【FILMeX】アイカ(原題) (コンペティション)
【作品紹介】
『トルパン』(08)でカンヌ映画祭「ある視点」賞を受賞したセルゲイ・ドヴォルツェヴォイの新作。モスクワに働きにきたキルギス人女性の過酷な日々を手持ちカメラの激しい映像で見せる。主演のサマル・エスリャーモヴァがカンヌ映画祭最優秀女優賞を受賞した。(東京フィルメックス公式サイトより)
【クロスレビュー】
藤澤貞彦/アイカの本気度:★★★★☆
陽が輝くホテルという皮肉な名前を持った木賃宿に、キルギスの出稼ぎ労働者が、すし詰めになって暮らす。職場環境も劣悪だ。そのうえ、外へ出れば何処を見ても真っ白の雪の世界。偶然撮影時にモスクワを襲った寒波が、主人公アイカの閉塞感を増幅させる。カメラはアイカに連れて自在に動き回るのだが、その息遣いといい、スピード感といい、こちらまで息苦しくなってくるようだ。『トルパン』では主人公が山羊の出産を助けるところから成長していったが、本作でも途中アイカが働く動物病院で、傷ついた犬が子犬にお乳を与えるところを彼女が見るというシーンが出てくる。血を流しながらも子犬への愛情を優先する犬と、同じように血を流しながら、子供を病院に置き去りにしてきたアイカが対称になっていて、それはラストへと繋がっていく。冒頭登場した5人の生まれたての赤ん坊たちの、個性豊かな表情を見よ!結局一番大切なのは命であり、親子の繋りなのである。物事の本質を見失った人間を我に立ち返らせる。その原点を動物の親子にまで求めるところに、セルゲイ・ドヴォルツェヴォイ監督の個性が感じられる。
外山香織/全うな人間であろうとすることの困難さ:★★★★★
大雪に見舞われたモスクワ。始終、女の苦しそうな息遣いが聞こえる。彼女は、出産後に赤ん坊を置き去りにしたまま産院から逃亡。産褥や乳房の張りなどに苦しみながらも、仕事を探しては働き続ける。一体なんのために? キルギスからロシアにやって来た彼女は「自分の場所と自分の仕事」を見出そうと必死だ。借金の取り立て、労働許可証の期限切れ、給料の未払い、性犯罪の被害と望まぬ妊娠。あらゆる厄災が彼女を襲う。もう、盗みなどの犯罪に手を染めてもおかしくないギリギリのラインだ。そして最後に下そうとした決断。正直、誰も彼女を責められないと思う。女であること、母であること、その前に一個の全うな人間であろうとする彼女の道は、何故こんなに困難なのだろう。代理として働いた動物病院で、犬の授乳を手伝うよう命じられた彼女。母犬は血を流している中、子犬は貪欲に乳をのむ。それをどんな思いで見たのだろうか。
劇中、サッカーロシアW杯のポスターが目に入った。熱狂の陰の現実が、苦く胸の中に残る。
▼第19回東京フィルメックス▼
期間:2017年11月17日(土)〜11月25日(日)
【メイン会場】有楽町朝日ホール(有楽町マリオン)11/18(日)〜11/25(日)
【オープニング/レイトショー会場】TOHOシネマズ 日比谷11/17(土)〜11/25(日)
【特別上映会場】有楽町スバル座 (11/17(土),11/18(日)のみ)
【併催事業:人材育成ワークショップ】
11/19(月)〜11/24(土) 有楽町朝日スクエアB
主催:特定非営利活動法人東京フィルメックス実行委員会
共催:朝日新聞社
公式サイト: https://filmex.jp/2018/