『ヒトラーの忘れもの』ルイス・ホフマンさん
昨年の東京国際映画祭(TIFF)で最優秀男優賞を受賞した『地雷と少年兵』が『ヒトラーの忘れもの』のタイトルで12月17日より公開される。本作は第2次世界大戦終戦直後、デンマークの海岸線にナチスによって埋められた200万個以上の地雷の処理に、まるで贖罪のようなかたちでドイツの少年兵が従事させられていた事実に基づき、デンマークの新鋭マーチン・サントフリート監督が映画化した。少年兵の半数が死亡もしくは重傷を負ったという残酷な史実がデンマークでも長く知られていなかったことは驚愕で、こうした歴史の暗部を直視したサントフリート監督の覚悟には敬服の思いしかない。
地雷処理を指揮するラスムスン軍曹は母国デンマークを蹂躙したナチスへの憎悪の念で、派遣されてきたセバスチャンやヘルムートら少年兵たちに厳しく当たる。だが、彼らと共に行動するうちに予期せずして新たな気持ちが芽生えたことに戸惑う。わけても軍曹とセバスチャンとの間には、次第に師弟関係とも父子関係とも似た絆が生まれてくる・・・。敵同士とか戦勝国と敗戦国などという枠を超えて、対等な人間同士として互いに流れる感情こそが、殺伐とした現代にも共鳴するものがあることに心を強く揺さぶられる作品だ。
今回、軍曹役ローラン・ムラさんとともにTIFF最優秀男優賞を分かち合った、セバスチャンを演じたルイス・ホフマンさんへのスカイプでのインタビューが実現した。TIFFで本作を見たときから、いや~こりゃ相当なイケメンさんだわ~と感じていたが、それだけではなく実際に取材してみてとてもクレバーな人だという印象を持った。今後の活躍が楽しみな19歳の声をお届けする。
――ルイスさんは昨年のTIFFで見事最優秀男優賞を受賞されましたが、受賞されたことでご自身の気持ちの変化や、周りの人の反応の変化などはありましたか?
ルイス・ホフマン(以下LH):大切な友人であり、素晴らしい俳優であるローランとともに受賞できたことはとても光栄なことでした。彼と栄誉を分かち合えたことは映画のテーマとも通じる点でもあり、喜びもひとしおでした。受賞したことは自分の部屋にいたときにデンマーク側のプロデューサーからの電話で知りました。「賞を獲った?僕が?Tokyoで?」とドイツから遠く離れた東京で受賞できたなんて本当に非現実的なことに思えてしまいました。でもこの作品が日本をはじめ世界中の人の心に響いたことはとても誇らしかったです。ただ残念ですが、ドイツ国内では海外での受賞歴ってあまり関心を寄せてくれないんですよね(笑)。ですが僕にとってはこの受賞は大きな意味があるものだし、今後の自信にも繋がりました。
――今、ルイスさんは人々の心に響いたことが誇らしいとおっしゃいましたが、具体的にどういう点が観客の心に響いたと考えておられますか?
LH:何と言っても映画のなかで描かれた人と人との繋がり合いが最も響いた点だと思います。それと本作は登場人物の行動の裏にある性格や個性、そして人としての本当の姿がしっかり描かれていて、そういうところも観客の心に届いたのだと思います。マーチン(・サントフリート監督)がそれぞれの登場人物の行動と感情に矛盾がないように緻密に描いていることも大きかったですね。
――ルイスさんが本作に出演するに至った経緯を教えてください。
LH:セバスチャン役はオーディションで勝ち取った役ですが、監督はミヒャエル・ハネケ監督の『白いリボン』の子供たちの表情を気に入っていて、ドイツの有名なキャスティング・ディレクターのジモーネ・ベアー(『イングロリアス・バスターズ』等大作映画を一手に担当している)に『白いリボン』のような感じの少年がいいと依頼していたそうです。それでオーディションでは20人くらいの少年が集められました。セバスチャンやヘルムートなど主要な少年兵のキャラクターを演じさせるのに最適なメンバーと組み合わせは誰と誰と誰になるのか・・・という基準で決められました。
――そうすると、セバスチャン役を目指してオーディションを受けたのではなく、自然とセバスチャン役に決まったという流れだったのでしょうか?
LH:脚本を読んだ段階で、最も感情移入できたのはセバスチャンでした。ただヘルムート役もいいなと思っていたのでオーディションでヘルムートを演じるのも楽しみにしていたのですが、監督は僕のことをセバスチャンがいいと思っていたようで、結局ヘルムートを演じる機会はありませんでした。でもセバスチャンの気持ちや行動が一番理解できたし、何よりも監督が映画や役についての明確なビジョンがあり、僕はこの人と絶対に一緒に仕事がしたいと思ったので、この役を頂けたときは最高の気分でした。