【TIFF】ホワイト・クロウ(原題)(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

作品紹介

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史上最高のダンサーのひとり、ルドルフ・ヌレエフの半生をレイフ・ファインズが映画化。型破りの技術と性格を持つ彼のキャリア開花と、ソ連からの亡命劇をスリリングに描き、現役ダンサーであるアレグ・イヴェンコが見事に天才ダンサーを再現している

クロスレビュー

富田優子/ダンスシーンや亡命シーンの見応え度:★★★★★

ヌレエフが西側へ亡命することは周知の事実なので、映画の結末は承知しているにも関わらず、彼がソ連からの亡命を決断し、行動を起こす描写はスリリングで手に汗を握った。ファインズ監督は記者会見でヌレエフを演じる資質として“演技とダンスが両方できる人”を探していたというが、イヴェンコは監督の期待に十分応えての熱演。ダンスシーンは圧巻だし、周囲への苛立ちや自由の渇望を体全体から発している。作品全体に品格があり、ジェリコやレンブラントの絵画も示唆的で(実際にルーヴルやエルミタージュでロケを敢行したとのこと)、監督の知性を感じさせるが、127分はやや長いか。ただ、個人的にはラファエル・ペルソナルイス・ホフマンという過去にインタビューさせてもらった俳優が出演しているのもポイントが高く、★1つはおまけ。さらに★もう1つ分として、来日してくれたファインズ監督に。

藤澤貞彦/自由への飛翔度:★★★☆☆

「ローズバッド」という謎の言葉が、新聞王ケーンの幼い日々の思いを表す言葉であったように、この作品では亡命後スーツケースに残された機関車のおもちゃが、ニジンスキーの再来とも言われたバレエ・ダンサー、ルドルフ・ヌレエフの原点を語るモチーフとなっている。貧しかった幼いころ、母と見た蒸気機関車、ここから抜け出してどこか遠くの世界に行ってみたいという思い。パリに留まらず、英国に渡りマーゴ・フォンテインと黄金時代を築くも、そこに留まることを知らず、常に流浪し続けたその後のヌレエフの生涯を思えば、機関車というモチーフは、とても重要な意味を持ってくる。数々の映画で繰り返し描かれ、今では懐かしい感じさえしてしまう亡命シーンをクライマックスに、すべてがそこに向かって動いていくのだが、彼の人生を考えるとき、そこに特別な意味が感じられる。ヌレエフが大きな弧を描き連続して空中を回転すると、まるで空に舞い上がっていくのではないかいう感じを受けるのは、彼の自由な気風がダンスに反映されているのではないかという心持がした。



第31回東京国際映画祭
会期:平成30年10月25日(木)~11月3日(土・祝)
会場:六本木ヒルズ、EXシアター六本木(港区) ほか都内の各劇場および施設・ホールを使用
公式サイト:https://2018.tiff-jp.net/ja/

レイフ・ファインズ監督(右)とプロデューサーのガブリエル・タナ(2018年10月27日の記者会見より)

 

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  1. ここなつ映画レビュー

    「ホワイト・クロウ」第31回東京国際映画祭

    コンペティション作品。イギリス映画。イギリス映画ではあるが、ロシア人ダンサーやコーチ達はほぼロシア語の所に監督のレイ・ファインズの熱量を感じる。私はこの作品、結構面白かった。天才バレエダンサー、ルドルフ・ヌレエフの半生を描いた作品なのであるが、まあよくある伝記物という感じのレベルだとして観ていたら…。もちろん「よくある伝記物」としてもそのジャンル中でもなかなか面白い。ルドルフ・ヌレエフの天才が故の孤独や無鉄砲にも思えるプライドなどが非常に上手く描かれていた。で、なかなかいいじゃん、と思っていたら、ラ…

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