『黒いスーツを着た男』ラファエル・ペルソナ&カトリーヌ・コルシニ監督インタビュー
このたび、本作でアルを演じたラファエル・ペルソナとカトリーヌ・コルシニ監督が揃って来日。本国フランスで“アラン・ドロンの再来”と絶賛され、次世代のフランス映画界を担う逸材として熱視線を浴びるラファエルと、フランス映画界きっての実力派として知られるコルシニ監督のインタビューをお伝えする。
――まず、ラファエルさんにお聞きしますが、本作の主役に決まったときの気持ちを教えて下さい。
ラファエル・ペルソナ(以下ラファエル):最初に脚本を読んだとき、主人公のアルが様々な心の動揺を経験する点にとても感銘を覚えました。さらに被害者側の視点、加害者側の視点が丁寧に組み込まれているのも見事でした。そして人間の良心の問題などの様々な葛藤を経たアルが、最終的には自分で判断した道に進むことに魅力を感じたんです。そんな役に抜擢してもらって、本当にやりがいがあると思いました。
――コルシニ監督が本作でラファエルさんを起用した理由は何でしょう?
ラファエル:あはは!それはもう、僕が安上がりだからだよ。
カトリーヌ・コルシニ監督(以下コルシニ):本作では若手俳優を起用しようと考えていて、候補の俳優を何人か見てきましたが、そのなかでラファエルがベストでした。というのは、彼が役柄に合っているだけではなく、その外見から内面的部分が滲み出るという点に、アル役にふさわしいと思いました。彼なら非常に質の高い演技をしてくれると確信したんです。
――コルシニ監督の作品では、クリスティン・スコット・トーマスさん主演の『旅立ち』(DVDタイトル『熟れた本能』)が個人的には好きです。監督は女性の内面の葛藤を描くのが上手だという印象があります。ですが、今回は男性を主人公にしたのはなぜですか?
コルシニ:まるで女性のカタログができるんじゃないかというくらい、これまで様々な女性像を描いてきました。ですが、(女性映画ばかり撮るというような)決まったレッテルを貼られたくないという思いがありました。ですので、本作では男性を軸とした物語、しかもミステリーやサスペンスのテイストで撮ってみたかったのです。『旅立ち』のクリスティンさんはカメラが吸い寄せられるような美しさで、カメラマンからも愛される女優でした。ですが、今回は男性が主人公なので、これまでよりアングルを広げて捉えて、特にラファエルの場合は、全体の姿ではなく、彼の顔に浮かぶ様々な表情を探っていこうという撮り方をしてみました。そのことも私の新たな挑戦でした。
――アルは心ならずも罪を犯し、嘘に嘘を重ねてしまい様々な苦悩を抱える役柄でした。役づくりをするうえで注意されたことはありましたか?
ラファエル:撮影期間は2か月でしたが、あらかじめ「こうしよう」という決まった答えはなく、常に探りながら役づくりをしました。カトリーヌ・コルシニ監督の指導もあり、心の均衡を次第に崩していく複雑な人物を演じられました。目標としたのは、よりリアルな人間像でした。インテリっぽい捉え方ではなく、だからと言ってエモーショナルに偏りすぎずに演じることに注意しました。
コルシニ:私は俳優(の役づくり)に対して、「絶対にこうしなくてはダメ!」というような、高圧的な指示をあれこれと与えたくはないんです。もちろん必要な指導はするけれど、最終的には俳優が自分なりに考えて、良い演技をすると信じています。私自身が俳優を信頼することが大切だと考えています。
――ちなみに監督とラファエルさんは、お互いにどういう印象をお持ちですか?
ラファエル:それは厳しい質問だなあ。結婚しなくてはいけなくなってしまいそうですよね(苦笑)。
コルシニ:とても重要な役柄を演じてもらったことで、ラファエルとは親密な関係になりました(笑)。編集の段階で1カット1カット、ラファエルの声や唇の動きまでじっくりと見て、改めて素晴らしい俳優だと確信しましたが、今後、別の作品で今回とは違った役柄で一緒に仕事がしたいですね。彼なら今回とはガラリと変わった役もできると思います。
ラファエル:本当のことを言うと、僕は最初、監督が怖かったんですよ。ダメ出しも多かったし、一切の譲歩もありませんでした。できることなら、監督の視線から逃れたいと思っていたくらいです。ただ仕事をしていくうちに、まさに監督の視線によって俳優として成長させてもらったことが実感できるようになりました。監督に信頼されていることも分かったし、厳しく指導されたことで傷つくこともありましたが(笑)、本当に感謝しています。
(後記)コルシニ監督は過去のフランス映画祭で来日されていることもあり、東京で行きたい場所がたくさんあるということだった。初来日のラファエルを深夜、カラオケに連れ出すなど、東京滞在を満喫されたよう。一方のラファエルは「深夜のトーキョーは面白い発見があり、楽しかった」との弁。インタビュー中も常に監督を立て、謙虚な人柄が感じられたが、「ちょっと疲れたけど」と思わず本音(?)も飛び出した。 また、当方からの質問にところどころツッコミも入れるなど、映画での苦悩による憂いの表情から一転、お茶目な一面も見せてくれた。
〈プロフィール〉
ラファエル・ペルソナ Raphaël Personnaz
1981年7月23日、フランス トゥールーズ生まれ、その後パリで育つ。テレビを中心に活動していたが、ピエール=オリヴィエ・スコット監督「Le Roman de Lulu」(00)を皮切りに映画界にも活動の場を広げ、ジュリー・ガヴラス監督『ぜんぶ、フィデルのせい』(06)などで次第に注目を集めるようになる。ベルトラン・タヴェルニエ監督「La Princesse de Montpensier」(10)で主役アンジュー公に抜擢され、高い評価を得る。その後、『スペシャル・フォース』(11)でダイアン・クルーガーと共演、本作『黒いスーツを着た男』の後には『アンナ・カレーニナ』(12)に出演。今年は6本の主演作がフランスで公開予定。
カトリーヌ・コルシニ Catherine Corsini
1956年5月18日フランス北部ドルー生まれ。女優志望だったが、IDHEC(国立映画専門学校。現FEMIS)に通う友人の影響を受け、監督を目指すようになる。18歳のときにパリに出、パリ第3大学に入学。その後、アントワーヌ・ヴィテーズが主宰する演技コースで演技を学ぶが、次第に脚本を手掛けるようになり、短編作品を数本制作した後、処女長編作『魅了されたミニマリストの破綻』(88)を発表。カリン・ヴィヤールをヒロインに迎えた『ヌーヴェル・イヴ』(98)が、新たな女性像を提示する作品として高い評価を得る。さらにエマニュエル・ベアール主演『彼女たちの時間』(00)、クリスティン・スコット・トーマス主演『旅立ち』(09)など、これまで女性を主人公にした作品を数多く発表。
▼作品情報▼
原題:Trois Mondes
監督・脚本:カトリーヌ・コルシニ
出演:ラファエル・ペルソナ、クロチルド・エム、アルタ・ドブロシ、レダ・カテブ
製作:2012/フランス=モルダヴィア/フランス語/101分/
配給:セテラ・インターナショナル
公式サイト:http://www.cetera.co.jp/kurosuits/
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8月31日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷他全国順次公開