『チャップリンからの贈りもの』グザヴィエ・ボーヴォワ監督インタビュー
1977年に亡くなった不世出の喜劇王チャールズ・チャップリンだが、その翌年、スイス・レマン湖畔の墓地から棺ごと“誘拐”されたという前代未聞の事件が起きた。このにわかに信じがたい実話を、『神々と男たち』(10)で高い評価を得たグザヴィエ・ボーヴォワ監督がチャップリンの遺族の全面協力を得て映画化したのが、『チャップリンからの贈りもの』だ。日々の生活に困窮し犯行を企てた二人組、エディ(ブノワ・ポールヴールド)とオスマン(ロジュディ・ゼム)は身代金をせしめようと墓地からチャップリンを“誘拐”したものの、いかんせん犯罪に関して素人ゆえ犯行計画はすぐに破綻。追いつめられた二人だが、さあ一体どうなるのか・・・!?
エディとオスマンのマヌケぶりは苦笑ものだが、彼らが罪を犯すのは自分の欲というより、家族のためであり、親友のため。チャップリン作品にも通底する弱者への温かい目線と愛あふれるオマージュに胸が高鳴る。そして映画音楽の巨匠ミシェル・ルグランによる『ライムライト』(52)などの名曲のアレンジは必聴だ。
誘拐事件と聞くとサスペンスを連想しがちだが、本作が高品質のハートフルコメディに仕上がったのはボーヴォワ監督の手腕によるところが大きい。先月のフランス映画祭のために初来日したボーヴォワ監督にお話を伺った。
――本作は1978年に起きたチャップリンの遺体誘拐事件を基にした作品ですが、ボーヴォワ監督はこの事件を映画化するうえでどのあたりを大事にされたのでしょうか?
グザヴィエ・ボーヴォワ監督(以下XB):この映画は刑事ものではないけれど、刑事事件のように現場検証などを徹底しました。ですが本作で一番重要だったのは、チャップリンの屋敷や机、墓地がすべて本物だということです。つまりあのチャップリンの屋敷で撮影できて、彼が使っていた机や彼が眠る墓地も撮影に使わせてもらい、終盤の裁判所のシーンも、あそこは実際の事件の犯人が裁かれた場所だったのですが、そこでロケすることができました。事実関係よりも場所やディテールにこだわったんです。反対に、サーカス団と犯人の関わりは実際にはなかったし、犯人の国籍(※)も変更しました。(犯人の一人の)オスマンには病気の妻と小さな娘がいる設定ですが、これも映画オリジナルです。
(※)実際の犯人は東欧出身者
――チャップリンの本物の屋敷や墓地での撮影は、監督にとっても稀有な経験だったのではないでしょうか。
XB:特に墓地での撮影許可が出るとは思っていませんでした。ありがたいことにチャップリンの本物のお墓から10mくらい離れたところで撮影できました。許可前はどうやって墓地をセットでつくるか悩んでいました。例えばお墓そのものだけではなく、周りの木々も植えなくてはなりません。昔からあるお墓だとそれなりに年月を感じさせるものがあるので、墓標は何とかなるにしても、木のフォルムや樹齢がそれにふさわしいものを準備するのは大変だと思いました。でも思いがけず許可を頂けたので、誰よりもまず僕自身が一番驚きました。撮影していると、“彼”が僕の後ろでモニターを覗きこんでいたんじゃないかとも思えました。休憩時に皆が引き上げて僕だけ墓地に残って、次はどんなアングルで撮ろうかなと考えることもあったのですが、夕方一人で墓地にいるのは何というか、かなり“深い”経験だったと思います。
――主演の犯人役の二人組、ブノワ・ポールヴールドさんとロシュディ・ゼムさんのキャスティングの理由について教えて下さい。
XB:二人のうち、最初にキャスティングしたのはオスマン役のロシュディのほうでした。彼は僕の監督作品(『N‘oublie pas que tu vas mourir』(95))にも出てもらったことがあるので、また仕事をしたいと思っていました。ロシュディの出演が決まり、さて次はエディ役ですが、エディには(ロジュディ演じる)オスマンに対して正反対の性格の人をキャスティングしたかったのです。つまりエディとオスマンが補完し合うようにしたかった。一人が動、もう一人は静という感じにね。
そんなわけでブノワが決まったのですが、実は僕はずっと前から彼と一緒に仕事をしてみたいと思っていたのです。ただブノワにふさわしい作品をつくる予定がなかったので、ずっと保留状態だったのですが、今回ようやく実現できました。
ブノワとロシュディは、映画のエディとオスマンのようにまったく異なる性格でした。マイクロバスの楽屋では、ロシュディは昼寝、ブノワは音楽をかけて踊りまくっていました。ロシュディはスポーツもよくやって、お酒もタバコもダメという健康的なタイプですが、ブノワは(お酒もタバコも)やりたい放題という感じで、本当に正反対の二人でしたね。
――監督の心に残っている、撮影時のエピソードは何かありますか?
XB:撮影がすべて終わって編集中に気づいたのですが、夜の撮影中、ブノワが一生懸命地面を掘っていたように見えていたんですが、実際には彼は掘る真似をしていただけで、実際は15グラムくらいしか掘っていなかったんです。ほとんどの作業はロシュディがやっていたということです。ブノワは手抜き、ロシュディは生真面目ということがよく分かりましたね。この二人、本当に正反対だったんだなと改めて思いました。
――ボーヴォワ監督ご自身のことについて伺いたいのですが、どうして映画監督になろうと思われたのでしょうか?
XB:僕は子供時代、裕福ではない環境で育ちました。映画を観ると、実生活を忘れさせてくれて現実逃避できたんです。高校生のときは毎週映画を観ていました。でも映画ってスターのための仕事だとずっと思っていたんです。でもあるとき、クレジットを眺めていたらキャストの後にスタッフの名前が百人くらい流れていて、スターだけではなく仕事をしている人もたくさんいるんだ、だったら僕もこの百人のなかの一人くらいにならなれるかも・・・と思ったのがきっかけです。
高校での進路指導では、先生は大抵「そんなことできない、ムリ」と言います。フランスの教育制度で一番悪いのは進路指導ですよ。とにかくあれは生徒のやる気をなくすシステムですね。例えば弁護士になりたいと言っても「ムリ」と断言されて、やる気に水を差されます。17歳の頃だったかな、僕も先生に「映画監督になりたい」と言ったら、多くの人にからわれました。でもこうして、本当に監督になったら誰も何も言わなくなりましたが。
とにかくやってみることが大事なんです。それがダメだったとしても後悔しないと思います。この映画でも音楽をミシェル・ルグランにイチかバチかで頼んでみたら引き受けて下さった。それはトライした結果であって、このトライがなかったらルグランの音楽を映画につけることができなかったわけです。(『ノートルダムの鐘』の)カジモドみたいな醜男がイタリアのスーパーモデルに声をかけてみるというのは無謀な挑戦かもしれないけれど、やってみなくちゃ分からないということですよね。
――ボーヴォワ監督は監督業で素晴らしい実績を残されている一方で、『マリー・アントワネットに別れをつげて』(12)のルイ16世役などのように俳優としても活躍されています。監督業と俳優業のどちらに重きを置いて活動されたい等のビジョンはあるのですか?また、双方の違いをどのように考えておられますか?
XB:僕は監督は画家、俳優はモデルと捉えています。俳優と監督の決定的な違いは、俳優の仕事は自分で決められない、監督に選んでもらわなければならないことだと思います。俳優のいちばん辛いことは、1時間演技をするために7時間待っていなければならいことです。7時間待つのは苦痛ではない俳優もいますが、僕は苦手なんです。監督ならば監督として何らかの作業をしていられるけれど、俳優は演技に集中してまた自分に戻って、また他人になって演技をして・・・の繰り返しで消耗します。だから監督業のほうが好きですね。
――そうすると、俳優業のほうにはあまり魅力を感じておられないのでしょうか?
XB:ただ『マリー・アントワネットに~』でのルイ16世役は役得というか、国王用の衣装をオーダーメイドで用意してもらいました。扉が開いて衣装を着た僕が入ると、ヴェルサイユ宮殿の鏡の間で300人くらいのエキストラが“ははーっ”と控えているわけで、そういう経験は実生活ではできないので面白かったです。ヴェルサイユには大勢の観光客がいたのですが、何せ僕は王の格好をしていたので、皆さん写真を撮りたがって。ある子は僕を見て目を輝かせているので、「学校でしっかり勉強したらこんな家(ヴェルサイユ)が買えるよ」と言ってやりました。トイレでも観光客と一緒になったけれど、その人が横を見たら僕が今まさに用を足すところだったので、びっくりされたこともありましたね(※ボーヴォワ監督の実演つき、ただしズボンのチャックは下げていません)。
フランス語の“Jeu”には役を演じるという意味と子供が遊ぶという意味があります。役を演じることもある種子供が遊んでいるのと共通しているのかなと感じることもあります。蒸気機関車を動かしてみたり、警官役のときは制服姿で警察手帳を持って他人を驚かすこともできるし。そういう点では俳優も遊び心がくすぐられるし、面白いと言えますけどね。
<後記>
『マリー・アントワネットに~』のブノワ・ジャコー監督にインタビューした際に、ボーヴォワ監督がいかにしてルイ16世役をゲットしたのかを聞いていたこともあり、勝手に親近感を抱いていたが(参考記事はこちら)、話し出すと止まらず、フランスの教育問題にまで発展。それはサービス精神旺盛というよりは、質問に真摯に対応しようという姿勢からだったと思う。このインタビューが実施された後、フランス映画祭の壇上でミシェル・ルグランに自ら電話して観客を喜ばせたサプライズも、観客とのQ&Aを大切にしていたからだろう(参考記事はこちら)。ボーヴォワ監督は愛想がめちゃくちゃいいというわけではなかったが、人生は何事も「やってみることが大事」と語り、おまけにおトイレの真似ごとまで披露してくれて、実直でかつかわいいムッシュウだった。クマっぽい風貌も好印象です。
<プロフィール>
グザヴィエ・ボーヴォワ Xavier Beauvois
1967年3月20日、北フランス生まれ。パリに移り映画監督を志す。アンドレ・テシネ、マノエル・ド・オリヴェイラのもとでアシスタントとして働き始める。23歳でデビュー作『Nord』(91)の脚本、監督、出演を務めセザール賞最優秀デビュー賞にノミネートされる。続く『N’oublie pas que tu vas mourir』(95)でカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞し、名誉あるジャン・ヴィゴ賞にも輝いた。『マチューの受難』(00)、『Le Petit lieutenant』(05)はヴェネチア国際映画祭に出品され、『神々と男たち』(10)は第63回カンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリ、セザール賞では作品賞に輝き、世界的評価を得る。俳優としては『ポネット』(96)、『夜風の匂い』(99)、『マリー・アントワネットに別れをつげて』(12)などの出演作がある。
▼作品情報▼
監督:グザヴィエ・ボーヴォワ『神々と男たち』
音楽:ミシェル・ルグラン『シェルブールの雨傘』『ロシュフォールの恋人たち』
出演:ブノワ・ポールヴールド『ココ・アヴァン・シャネル』、ロシュディ・ゼム『あるいは裏切りという名の犬』、キアラ・マストロヤンニ、ピーター・コヨーテ、ナディーン・ラバキー
原題:The Price of Fame
製作:2014年/フランス映画/115分
配給:ギャガ
公式サイト:http://chaplin.gaga.ne.jp/
©Marie-Julie Maille / Why Not Productions
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