【FILMeX】殺人者マルリナ(コンペティション)
【作品紹介】
インドネシアの僻村。強盗団に襲われ、彼らを殺害したマルリナは、自らの正当性を証明するため、はるか離れた町の警察署に向かうが…。西部劇を彷彿とさせる風景を舞台に、ガリン・ヌグロホの原案を新鋭モーリー・スリヤが映画化。カンヌ映画祭監督週間で上映。(東京フィルメックス公式サイトより)
【クロスレビュー】
外山香織/「ユディト」を想起させる度:★★★★★
マルリナが斬首した男の生首を持ち運ぶ姿は、旧約聖書外典に登場する「ホロフェルネスとユディト」を彷彿とさせる。アッシリアの攻撃を防ぐため、将軍の寝首をかいたユダヤの女傑のエピソードで、カラヴァッジオやクラーナハなど多くの画家たちが斬首シーンあるいは首を持つユディトをテーマに描いた。マルリナは暴行の被害者であり結果的に男の首を切るはめになるわけだが、その後の果敢な行動も女傑と呼ぶにふさわしい。インドネシアではイスラム教徒が大半だそうだが、どうもこのネタが本作の下敷きにあるような気がしてならない(ちなみにユディトもマルリナも夫を亡くしている)。本作に登場する男は悉くダメンズで、警察すらあてにならず、ユディトの場合と異なり彼女の行為を称賛する者はいない。しかし彼女は誰に称えられずとも孤高に逞しく生きていくだろう。部屋に置かれているミイラの夫のみがすべてを知っている、いわば神のような存在なのかもしれない。
富田優子/斬首シーンがこの上なく痛快度:★★★★★
レイプされた女性が間違いなく被害者なのに、なぜか被害者のほうが悪者扱いされるロジックは、古今東西共通なのか・・・。本作での被害者マルリナは、自分を襲った男たちを殺害し、一人の男の首を切り落とす。その首を引っ提げて、自身の正当防衛を主張するために警察へ向かう物語だが、彼女の静かな怒りとインドネシアらしからぬ荒涼とした、乾いた風景がマッチしており、その映像美は本作の見どころだ。
殺人そのものを肯定するわけではないが、マルリナが刀ですぱーっと男を斬首する様は、笑ってしまうほど痛快に感じた。監督が女性だと知り、納得。男の女性に対する理不尽な仕打ちは、恐らく多くの女性たちが何らかのかたちで経験していることだろう。強靭な心を持ち、不幸な現実に立ち向かうマルリナは、女性の代弁者でもある。そんな監督のメッセージが伝わる快作だ。祝グランプリ!
▼第18回東京フィルメックス▼
期間:2017年11月18日(土)〜11月26日(日)
場所:有楽町朝日ホール・TOHOシネマズ日劇
公式サイト: http://filmex.net/2017