【FILMeX】第18回東京フィルメックス授賞式

インドネシアの女性監督2作品が最優秀作品賞同時受賞!

11月25日、有楽町朝日ホールで第18回東京フィルメックスの授賞式が行われ、コンペティション部門の各賞及びその他の賞が発表された。原一男審査員長の「観客の皆さんも今回のラインナップを審査するつもりで観てほしい」という異例の提案から始まった今年の映画祭は、インドネシアの女性監督『殺人者マルリナ』『見えるもの、見えざるもの』2作品が同時に最優秀作品賞を受賞し、またコンペ部門のすべての作品に、審査員のコメントが出されるなど、異例づくし。観客賞も原一男監督の『ニッポン国VS泉南石綿(いしわた)村』が受賞した。授賞式の最後には、原一男審査員長からの総評があったが、観客への問題提起という形で締め括られ、原一男イズムに溢れた授賞式となった。

総評:原一男審査員長

原一男審査委長

原一男審査員長

「作家を育てるのは映画祭です。でも敢えて言うなら観客が映画作家を育てます。観客の映画を読み取る能力が低いと、作家は育ちません。ドキュメンタリーの世界で言いますが、日本映画でドキュメンタリーは沢山作られていますが、映画館に観に行くと、ガックリしています。でもそういう映画が良いという観客の声が沢山あります。今の観客が求める映画のレベルがちっとも高くないんじゃないかって、危機感を持っています。映画を読み取る能力が低いということは、国民の生きる力、センス、価値観が全部劣っているということを意味します。映画だけのことじゃないんです。日本人として生きている我々自身の能力、センス、パワーが劣化しているから映画にもそれが現れていると思うんです。私は昭和20年生まれ、防空壕の中で生まれました。今、戦後民主主義の危機です。その中で自分はどう生きるかということを、映画と向き合いながら自分自身の生き方を探っていく。そういうアジテーションを皆さんにプレゼントしたいと思います」

受賞結果

【最優秀作品賞】 
『殺人者マルリナ』 Marlina the Murderer in Four Acts
(モーリー・スリヤ監督/インドネシア、フランス、マレーシア、タイ/2017年/95分)
クロスレビュー
『見えるもの、見えざるもの』 The Seen and Unseen
(カミラ・アンディニ監督/インドネシア、オランダ、オーストラリア、カタール/2017年/86分)
クロスレビュー

【観客賞】
『ニッポン国VS泉南石綿(いしわた)村』  Sennan Asbestos Disaster
(原一男監督/日本/2017/215分)

【学生審査員賞】
『泳ぎすぎた夜』 The Night I Swam
(ダミアン・マニヴェル、五十嵐耕平監督/日本、フランス/2017年/79分)

【タレンツ・トーキョー・アワード2017】
『I wish I could HIBERNATE』 (ゾルジャーガル・ピュレヴダッシュ/モンゴル)

【スペシャル・メンション】
『Doi Boy』 (スパッチャ・ティプセナ/タイ)

授賞理由と受賞者のコメント

【最優秀作品賞】

『殺人者マルリナ』 Marlina the Murderer in Four Acts

授賞理由

「マカロニウエスタンの音楽に乗ってヒロインは戦う
敵は男 そして男性社会
今こそ復讐せよ 破壊せよ 強姦などに打ちひしがれる哀れな女を演じるのは、もうやめよう
女性自らが、新しい女性像を作ること 肉体的にも精神的にも、タフな、女性像を。
エンターテイメント型アクション映画に込められたメッセージ。 闘うヒロイン像を作り出した、イキのいい痛快な傑作の誕生です」
(原一男審査員長より発表、授与)

モーリー・スリヤ監督受賞コメント

モーリー・スリヤ

モーリー・スリヤ監督

「大変光栄に思っております。思い起こせば7年前、タレンツトーキョーに参加しました。その時まさかこの場に立って受賞するなどとは思いも寄りませんでした。感謝に言葉もありません。さらに光栄なのは、今回この場にいるのが、カミラだということです。大変美しい映画を制作されて、私も大好きな映画です。もうひとつ嬉しい理由は、フィルメックスのコンペティションにインドネシアの映画が初めて出品されたということだと思うのです。それでインドネシア映画2本が最優秀賞を取ることができた。そのことを大変誇りに思っております」

『見えるもの、見えざるもの』 The Seen and Unseen

授賞理由

授与2「双子としてこの世に生を受けた姉と弟
ほとんど同時に命を受けながら弟は死へ
姉は生の方へと双子は別離を強いられる
理不尽とも言える命のありよう
最後の別れを前に、命を慈しむように、姉は弟をダンスに誘う
伝統と現代 現実とファンタジー
光りと影 昼と夜
過去の記憶と一瞬の現在
それらの混在こそが地上のパラダイス
新しくて懐かしさに満ちた傑作です」
(原一男審査員長より発表、授与)

カミラ・アンディニ

カミラ・アンディニ監督

カミラ・アンディニ監督受賞コメント

「本当に信じられない気持ちでいっぱいです。今回最優秀作品賞を2作品選ぶという、勇敢な決断をしていただきまして、東京フィルメックス、審査員の皆様方に、心から御礼を申し上げます。インドネシアの映画監督として大変誇りに思います。今回2本ともインドネシアの監督の作品ということでありますけれども、我々2人は映画を作るアプローチというのは全く違っておりました。これはインドネシア映画の多様性をある意味、この場で表現することができたのではないかと思っております。今回受賞したことでさらに後押しを得たという気持ちでいっぱいです。これからもどんどん良い映画作品を作っていきたいと思います」

【観客賞】

『ニッポン国VS泉南石綿(いしわた)村』Sennan Asbestos Disaster

原一男監督受賞コメント

観客賞「皆さん驚いてらっしゃる?私、審査員です。泉南の映画と並行して、水俣病の映画をずっと撮影しています。泉南は撮影に8年、編集に2年かかりました。水俣病の撮影を始めて12年です。未だに形にならないんです。水俣病60年経っても未だに問題が解決していないんです。むしろもっと混迷を深めている。水俣病はかつて市民運動の頂点にあった。しかし、その熱量は、水俣に行くと分かるのですが、そのかけらもありません。つまり映画にしにくいということなのです。だから私は、泉南以上に水俣というのは難しいのだなと日々思っています。『泉南』今日上映がありました。Q&Aの時に、この作品が面白いのかどうか自信が持てないんですよと、自分の気持ちを正直に答えました。山形でも観客賞を貰ったのですが、上映が終わった後、ニコニコ笑って私のほうへ寄ってきて「良かったです」って言ってくれる観客が何人もいたんですよ。それがすごく嬉しかった。それでも時間がたつと段々不安になるでしょ。で、観客賞というのはこれで2度目です。だから自信もっていいんだなって、自分自身今、素直に喜べているって感じがします。本当に心底嬉しくて、『水俣』も頑張ろうって、いま素直にそういう気持ちになっています。1年後に完成させるんだって今自分に言い聞かせています。みなさんありがとうございました」

【学生審査員賞】

『泳ぎすぎた夜』 The Night I Swam

ダミアン・マニヴェル

ダミアン・マニヴェル監督

授賞理由

「孤独や家族を複雑に描こうとする作品が多い中で、『泳ぎすぎた夜』はシンプルに見える映画だからこそ、一人の小さな子供のたった一夜から、私たちにまっすぐに届けられたように思います。それはとても希望に溢れたことで、同じ作り手としても羨ましく思いました。
私たちはタカラくんを通して、私たちが忘れてはいけないのに忘れてしまった感覚を思い出しました。20年程しか生きていないのに勝手に大人ぶっていることを思い知らされ、恥ずかしくも感じました。けれど、それは同時に私たちがここまで成長したことも確かなことなのだと小さなタカラくんに教わりました」
(鈴木ゆり子学生審査員(国際基督教大学)より発表、授与)

ダミアン・マニヴェル監督受賞コメント

「フィルメックスありがとうございます。学生審査員賞は本当に大切と思う。そのコメントもとても素晴らしいと思う。私たちはすごく嬉しい」(日本語でも挨拶)

五十嵐耕平

五十嵐耕平監督

五十嵐耕平監督受賞コメント

「フィルメックスの皆さん、弘前の皆さん本当にありがとうございます。若い世代の方にこの映画を届けられたというのは、すごく誇りに思います。この作品は出会いについての映画だと思います。僕とダニエル、弘前とタカラ君との出会い。この映画自体はフィクションなのですけれども、タカラ君たち、弘前の現実と出会って、初めて映画を立ち上げられたんです。そしてこの映画を観た観客の皆さんにも、この映画と出会い、そしてその関係を育んでいってもらえたら僕も嬉しいです」

【タレンツ・トーキョー・アワード2017】

『I wish I could HIBERNATE』

ゾルジャーガル・ピュレヴダッシュさん受賞コメント

ゾルジャーガル・ピュレヴダッシュ

ゾルジャーガル・ピュレヴダッシュさん

「受賞して本当に嬉しいです。今ウランバートルでは大気汚染が非常に問題になっています。問題の解決には、モンゴルの人たちがお互いのことを理解することが一番必要なことだと思っています。これはそのためのテーマです。ここに来て、素敵な人たちと出会ってエキスパートの人たちからも色々学んで、励みと刺激をもらいました」

タレンツ・トーキョー2017

タレンツ・トーキョー2017


※「タレンツ・トーキョー」は、映画監督やプロデューサーを目指すアジアからの参加者に、世界で活躍するためのノウハウや国際的なネットワーク構築の機会を提供する事業で、世界的に実績のある「ベルリン国際映画祭」と提携して実施しています。






▼第18回東京フィルメックス▼
期間:2017年11月18日(土)〜11月26日(日)
場所:有楽町朝日ホール・TOHOシネマズ日劇
公式サイト: http://filmex.net/2017

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