【FILMeX】轢き殺された羊(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

【作品紹介】

広大なチベットの草原を舞台に、「ジンパ」という同じ名を持つ二人の出会いを現実と幻想を入り交えながら描く。ウォン・カーウァイがプロデュースを担当。ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門で上映され、脚本賞に輝いた。(東京フィルメックス公式サイトより)

【クロスレビュー】

藤澤貞彦/ジンパは死んだ羊の夢を見るか度:★★★★★

地平線まで広がる荒涼とした風景、5000mの標高でしか見られないようなダイナミックな雲、トラックを容赦なく吹き付ける雪嵐。これをスタンダード・サイズの画面で表現する。前作『タルロ』では、ワイド画面の片隅に小さく灯る主人公の焚火を暗闇の中の小さな光で見せたのと対象的だ。これは、轢き殺された羊が、トラックの運転手に見せた、白日夢。思えば、トラックに同乗したジンパという同じ名を持つ2人の男、画面の中央に死んだ羊の顔、右と左に半分半分の男の顔。思えばここで既に両者の関係性が鮮やかに示されていたのであった。復讐に向かうジンパと羊を弔いに行く優しいジンパ。それぞれが向かう分かれ道。人間の二面性が示されているかのようで面白い。復讐のジンパが訪れた村は、まるで過去から立ち昇ってきたかのようでもある。というのも、映画の初期に行われていた、モノクロに染色を施したカラー映像のような色で、この場面が描かれているからだ。2人のジンパはまるで時空を超えて繋がっているかのようでもある。そう考えると、これは輪廻転生したジンパが、前世のカルマを落とす旅だったとも言えるだろう。チベットの智慧が詰まった魅力的な幻想譚である。

富田優子/夢か現実か、現世か前世か・・・。夢心地に翻弄される度:★★★★☆

オールド・ドッグ』『タルロ』とペマツェテン監督の作品を東京フィルメックスで見てきたが、これらはチベットの現状を憂い、人々の声なき声を拾っているような、社会的メッセージが込められていた。しかし本作はチベットの荒涼とした大地への敬意を込めつつも、主人公が茶館で「肉1㎏、小包15個」を注文してどんだけ食うんだ!というツッコミとか、その茶館の女主人がムダにセクスィーとか、厳しさよりもユーモアがある。またウォン・カーウァイがプロデューサーであることも影響しているのか、映像の色味など「らしいな」と思う描写も散見されたのも興味深かった。
荒野をトラックで走る信心深い男と、父親の復讐に燃える同じ名前を持つ男の不思議な邂逅を描く作品だが、ひなたぼっこをしているうちについまどろんで見てしまった白昼夢のような趣だ。二人の男のどちらが現実でどちらが幻想なのか、はてまたどちらが前世の出来事でどちらが現在なのか・・・など境界が曖昧で、見る側は翻弄される。最も印象的なのが大音量で流れる「オー・ソレ・ミオ」。この曲が劇中に2度使われているが、冒頭はチベット語、終盤はイタリア語の歌詞であることがどうも引っかかる。この歌はイタリアの歌曲だから、オリジナルのイタリア語で歌われるときに流れる映像が、実際の出来事なのかな・・・と解釈してみたのだけど、鑑賞した人とあれこれ話したくなる作品だ。


▼第19回東京フィルメックス▼

【期間】2017年11月17日(土)〜11月25日(日)
【メイン会場】有楽町朝日ホール(有楽町マリオン)11/18(日)〜11/25(日)
【オープニング/レイトショー会場】TOHOシネマズ 日比谷11/17(土)〜11/25(日) 
【特別上映会場】有楽町スバル座 (11/17(土),11/18(日)のみ)
【併催事業:人材育成ワークショップ】
11/19(月)〜11/24(土) 有楽町朝日スクエアB
主催:特定非営利活動法人東京フィルメックス実行委員会
共催:朝日新聞社
公式サイト: https://filmex.jp/2018/

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