【FILMeX】タクシー(特別招待作品)
【作品解説】
公式には映画製作活動をいまだに禁止されているジャファル・パナヒの最新作。テヘランの街を走るタクシー運転手に扮したパナヒと乗客たちの会話から、現在のテヘランに生きる人々の様々な姿が照射される。今年のベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞した。
(東京フィルメックス公式サイトより)
【クロスレビュー】
藤澤貞彦/「これはもう映画である」度:★★★★★
ジャファル・パナヒ監督が、映画製作を禁止されてから3本目、イランの政権が交代してから最初の映画である。イランとアメリカが和平に向かっていることもあるのか、前2作にあった悲壮感がこの作品からは消えている。「どうせ脚本もあるし、今の人女優さんでしょ」と、タクシーに乗ってきたお客にネタバレさせ、それを笑いにするほどの余裕さえある。子供が映画に登場するのも久しぶり(賢く可愛らしい監督の本物の姪っ子)だ。完全にコメディである。それぞれのエピソードにオチがあり、まるで小噺のようだが、笑いの中に恐らく本当の話を織り交ぜているところがミソ。社会風刺がより積極的に出され「映画ではない」シリーズ?3本目にして、傑作が誕生した。
富田優子/パナヒ監督の笑顔に今後の期待が膨らむ度:★★★★☆
『これは映画ではない』『閉ざされたカーテン』では、パナヒ監督が時のアフマディネジャド政権により映画製作活動を禁止されたことへの切迫感が漂っていた。その暗さから、もしかして彼の身に何か危険が及ぶのではないか・・・と心配したものだ。しかし『閉ざされた~』から2年。それらに比べると本作では精神的余裕を感じさせる。もちろんイラン社会を痛切に批判する彼の反骨精神は相変わらずだが、乗り合いのタクシーに次から次へと乗り降りしていく客との会話は、黒澤明やキム・ギドクまで笑いのネタにしてしまうというしなやかさがある。言論の検閲に対する風刺のオチもユーモラスだし、何よりもタクシーを運転しているパナヒ監督自身が笑顔であることにほっとさせられた。やはり政権が変わったことも影響しているのだろうか、今後の彼の動向から目が離せない。否応にも期待が膨らむ。
▼第16回東京フィルメックス▼
期間:2015年11月21日(土)〜11月29日(日)
場所:有楽町朝日ホール・TOHOシネマズ日劇・有楽町スバル座
公式サイト:http://filmex.net/2015/