ヴァチカン美術館4K3D 天国への入口

絵画の3Dとは……!? 【映画の中のアート #10】

mainみんなのアムステルダム美術館へ』、『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』と、公開が続いていた美術館映画。今回はいよいよヴァチカンです。

私自身は、14年前の2001年に一度訪れたことがあります。「ヴァチカン美術館」と言っても単体の美術館ではなく、ヴァチカンにあるいくつかの美術館の集合体。行けたのはシスティーナ礼拝堂とサン・ピエトロ大聖堂くらいでしたが……。ヴァチカンとほかの美術館との大きな違いって何かと言うと、作品の多くが動かせない、と言うことじゃないかと思っています。つまり、絵画と言っても名だたる作品は「壁画」だったり「天井画」だったりするので、よそに持って行けない。彫刻にしても持ち運びは簡単ではない。観たければ行くしかない。しかも、ヴァチカン美術館って一般に公開されたのは18世紀後半とか。と言うことは、しばらくの間、一般人はミケランジェロ(1475-1564)やラファエロ(1483-1520)の傑作を見ることができなかったわけですよね。教皇のため、教皇庁のために描かれたのだから仕方ないのかもしれないけれど、もったいない……と思ってしまいます。

しかし、だからこそ『ヴァチカン美術館4K3D 天国への入口』は画期的と思います。カメラが入って、それこそ現地に行っても見えないような天井画の細部を間近で堪能することができるのですから。しかも、絵画の3Dってどういうことなんでしょうか!? ホントに浮き出て見えるわけなんですが、もともと二次元のものを3Dにすると言うことは制作者の意図を超えているわけですし、そういう見方が果たして許容されるのかという議論もあるでしょう。でもまあ、芸術家はおそらく後世の人間にどのような見方をされても怒りはしないのではないかと思いますし、美術ファンとしても色々と研究されて新たな発見につながればそれはそれでいいのかな、という気はしています。その意味でも、本作はチャレンジングな作品です。

sub1さて、ではどんな作品が登場するかと言うと、やはりメインとなるのはミケランジェロの描いたシスティーナ礼拝堂の天井画(1508~1512)と祭壇画「最後の審判」(1535~1541)。どちらも当時の教皇から発注を受け、ほぼ独力で仕上げた作品。彫刻家である彼が絵に専念せざるを得なかった心境を思うと切ないですが、実際にこの空間に身を入れると、まず畏敬の念を感じざるを得ません。圧倒的なパワー。例えこの映画であってもナマの経験を得ることはできませんが、疑似体験を得ることは可能だし、私自身、実物を観た時の興奮を思い出しました。

興奮と言えば、ラオコーン群像の3D! トロイアの神官だったラオコーンが二人の息子と共に蛇に殺されようとしている。苦悶の表情、よじらせる身体。世界史の教科書にも載っているこの古代彫刻は、紀元50年ごろに作られ、1506年にローマから出土しました。特にミケランジェロに大きな影響を与えたとされていますが、見た人は誰しも、そのダイナミズムに圧倒されるでしょう。この作品が発見されなかったら、後世の芸術はもっと違うものになっていたのではと身震いします。

他にも、映画にはラファエロやカラヴァッジオなどの作品が登場。教皇の強大な力があったがゆえに成し遂げられた作品とコレクション。近年では、ゴッホ、シャガール、ダリなど近現代の美術作品も収集し一般に公開しています。このたびもヴァチカンがよくこの撮影を許可したと思いますが、「教皇のためのもの」から信徒へ、そして世界中の人々へというヴァチカンの寛容さ、懐の深さも感じますね。

さて、これまで3本の美術館映画を観てきましたが、本作では芸術家や作品の解説も加えられているのが、他の2作品にはない特徴と言えます。主役は芸術家と彼らの作品。そして、もう一つの主役は美術館と言う「場」だと感じさせられます。4K3Dカメラによる撮影という新たな手法で、美術館に行かなくても体感できることは確かに素晴らしい。しかし、だからこそ、その「場」にいること、行くことの貴重さも痛感します。映画館も美術館もただのハコではないから。そこにしかない空気を感じて、そこに居合わせた人々と思いを共有して。美術館映画とは、観た後に実際に行きたくなる、そんなジャンルだと思います。

▼作品情報▼
『ヴァチカン美術館4K3D 天国への入口』(英語題:Vatican Museums)
2013年/イタリア/66分/デジタル3D上映/カラー
監督:マルコ・ピアニジャーニ
監修:アントニオ・パオルッチ(ヴァチカン美術館館長)
出演:アントニオ・パオルッチ、パオロ・カシラギ
日本語版ナレーション:石丸謙二郎(『世界の車窓から』)
配給:コムストック・グループ 配給協力:クロックワークス
© direzione dei muse i – governatorato s.c.v
2015年2月28日[土]よりシネスイッチ銀座ほかにて公開 全国順次ロードショー
公式サイト:http://www.vatican4k3d.com/

▼関連記事▼
(ライターブログ)【映画の中のアート #8】『みんなのアムステルダム国立美術館へ』〜集団肖像画を生み出したオランダならではの狂騒曲
(ライターブログ)【映画の中のアート #9】『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』F・ワイズマン監督の映し出す美術館

トラックバック URL(管理者の承認後に表示します)