、編集の終盤に北京で、親友の映画作家ナイ・アン、プロデューサーのフー・ウェイの3人で、一晩中かけて、編集した日のことを覚えています。その時ナイ・アンが、これで観客に伝わるのかと、繰り返し私に問うてくれたことを思い出します。今回観客賞をいただいたことによって、もしかしたら少し届いた部分があったのではないかと思い、この上ない喜びです」

【ウェイ・ワン審査委員長総評】

「皆さん、とても幸運だと思いますよ。というのも、フィルメックスという映画祭があるわけですから。私は、昨年と今年二回続けて映画祭に参加しています。昨年は偶然来たような形ではあったのですが、今回は審査委員長ということで、全作観る機会に恵まれました。特別な作品が揃っていたと思います。どれも素晴らしかったです。プログラミング・ディレクターの市山さんはとても知的な方で、映画祭においてまず良い作品を持ってくるということを担っているわけですが、その良い作品のお陰で、私たちはとても大変な思いを強いられました。一日集中して三本映画を観たのですが、どれも優れていたため、とても大変だったのです。なので、皆様はとても幸運だと思います。審査の時には、とてもいい議論を交わしました。今のこの世の中において、このように議論を交わして共通の着地点を見出すというのは、とても必要なことだと思います」

タレンツ・トーキョー・アワード2018

今年も、ベルリン国際映画祭と提携した、映画分野の人材育成事業「タレンツ・トーキョー2018」が開催された。ヴィムクティ・ジャヤスンダラ氏(映画監督)などのメイン講師とのワーク・ショップ、アミール・ナデリ監督などのマスター・クラス、ヨー・シュウホァ 監督による特別講義が行われ、タレンツ・トーキョー・アワードとして次の企画が選ばれた。

「Tiger Stripes」 (アマンダ・ネル・ユー(Amanda Nell EU)/マレーシア)

アマンダ・ネル・ユーさん

受賞理由:映画は五感の全てに語りかける時に最高潮に達する。大いなる尊敬と興奮を込めて、私たちは全身を使って物語を伝え、スクリーンの限界を超える体験を可能にする若い監督を称える。彼女は自信を持って現代のムスリムの女の子に寄り添い、思春期の不安を真摯に捉えた。怪物が誕生する前に、私たちはその美しさを感じることができた。タイガーよ、よく吠えた!

アマンダ・ネル・ユーさんコメント
「まずお礼をいいたいのは、映画祭がタレンツ・トーキョーに私を招いて下さったこと、講師のみなさん、多くのことを教えてくれた仲間たちです。もちろん賞をいただいたことも嬉しいです。ぜひこの作品を完成させて、皆様の前で披露できる機会があればと思っています」

▼第19回東京フィルメックス▼

【期間】2017年11月17日(土)〜11月25日(日)
【メイン会場】有楽町朝日ホール(有楽町マリオン)11/18(日)〜11/25(日)
【オープニング/レイトショー会場】TOHOシネマズ 日比谷11/17(土)〜11/25(日)
【特別上映会場】有楽町スバル座 (11/17(土),11/18(日)のみ)
【併催事業:人材育成ワークショップ】
11/19(月)〜11/24(土) 有楽町朝日スクエアB
主催:特定非営利活動法人東京フィルメックス実行委員会
共催:朝日新聞社
公式サイト: https://filmex.jp/2018/

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